第8話 神聖樹教会
「日本人……」
朝田咲希と名乗った彼女から、俺は会って早々衝撃の事実を告げられた。
「どういうことなんですか? 何で俺たち以外に日本人が……」
「島ヶ崎高校立てこもり事件」
俺の疑問に対して委員長が答えたのは、十年程前に関東の高校であった立てこもり事件の名前。
確か警察に追い詰められた犯人が、生徒数十名を殺害したという悲惨な事件だったはず……
「ってまさか……」
「はい、そう呼ばれているのは知りませんでしたが、私はその殺害された生徒のうちの一人です。私を含め、殺害された生徒達は、あの神によってこの世界に召喚されたんです。日本では十年ほど経っているようですが、この世界ではまだ3年前のことです」
となると、サキさんの他にも日本人が……
「ということは、サキさん。他のクラスメイトもこうの世界に?」
しかし、サキさんはそれを聞くと首を横に振って俯き。
「私以外のみんなはもう……」
どうやら聞いてはいけない質問だったようだ。
何だかとても申し訳ない。
「ごめんなさい。初対面でするような話じゃなかったわね……」
「いえ、いいんです。それに、それが今回私がここを訪れた理由でもあるんです。みなさんは祝福という力を持っていますよね?」
「ああ、この世界の生物はとても強力だから、この力がなかったら、俺たちも今頃サキさんの仲間みたいに……」
「おいレイジ、そんな言い方は……」
「あっ、ごめん。そういうつもりじゃ……」
「いえいえ……気にしないで下さい」
レイジが思わず口を滑らせるが、サキさんは別に気に留めてはいない様子なのでよかった。
「まあでも、それならあの神が、二回目に召喚させる俺たちにこの力を与えたのも納得できる」
「いえ、祝福は私達も全員所持していました」
「えっ……」
「全員がその強力な力を使うことができ、始めは順調にこの世界で生活をしてきたんです。この世界での生活に慣れた頃、私達は世界樹を目指して旅をすることになったんです。しかし旅は難航し、その内死者も出始めました。一人、また一人と減っていき、気がついた頃にはもう……私しか残っていませんでした」
「そんな……これだけ強力な力があるのに……」
「それだけ、この世界は過酷で残酷なんです」
サキさんの語った事実を、俺たちは信じられずにいた。
思い返して見れば、神はこの力について「この世界を生き抜く為の力」と言っていた。
決して「楽をしろ」と言っていたわけではない。
そう思うと、俺たちは慢心していたのかもしれない。
強力な力のおかげで自分たちは強いと思っていた。
しかし現実、この世界ではこれでギリギリ。
むしろ足らないくらいなのかもしれない。
これは反省だな……
「私ももう少しでこの命を落とすところでした。ですが、私は幸運なことにある人たちに救われたんです。私はその人たちに居場所を用意してもらい、今日まで生きてこられました。私はもう……大切な仲間達が死んでゆく姿をもう見たくはないんです……」
彼女は何かを思い出したのか、苦しい表情で必死に俺たちに願った。
「だからこそ私とともに、『神聖樹教会』へ来ませんか?」
「神聖樹教会?」
「神聖樹教会っていうのは、この世界の世界樹を信仰する組織のことらしいぜ?」
その後、レイジから簡単な説明を受けて、その内容をまとめると、神聖樹教会というのはこの世界へ召喚されたさまざまな世界の人々を保護し、異なる世界の人々が共存できる未来を目指して活動をしているらしい。
これまでの話を聞いてきた感じ、このまま俺たちだけで生活しても、あまりいい結果にはならない。
保護が得られて安全が確保できれば、この世界での生存率も大幅に上がる。
いつかは世界樹を目指すとして、今は保護されるというのも悪くないのかもしれない。
委員長は少し考えこんだ後。
「わかりました。ではこちらからも――」
「待て……!!」
委員長がサキさんへ返答を返そうとした直前、先程まで大人しかった筈のガルムが、声を荒げてそれを制止する。
「異世界の者たちの保護? 笑わせるな! 奴らはあらゆる世界の技術や力を集め、この世界を手中に収めんとする邪教……世界樹を崇拝などしていない! だからこそ、奴ら……神聖樹教会の元に言ってはだめだ!!」
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