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第10話

「今日も暑いわね。気をつけて、いってらっしゃい」


いつもと同じ朝がやって来た。

慌ただしさの中、家族と朝食を済ませた沙羅は、政志と美幸を玄関で見送った。

やっと、ひとりの時間だ。


「さあ、やりますか」


エアコンを消して、風通しのために家中の窓を開け放つ。

蝉の鳴き声が、いっそう大きく聞こえ、思わず顔をしかめた。


「蝉の声で、余計に暑いわね」


首からタオルを掛けた沙羅は、作り付けのクローゼットを開ける。

むわっと籠った空気が動き、汗が吹き出す。それを肩に掛けたタオルで汗を拭う。


「ふぅ~、暑い、暑い」


湿気取りのパックを新しい物に取り替えてから、お目当てのボストンバッグを探し始めた。


「あれ⁉ 何の箱だっけ?」


枕棚の上にある小さな箱を見つけ、少しワクワクしながら蓋を開ける。箱の中身は、以前使っていた携帯電話だ。


「あー、この箱に入れたんだ。この機種、気に入っていたのよ。美幸が幼稚園通っていた頃で写真もいっぱい撮ったのよね」


カメラメーカーから発売された機種だけあって、写真が綺麗に写るのだ。それに辞書機能やレコーダーとしての機能も優秀だったのを思い出した。懐かしい気持ちも相まって、取り敢えず、携帯電話の充電を始めた。


直ぐに違うことを始めてしまうのは、探し物をしている時の悪いクセだ。

もしも、小説の単行本が出て来たら、目的も忘れて読みふけってしまうだろう。


「これだから、主婦はお気楽って、言われるのよね」


自虐的につぶやいて取り出したのは、帰省のための荷物を詰め込むボストンバッグだ。


「まあ、帰省も家族のお勤めだと思って、がんばろう」


埃を払うようにバッグをポンポンと叩いて、ふと視線を上げた。

 政志の背広が目に入り、クリーニングに出そうと思い立つ。ボタンやシミをチェックして、右のポケットに手を入れた。案の定、ハンカチが残っている。


「もう、いつも使ったら出してって、言っているのに」


文句を言いながら左のポケットに手を入れた。すると、出て来たのは、2枚のレシートだ。

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