弱虫男子のメイドバトル生活~男の僕がなぜかメイドになって、あげくの果てにハーレムを作っちゃいます~
@mukibutu
第1話
四月。青春の風が吹く季節の中、僕は目の前の校長から突拍子もないことを言われる。
目の前の校長の背丈は140にも満たないほど小柄。悪い意味で子供っぽい、いい意味で若々しい。メイド服を着るならこの人の方が似合うのでは、とか言ってる場合じゃない。
体は椅子の上で拘束。背後にはヤバそうな武器を持ったメイド二名。
ただいま絶賛、命の危機というわけだ。
そして男の僕にメイドになれとかいう意味不明な命令。メイドって男でもなれるのだろうか?
いったいどうしてこんなことに……
自分の死期が迫ってくるのを感じながら、現実逃避するようにここに至るまでの経緯を思い起こしていった。
―――
「シュートッ!はい顔面直撃ッ!」
「ははっ!尾花うますぎッ!」
昼休み、長い授業が終わり生徒たちは各々自由を満喫するであろう時間帯。が、僕にとってそんな時間は存在しなかった。授業が終わるや否や、学校裏に呼び出され、的あてにされる。
たった今も顔面にシャレにならない威力のシュートを決められ、鼻から鉄の匂いが広がっていく。
「うっわ、鼻血出してんだけど、きっっっっっっっっっっっっしょ!」
「お前がやったんだろうが、まあきもいのは事実だけどっ!」
どっ、と笑いが起こる。こちらを指さし捧腹絶倒する者もいればスマホで写真を収める者もいる。
「あっ、こいつ泣いちゃうんじゃない?泣くんじゃない?」
そんな彼らの中心人物は先ほど顔面にボールをねじ込んだ目の前の女子高生、尾花唯だ。日本人には不釣り合いなほど髪を金に染め、制服を着崩したりと完全な不良のような生徒だが、見た目が整っていることもありこうして素行の悪い男子たちをつき従えてる。
「どうした?泣いてもいいんでしゅよ~?気持ち悪く泣きわめいてもいいんでしゅよ~?」
「…………」
「なんとか言えよっ!」
尾花の鋭い足蹴りがみぞおちに突き刺さり、思わず地面に伏せてしまう。
入学してから間もないことだ。こんなことになったのは。
入学当初、廊下で通りかかった際、胸元を見られたなど尾花が僕に文句をつけてそのままリンチ。それからなにかと難癖をつけこうしてサンドバックにされてきた。
たしかに尾花の言う通り、廊下で胸元を見たというのは否定できない。が、下着が見えかねないほど尾花の制服は開かれており、さすがにびっくりして視線を傾けてしまったのだ。
もちろん、言われるほど凝視していたわけでもない。
なんとかやめさせようと大人たちに訴えかけようとするもぬかに釘。尾花はあんな見た目でも成績優秀、家は金持ちで先生達も何も言えないようだった。尾花の家が学校側に寄付しているというのも大きいのだろう。
一方で、僕は貧乏学生。差別は比較が悪性を帯びたもの。彼女たちにとって金がない僕はいじめるに格好の対象だったのだろう。
遊びもだんだんエスカレートしていき、次第にボールではなく直接蹴られるようになっていき、僕の体には少なくないあざができている。
体も心もとっくの昔に抵抗をやめ、無残な姿となっていく。
いよいよ尾花の足先が顔面にめり込もうとなったその時――
「ちょっと、なにやってんの?」
物陰から一人の女子生徒が顔を出す。程よく焼けた褐色肌に加えてすっ、と伸びた鼻先、パッチリとした瞳にに艶やかに光る黒髪。
「
尾花が突如として出てきた
「なにって、別にこいつと遊んでただけだけど?邪魔しないんでくんない?」
「遊んでるにしてはそこの子、ずいぶんケガしているみたいだけど?」
比志野江と尾花の視線が絡み合う。本当に火花が飛び交っているようだ。
僕と比志野江の接点は同じクラスという以外特にないのはずなのだが、僕のことを助けに来てくれたのだろうか?それをうれしく思う自分がいる反面、なぜだろうか、どこか否定的な自分がいた。
「なにお前?こいつのことが好きだったりするの?意外ね~、まさかあの比志野江さんにそんな趣味があるなんて」
「……それが事実であろうとなかろうとこんなことをする尾花さんよりはましだと思うけど」
煽情的な様相を纏う尾花に対し、比志野江はなんてこともないように返す。
尾花が一歩足を踏み出す。我慢の限界とでも言うように尾花が拳を握りしめ、いよいよ戦いの火ぶたが切られるかという時。
「なにやってんの、メグ?ケンカ?」
またしても女子生徒が現れる。
透き通るほど蒼の瞳、太陽のような金の髪をツインテールにまとめた美少女。
「べつに、ただの奉仕活動だよ」
「ああ、なるほどね」
そういうと助太刀するかのように彼女は比志野江の前に出る。すると尾花たちは一歩後ずさってしまう。
このシノンというハーフ美少女も比志野江と同じくらいなんでもありの美少女で前に地元のヤンキーを拳一つで制裁するほどの腕前とか。
「っち……」
さすがの尾花たちもやってられかとでも言うようにその場から去っていった。取り巻き立ちも消え、その場に残されたのは僕とこの美少女二人だった。
「だいじょうぶ?ではないよね。ケガもひどいし」
「…………ごめん」
「なんであやまるの?きみは悪くないでしょ」
比志野江がどこに持っていたのか包帯などを取り出し、軽い手当をしてくれる。
『ありがとう』
さっき口にしようとしても出てこなかった言葉。今も口に出そうとしているけどでない言葉。
助けてもらったのだろう。少なくとも昼休みにおけるいじめはこれで終わったはずだ。一安心するべき場面であるはずだろうに。どうして僕はここまで落ち込んで……
「にしても情けないやつ。泣いてばかりいないで少しばかりやり返しなさいよ」
すぱんっ、と頬をぶたれたかのようにその声は響いた。見ればシノンが見下すような眼でこちらを見ていた。『情けないやつ』というのはもちろん……
「ちょっとシノン、それは言い過ぎ。この子だって、好きでこんなことされてたわけじゃないし」
「だからってなによ。わたしたちがこなきゃそいついつまでもいじめられてたわよ」
――頭のどこかが割れていく。
「それにしてももうちょっと言い方があるでしょ」。前から思ったけどシノンはもうちょっと相手のこと考えた方がいいよ」
「知らないわよ。ただ助けられるのを待っていただけ、自分では何もしない、そんな人間になに言おうとも私の勝手でしょ」
立ち上がり、その場から走り去っていく。
「えっ、ちょっと!?まだ手当ては終わってないっ!」
追いつかれないように、逃げるように、学校の外へと逃げていく。
(畜生、畜生、畜生っ!)
体の痛みに苦しみながらも視界はうつろいで行く。
『ただ助けられるのを待っていただけ、自分では何もしない、そんな人間になに言おうとも私の勝手でしょ』
先ほどの少女の声が脳内で響く。
ああ、悔しい。悔しい。その通りだ。
自分ではなにもできない。ただ時間が過ぎるのを待っていただけ。助けが来るのを待っていただけ。
嫌いだ。こんなことを言われる自分が。
ああ、嫌いだ。女の子にこんなことを言われても尾花たちに仕返しの一つしようとも思えないほど臆病な自分が。
皮肉なほど太陽は地上を照り付けていた。
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