断頭台のピアニスト

椋鳥

第1話 断頭台のピアニスト

「嫌だ」死刑執行の日、僕は断頭台の前に居た。


 一人また一人と僕の前の人が減っていく。何か考えるよりまず、その事実が重たかった。


 ついに僕の番がやって来るのではないか?これまでの人生に何ら後悔は無いのに、知らず知らずの内に汗をかいていく。


「なるよ」久しく忘れていた感覚が、戻ってくるようだった。死んでもならないと決めたそれに、僕はなるしかない。あの、どうしようもなく億劫な時間を、僕は他に知らない。


 僕は、ピアニストが嫌いだった。あのひたすらに才能だけが存在する空間は、どうしても好きになれない。


「だから」なるって、言ってるだろう?仕方ないとかじゃない。なりたくなんかないわけないから、僕はなるんだ。


 けれど、手足の拘束が解かれることは無かった。案外そのほうがいいかもしれないと、その時思った。


「いいや」ならなくていいのなら、それでいい。断頭台との距離が、段々と縮まっていくとしても。


 そのわずか数秒後、断頭台から音が鳴り響いた。

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