第6話:商業ギルドでの取引

 商業ギルドの登録が完了し、商業ギルドの説明を受けた俺は、早速手持ちの塩、胡椒、砂糖の取引を持ち掛けることにした。


「では、早速ですが、取引の話をしたいんです。手持ちに塩10キロ、胡椒10本、そして砂糖10キロがあるんですが、これらを取引できる担当者を紹介していただけますか?」


 俺が話を切り出すと、ギルド職員は少し驚いたように目を丸くした。塩、胡椒、砂糖といった香辛料はこの世界では貴重な品だ。


 そのため、普通の商人がこれだけの量を持ち込むこと自体が珍しいのだろう。


「塩、胡椒、そして砂糖ですか。それはかなり貴重な品々ですね。特に胡椒は、国内でも貴族や富裕層にしか手が届かない代物です。すぐに担当者をご紹介いたしますので、少々お待ちください」


 職員は丁寧に一礼して奥に引っ込んだ。異世界でも、塩や砂糖は重要な交易品だということを知っていたが、こうして取引を切り出すと、今後の展開が大きく変わりそうな予感がする。


 特に胡椒の市場価値は高い。これは大きな取引になるかもしれない。


 待っている間、俺は手にしたギルド証を見つめながら、この世界での商売の可能性を頭の中で整理していた。等価交換で手に入れた現代の物を、この世界での価値に変えていく。


 それがどれほどの利益を生むかはこれからの取引次第だが、まずは少量から始めて、慎重に進めるべきだ。


「お待たせしました」


 職員が戻ってきた。隣には中年の男性が立っており、彼は落ち着いた笑みを浮かべていた。見た目からして、経験豊富な商人か、それとも取引担当者といったところだろう。


「こちらは我々の商業ギルドの取引担当者、マルコスさんです。彼が今回の取引を担当いたします」


「タケルと申します。よろしくお願いします」


 俺は軽く頭を下げた。マルコスは俺に視線を向け、少し観察するような表情を浮かべてから、口を開いた。


「初めまして、マルコスと申します。あなたが今回、塩と胡椒、砂糖を持ち込んだ商人の方ですね。これほどの品を一度に提供するというのは、なかなか珍しいことです。どのような経緯でこれらの商品を手に入れたのか、お話をお聞かせいただけますか?」


「はい。今回、10キロの塩、50グラム瓶10本の胡椒、そして10キロの砂糖を取引したいと考えています。それぞれ高品質なもので、安定供給も可能です。どれも市場での需要が高いことは存じておりますが、初回取引ですので少量から始めたいと思っています」


 マルコスは頷きながら、少し考えるように顎に手を当てた。


「塩と砂糖はともかく、胡椒となると相当な高値がつく品です。その品質を確認させていただきたいのですが、もしタケルさんが言うように安定供給が本当に可能であれば、かなりの利益が見込めるかもしれません。まずはその商品を確認させてもらってもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


 俺は持っていたサンプルをマルコスに見せた。彼は一つ一つ丁寧に品を確認し、特に胡椒の瓶をじっくりと見つめた後、香りを確かめるように少しだけ開けた。


「これは……かなりの品質ですね。胡椒としては香りが非常に強い。これなら市場でもかなりの高値がつくでしょう。塩と砂糖も申し分ありません。この量での取引であれば、まずはギルド内の市場で販売することになりますが、すぐに買い手がつくこと間違いないでしょう」


 俺は安堵しながらも、その言葉を聞いて少し胸が高鳴った。この世界での最初の取引が、思っていた以上に順調に進みそうだ。


「では、具体的な取引価格と方法について、話を進めましょうか」


 マルコスの言葉に頷きながら、俺はこの異世界での商人としての第一歩を確実に踏み出すことを感じていた。


 マルコスが胡椒を手に取りながら、真剣な眼差しで俺を見つめた。


「さて、あなたが持ち込んだ胡椒ですが、市場では1本あたり1,500クラウンで取引されていることはご存知でしょうか? 塩や砂糖に比べても、胡椒は特に貴族や富裕層の間で非常に高く評価されています。香辛料の中でも特に貴重なものですので、これを安定的に供給していただけるのであれば、さらに大きな取引につながるかと思います」


 彼の言葉を聞いて、俺は事前に調べていた市場価格と照らし合わせながら、どう切り出すかを頭の中で整理した。


 塩や砂糖はそれほど高価ではないが、胡椒は異世界でも「黒い金」として知られる品だ。市場価格を知っていた俺は、ここでしっかり交渉しなければならないと感じていた。


「ええ、もちろんです。胡椒の市場価値は承知しています。ただ、私は安定した供給を約束できる立場にあります。この品質の胡椒を、今後も定期的にお届けできるのは大きな強みだと思うのですが、どうでしょう?」


 俺は、言葉に重みを持たせるように丁寧に言った。供給の安定性を強調することで、価格の交渉に少しでも有利な立場を築くことが狙いだ。マルコスは少し眉を上げ、興味深そうに頷いた。


