第7話 先客

「あれだな……」

 ユウジと狼たちが激しい戦闘を繰り広げていた頃、委員長早水率いる調査隊は、先日目撃されたという人工物の調査へと向かっていた。

 森を抜け川に沿って下流へと進んでいくと、彼らは例の人工物を発見した。

 まず目に入ったのは四階建てのビル程の大きさのある純白の塔。

 先端にかけて、尖るように作られており、とても自然に形成されたものには見えない。

 また、その周りには小さな民家らしき建物も見られ、建築方法自体は様々ではあるものの、そのすべてが整理されたように建てられ一切の無駄がなく、あの塔と同じように白塗りにされていた。

「あれは集落でしょうか……?」

「みたいですよ。ほらあそこ」

 委員長の問いに対して、レイジが指をさした先には、純白のローブを羽織った人々が集落の中を行き交う様子が見て取れた。

「なんだぁ……ありゃ。ちとばかし不気味じゃねぇか?」

「それでも、あの人たちと接触してみる価値はあります。何が起きるかはわかりませんから、警戒していきましょう」

 二列に隊列を組み、集落らしき場所の入り口に歩いて向かう。

 相手に警戒されないよう、武器はなるべく隠して持っていく。


 そして、白いローブを羽織った彼らに近づくと、数名がこちらの存在に気が付いてゆっくりと迫ってくる。

「こんにちは。私達は……」

「が9うvしゅいうhぢるvぞsgvべいgしh……bこあぶえbこ?」

「えっと……」

「うbっヴbしうをあいbぢvchvzkh……」

 彼らは何かこちらに向かって会話をしようとしているのか、身振り手振りも加えながらコミュニケーションを試みるが、あまり伝わっている感じではない。

 しかしその時――

「懐かしいい言葉ですね。日本語を話せる方とお会いするのはいつぶりでしょうか……」

 白いローブを被った集団中から一人、日本語を話す者がこちらに歩み寄ってきた。

「あなたは……」

「私の名前は――」


     *


「なるほどね……ここはもともとアンタらの縄張りで、勝手に住み着いた俺たちを追い出そうと集落を襲ったと……」

「その通りだ。しかし別に君らを殺そうとは思っていなかった」

 調査から帰ってきた早水委員長やレイジによって、俺たちは被害状況とこうなった経緯を説明させられていた。

「確かに被害自体は小さくはないけれど、俺たちにとってこの右も左もわからないような世界で、協力してくれるやつがいるっていうのはかなり大きいいと思うんだ。だからこそ今回の件に関しては不問にしてはくれないか?」

 俺の説得もあったおかげか、委員長は少し考えこんだ後。

「……わかりました。確かに悪い話ではなさそうです。それを認めましょう」

「感謝する」

「ただし、もしまた我々を襲うようなことがあった場合、その時は――」

「承知している」

 こうして、何だかんだあったガルムの騒動は、割とあっさり解決してしまったのだった。


「ユウジ、少し気になっていたことを尋ねてもいいか?」

 話し合いが終わると、ガルムは俺に対して唐突にそんなことを言う。

「ああ、別に構わないけど……」

「お主、いや、君らは本当に人系の種族なのか?」

「どうも何も……」

 質問の内容は俺を見ればすぐに分かるだろうというようなものではあったが、ガルム本人の表情は至って真剣だった。

「初めてお前を見た時、私はお前をただの雑魚だと認識した」

「酷くね?」

「事実だろう? 実際、私の部下達に相手をさせたところ、やはり大した実力は持ち合わせていなかった。だが、お前は部下達との戦闘の中で信じられない成長を遂げ、一気に部下達の力を凌いだ。それは私との戦闘の際も同様で、お前が一太刀振るう毎に、その速度や力は上昇し続けた」

 確かにあの時、妙な感覚を覚えた。

 今思い返して見れば、高く飛び上がったり、アイツらの巨体を吹き飛ばしたりなど、俺の動きは若干人間離れしたものだったのかもしれない。

「もしかすると、それが茅野君の祝福なのではないか?」

「ぎふと……? なんだそれは?」

「ガルムさん、私達はそれぞれ祝福と呼ばれる特殊能力を保有しているんです。今まで茅野君だけはその力が何なのか分かっていませんでしたが、もしかすると……」

「うん……話を聞いた限り、それが祝福の力なら多分ユウジの能力はおおよそ……『鍛錬や戦闘で得た経験値を通常の何十倍、いや何千倍にして受け取れる』みたいな力なんじゃないかな? ユウジがガルムさんと戦ったのはまだ一度きりだけど、ユウジの肉体は何倍もの経験を獲得している。割と辻褄は会うんじゃないかな?」

 レイジの話を聞いて、俺は確かにと感じた。

 俺の身体能力は戦いの最中に大きく成長した。

 それに祝福の能力はレイジなら才能、早水委員長ならメンバーの統率のための情報網など、所持者の憧れやその特性が影響しているものが多い。

 だとするならば、努力で全てを解決してきた俺の祝福が、そんな能力であってもおかしくはない。

「これでやっと……俺も役に立てる……!」

「頼りにしてるぜ!」

 嬉しかった。

 今まで何もできなかった現状をこれで変えられる。

 この力で変えてみせる……!

 俺はそう心に硬く誓った。


     *


「あ、そうそう。実は調査に行った人工物について何だが……」

 レイジの口から語られたのは、人工物の正体がこの世界の住民によってつくられた集落であったこと。

 そこにいた人たちには、日本語が通じなかったものの、その中で一人、唯一日本語を話すことのできる人物がいたこと。

 そしてもうしばらくすると、その人物がここを訪ねに来るということなのだが……

「おっ、来た来た」

 そう言ってレイジが指差した先に、こちらへゆっくりと歩いて来る一人の人影を発見できた。


 全身を純白のローブで包み込み、フードを深く被っているので素顔は分からないが、体型などからおそらく女性だろう。

 こちらに近づいてくるにつれて、彼女の身長はおそらく170後半の俺よりも一回り小さいことがわかった。

「こちらがレイジさんたちの集落ですか?」

「ああ、そうだぜ。因みに調査隊にはいなかったが、こいつは茅野ユウジ。俺にライバル兼親友だ」

 初めて声を聞いた感想はシンプルに『綺麗だな』と思った。

 その一言に尽きるような優しくて透き通った声だった。

「初めましてユウジ君」

「えっ、あ……うん」

 彼女が被っていやフードを取るとその下からは、純粋な黒色でひとまとめにされた長髪と、凛とした顔立ち、美しい白色の肌をした一言で言ってしまえば美少女が現れた。

「私の名前は朝田咲希、貴方達よりも少し早くこの世界に召喚されたあなた方と同じ日本人です」

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