三姉妹が核戦争に巻き込まれ最後は死ぬ話
@knowmesow
1章:トラクターとミートローフ
《K-FDR 91.7FM/朝のトーク番組 “Wheat & Weather” より》
“……よう、おはよう。風に寝癖を持ってかれたって顔してるな、そこの君。今朝もK-FDR、91.7でお届けしてるぜ。“ウィート・アンド・ウェザー”、しゃべってるのはサム――テキサス出身、プレイリー定住、朝はブラックコーヒー派のオヤジだ。
さて、カンザスの春は、あいかわらず気が利かん。陽は昇るのに空気は冷たいし、地面からはぬかるみが顔を出す。田舎道のドロ跳ねで、今朝も洗車場が盛況だったろうな。俺? もちろん洗ってないよ。雨がまた降るって言ってたからな。
草が芽吹いて、窓の隙間から土の匂いがするようになるこの季節――思い出すのは、牧草の刈り入れでもなければ、恋でもない。
思い出すのは「ラジオの音」だ。
ガレージで親父が直してたラジオから、がさついた声でニュースが流れてたっけ。東側と西側がまた何かでもめてるって話。
大人たちは真顔で聴いてたけど、俺にはよくわからなかった。あの頃からずっと、世界は“話し合いながら睨み合ってる”。この調子で何十年続いてるんだろうな。
今朝も、ワシントンの方じゃ冷たい会談。向こうの首脳は握手しながら目を合わせなかったらしい。どっちが先に言葉を濁したかで評論家が大騒ぎしてる。はたから見れば、まるで中学生の口げんかだ。
東の海では艦艇がにらみ合い、西の砂漠じゃ核の影がちらついてる。ああ、いつもの春さ。桜は咲かないが、緊張だけは毎年欠かさず咲く。
でも、ここカンザスは今日も変わらず、麦の種が風に揺れてる。遠くの空がきな臭くても、こっちの空は青い。
空が広すぎて、ニュースの音が遠くに聞こえる――そんな朝が、俺はわりと好きだ。
あ、そうそう。昨日リスナーのジョシュから便りが届いたよ。
「娘が学校の授業で“非常時の避難訓練”をした。なんだか不思議な気持ちです」ってな。……うん、わかるよ。
昔は地震でもハリケーンでもなかった。机の下にもぐる理由が“落ちてくる爆弾”だった時代が、ちゃんとあった。
でも、俺たちは今日もここにいる。爆発音じゃなく、コマツグミのさえずりを聞いてな。
気がつけば、あの渡り鳥たちも戻ってきた。どこから飛んできたのか知らんが、たいした根性だよ。戦火をくぐってきたのかもしれないな。
さて、そんな朝にぴったりの一曲をかけようか。ジョーン・バエズで “Diamonds & Rust”。
春の風に乗って、少しだけ遠くの記憶が戻ってきたら、それも悪くない。
今日もいい日を。Stay tuned.”
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