「安定供給とは、興味深いですね。確かに、胡椒は定期的に手に入るものではありません。それが可能であれば、我々ギルドとしても大きなメリットとなるでしょう。しかし、その分コストも伴うことと思います。現時点で市場価格の1,500クラウンは非常に高い水準です。あなたが希望する価格はいくらでしょうか?」


 マルコスの質問に対して、俺は一瞬考えた。市場価格より高く提示するのは無理があるが、安定供給という武器を持っている以上、少し強気に出ることもできる。


「胡椒1本あたり1,700クラウンでの取引を希望しています。それに加えて、塩は1キロ100クラウン、砂糖は1キロ500クラウンでお願いしたいと思います」


 俺は市場価格に基づいて、少し強気な金額を提示した。特に砂糖は、この世界ではかなり高価な商品として扱われていることがわかっていたので、慎重に価格設定をした。


 市場に安定供給できることを示すことで、価格交渉を有利に進めたいという考えがあった。


「理由としては、もちろん品質の高さ、そして定期的な供給が可能という点です。今後も安定してこれほどの量を提供できる商人はなかなかいないでしょう。これが我々双方にとって有益な取引になると考えています」


 マルコスは俺の話を聞きながら、再び胡椒の瓶に目をやり、香りを確認するようにしていた。そして、しばらく考え込んだ後、静かに頷いた。


「確かに、あなたのおっしゃることにも一理あります。安定供給が可能であるという点は非常に大きなメリットです。しかしながら、1,700クラウンという価格は少々高く感じられます。少しだけ妥協して、1,650クラウンという価格ではいかがでしょうか?」


 俺はその提案を受け、軽く唇を噛んだ。マルコスの出した条件は決して悪くない。ここで強引に交渉を進めるのは悪手だと思い、1,650クラウンの価格で折り合いをつけるのが現実的かもしれない。


「わかりました。胡椒1本あたり1,650クラウンでの取引で合意しましょう。ただし、今後も継続的な取引をお願いできるのであれば、こちらも安定供給を約束します」


 俺は手を差し出し、マルコスは微笑みながら握手を交わした。


「よし、それで決まりですね。あなたが持ち込んだ品々は、間違いなく市場で高値がつくでしょう。特に、塩と砂糖は需要が非常に高いです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。」


 マルコスとの握手を交わした後、俺はふと次のステップを考えた。今後も安定した取引を続けることで、商人としての地位を確立できるかもしれない。そこで、俺は続けて話を切り出すことにした。


「ところで、マルコスさん。今回の取引がうまくいったようで、私としても嬉しく思っています。今後ですが、週に一度、今回と同じ量の塩、胡椒、砂糖を納品することが可能です。そちらでの需要を見ながら調整することもできますが、定期的な供給が必要であれば、ぜひご検討いただきたいのですが」


 俺は慎重に言葉を選びながら提案をした。安定した取引を継続することが、互いに利益をもたらすはずだ。


 マルコスは少し考え込みながら、俺の提案に耳を傾けていた。そして、ふっと軽く笑みを浮かべて口を開いた。


「週に一度、同量の納品というお話ですね。それは非常に魅力的な提案です。もちろん、こちらとしても需要に応じて安定的に供給していただけることは大変助かります。ただ、もし供給量が増加するような場合には、こちらから増量のお願いをさせていただくこともあるかもしれません。その点も含めてご検討いただければ幸いです。」


 マルコスの提案に頷きながら、俺はその通りだと思った。定期的な供給が可能なら、増量の要求が来ることもあるだろうし、それに応じられる体制を整えることが商売の成功には必要だ。


「もちろん、増量にも対応できるように準備を整えておきます。今後とも、よろしくお願いします」


 再び手を差し出すと、マルコスは再び笑みを浮かべて握手に応じた。


「こちらこそ、今後ともよろしく頼みます、タケルさん」


 そして、俺たちは今回の取引金額の最終確認に入った。


「さて、今回の取引についてですが、塩10キロで1,000クラウン、砂糖10キロで5,000クラウン、そして胡椒10瓶で16,500クラウンとなります。合計すると22,500クラウンですね。君にとって初めての取引にしては、なかなかの金額だと思いますよ」


 マルコスがにっこりと微笑みながら金額を確認してくれた。俺はその額を聞いて、内心でほっとした。これは、予想以上の成果だ。現実的に考えれば、この金額で今後の商売の基盤をしっかり築ける。


「ありがとうございます。22,500クラウンですね。これで一歩、前進できました」


「では、週に一度の納品を楽しみにしております。今後の取引もお互いに良い形で進めていけることを願っています。どうぞよろしくお願いいたします」


 こうして、俺は商業ギルドとの初取引を無事に成功させ、定期的な納品契約も成立させることができた。この取引は、俺の商人としての道を大きく切り開く一歩となった。



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本日の6話目


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