第16話
緩みそうになる唇を一文字に引き結び、沙羅は顔を上げた。
「ふたりが、付き合っている証拠もないのに、それを信じろというの? ただ単に、政志さんに片思いをしている片桐さんの
虚言癖を疑われ、片桐は沙羅へ憎悪の籠もった瞳を向けた。
「いえ、確かに政志さんとわたしは愛し合っています。その証拠にわたしのお腹には、政志さんの赤ちゃんがいるんです」
片桐は、妊娠を誇張するように、わざとらしくお腹に手をそえた。
”赤ちゃん”と聞いて、沙羅はヒュッと息を飲み込んだ。膝の上に置いた手をギュッと握り込み、気持ちを立て直す。
そして、片桐を見据え、一気に言葉を吐き出した。
「それが本当なら、あなたと政志さんが愛し合っている証拠を見せてください」
その言葉に片桐は、ふふんと鼻を鳴らし、スマートフォンを操作して、写真ホルダーを呼び出した。それを沙羅の方へスマートフォンを差し向ける。
「いくらなんでも、愛し合っている姿を見せるのは、お気の毒かと思っていたけど、証拠、証拠と言われたらしょうがないですよねぇ」
そう言った片桐の顔は勝ち誇り、口元が醜く歪む。
政志が上半身裸で眠っている写真から始まり、ベッドの中で裸のふたりがシーツに包まりポーズをとっている写真、果ては行為中の写真まであった。
カランと氷が音を立てる。アイスコーヒーのグラスが汗をかき、テーブルの上に水滴が溜まっていた。
片桐のスマートフォンを握りしめたまま、呆然と写真を見つめる沙羅に向かって、片桐は本性剥き出しで言葉を投げ掛ける。
「だからオバサンは、政志さんと早く別れてください。政志さん、オバサンが別れてくれないって、困っていましたよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます