3
第10話
「今日も暑いわね。気をつけて、いってらっしゃい」
いつもと同じ朝がやって来た。
慌ただしさの中、家族と朝食を済ませた沙羅は、政志と美幸を玄関で見送った。
やっと、ひとりの時間だ。
「さあ、やりますか」
エアコンを消して、風通しのために家中の窓を開け放つ。
蝉の鳴き声が、いっそう大きく聞こえ、思わず顔をしかめた。
「蝉の声で、余計に暑いわね」
首からタオルを掛けた沙羅は、作り付けのクローゼットを開ける。
むわっと籠った空気が動き、汗が吹き出す。それを肩に掛けたタオルで汗を拭う。
「ふぅ~、暑い、暑い」
湿気取りのパックを新しい物に取り替えてから、お目当てのボストンバッグを探し始めた。
「あれ⁉ 何の箱だっけ?」
枕棚の上にある小さな箱を見つけ、少しワクワクしながら蓋を開ける。箱の中身は、以前使っていた携帯電話だ。
「あー、この箱に入れたんだ。この機種、気に入っていたのよ。美幸が幼稚園通っていた頃で写真もいっぱい撮ったのよね」
カメラメーカーから発売された機種だけあって、写真が綺麗に写るのだ。それに辞書機能やレコーダーとしての機能も優秀だったのを思い出した。懐かしい気持ちも相まって、取り敢えず、携帯電話の充電を始めた。
直ぐに違うことを始めてしまうのは、探し物をしている時の悪いクセだ。
もしも、小説の単行本が出て来たら、目的も忘れて読みふけってしまうだろう。
「これだから、主婦はお気楽って、言われるのよね」
自虐的につぶやいて取り出したのは、帰省のための荷物を詰め込むボストンバッグだ。
「まあ、帰省も家族のお勤めだと思って、がんばろう」
埃を払うようにバッグをポンポンと叩いて、ふと視線を上げた。
政志の背広が目に入り、クリーニングに出そうと思い立つ。ボタンやシミをチェックして、右のポケットに手を入れた。案の定、ハンカチが残っている。
「もう、いつも使ったら出してって、言っているのに」
文句を言いながら左のポケットに手を入れた。すると、出て来たのは、2枚のレシートだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます