第16話

緩みそうになる唇を一文字に引き結び、沙羅は顔を上げた。


「ふたりが、付き合っている証拠もないのに、それを信じろというの? ただ単に、政志さんに片思いをしている片桐さんの虚言ウソかも知れないわよね」


虚言癖を疑われ、片桐は沙羅へ憎悪の籠もった瞳を向けた。


「いえ、確かに政志さんとわたしは愛し合っています。その証拠にわたしのお腹には、政志さんの赤ちゃんがいるんです」


 片桐は、妊娠を誇張するように、わざとらしくお腹に手をそえた。


”赤ちゃん”と聞いて、沙羅はヒュッと息を飲み込んだ。膝の上に置いた手をギュッと握り込み、気持ちを立て直す。

そして、片桐を見据え、一気に言葉を吐き出した。


「それが本当なら、あなたと政志さんが愛し合っている証拠を見せてください」


その言葉に片桐は、ふふんと鼻を鳴らし、スマートフォンを操作して、写真ホルダーを呼び出した。それを沙羅の方へスマートフォンを差し向ける。


「いくらなんでも、愛し合っている姿を見せるのは、お気の毒かと思っていたけど、証拠、証拠と言われたらしょうがないですよねぇ」


そう言った片桐の顔は勝ち誇り、口元が醜く歪む。

政志が上半身裸で眠っている写真から始まり、ベッドの中で裸のふたりがシーツに包まりポーズをとっている写真、果ては行為中の写真まであった。


カランと氷が音を立てる。アイスコーヒーのグラスが汗をかき、テーブルの上に水滴が溜まっていた。

片桐のスマートフォンを握りしめたまま、呆然と写真を見つめる沙羅に向かって、片桐は本性剥き出しで言葉を投げ掛ける。


「だからオバサンは、政志さんと早く別れてください。政志さん、オバサンが別れてくれないって、困っていましたよ」

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