光る家【改稿版】

達見ゆう

第0話 ある「フィクション」

「あっつい、暑すぎる。東京より涼しいと期待していたのに。なんで暑いんだよぉ」

 大翔ひろとは畳に寝そべりながらスマホをいじりつつぼやいた。夏休みなので田舎の祖父の家に来ていたが、祖母が冷え性なのであまりエアコンを使いたがらない。だからエアコンの効いた部屋に移動して涼んでいるが、それでもトイレなどで廊下に出ると蒸し暑さがじわっと攻めてくる。

 正確には祖父母ではなく曽祖父母なのだが、詳しくは聞いていない。

「地球、どんだけ沸騰するんだよ……」

「まあ、そうぼやくな大翔。東京はもっと暑いぞ。今日の最高気温が三十八度だと。大阪は三十六度、京都も三十五度。それに比べればこっちはまだ三十二度だぞ。それに陽太おじさんと香月おばさんはこの炎天下で農作業しているぞ」

 父の大輝だいきが大翔をなだめるが大翔の不満は収まらない。

「八度も二度もそんなの大して変わらないよ。おじさん達は空調服など万全の対策しているし、友梨香おばさんは山に言ったし、母ちゃんは葉月さんと一緒にさっさと図書館へ行ったし。あーあ、僕もどっちかについていけば良かったかな」

 葉月は陽太と香月の子であり、大翔とははとこにあたる。少し年上のお姉さんだが、あまり会うことがない異性のはとこに、なんとなく意識というか遠慮してしまって大翔は家に残ることを選んでしまった。

「友梨佳おばさんについていくと鉱石採取で山に行かされるぞ」

「うーん、山のてっぺんの方が涼しい気がしてきた。山の上は涼しいよね」

「いや、頂上に目当ての石があるとは限らないからな。地味に山の途中の地面を見たり、時には壁にへばりつくようにある化石をハンマーを叩いて掘り出したりと結構アウトドアというか、肉体労働だな。父さんも若い頃、金運アップのパワーストーンでも拾えないかと付き合ったら、友梨佳おばさんは鉱石ガチ勢だからな。いろんな化石の発掘に山のあちこちを付き合わされて真っ黒に日焼けしたよ」

 大輝がちょっとからかうように言うと大翔はうーんとうなって悩んでしまった。

「えーと、やっぱり図書館行きにすれば良かった。怪談とか怖い本でも読んでさ。そういえば父ちゃんはこの辺に伝わる怪談とか何か知らないの?」

「怖い話か……。まあ、あの話もある意味怖い話にはなるが。父さんの昔話で良ければ聞くか? それに中学生のお前には少し早いが、ちゃんと話したかったことがある。母さんもいないから今のうちが良いかな」

「な、何? そんなに改まって。まさか、父ちゃん昔、何か悪いことしていたの?」

 父の態度に大翔は寝そべってはいけないようで慌てて起き上がった。スマホゲームのバトルは途中であったが、素材集めだから後回しでもいい。

「いや、悪いことではない、いや、考え方によっては隠していたから悪いことになるのか。とにかく、これから話すことは一部は母さんには話していない。じいちゃん達や陽太おじさん達も一部しか知らないことだ」

「な、なんだか怖い話なのか、家庭の重い話なのかどっちなんだろ?」

 大翔の疑問には答えずに父は淡々と話を続ける。

「父さんがまだ中学三年生の時の話だ。あの頃は高校受験や人生の転換期ともいえる年でもあった。その人生の岐路に立つきっかけにもなった話だ」

「もったいぶらないで、早く教えてよ」

 父は真顔のまま、大翔の目をじっと見て確認を取った。

「その前に一つ約束してくれ。じいちゃん達はもちろん、友人には絶対に話さないでくれ。もちろんSNSなどのネットにも書くな。ある人のために心にしまっておきたい。本当は墓の中まで持っていくつもりだった。

 しかし、父さんがお前を本当のじいちゃんとばあちゃんと会わせていない理由も含まれるからお前にだけは話しておきたい。

 ふむ、そうだな。とあるフィクションということにするか」

 実の祖父母の話と聞いて、大翔は身構えた。生まれてからずっと会ったことのない父方の祖父母。聞こうとすると父は不機嫌になり、母は困ったような顔をして『お父さんに許可もらわないと話せないから』とはぐらされ続けた。当然ここの曽祖父母にも聞けない。これからの話にそれが含まれるのか。怖い話というのはどういう意味なのだろう。

「わ、わかった。フィクションとして聞くよ」

 思ったよりも重たい話のようだが、話し方からして父が悪いことをしたわけでは無さそうだ。大翔は姿勢を正して聞くことにした。

「いいか、これから話すことはあくまでフィクションだ。名前もうちの家族以外は仮名とする。父さんの両親、つまりお前の実の祖父母は仲が悪くてずっと喧嘩ばかりしていた」

 父はゆっくりと、『あるフィクション』を語り始めた。

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