第5話:無自覚3人衆
手をつなぐというより、2人の手を掴んで僕はすぐさま教室を飛び出した。
そのまま学校を出て、さらに少し行ったところでやっと止まる。
「ぜぇぜぇぜぇ……」
「ちょ……急に走り出してどうしたの?」
「ん……びっくりした」
「びっくりしたはこっちのセリフだよおおお!!」
僕は肩で呼吸しながらも、お茶いる?と聞いてくる無自覚美少女2人に叫んだ。
不登校だったら手をつなぐってのがどういうことか忘れちゃうの!?
って、えいなはラノベよく読むから分かるでしょ……!!
あと、人前じゃなくても僕が耐えられないし……!
こ、これはちゃんと2人に伝えておかな──。
「……えへ、無理矢理だったけど、ちゃんと手握ってくれたから、嬉しい」
きりは顔を赤くしながらそう言って、髪を揺らしながら笑う。
「そーたの手……安心できる」
えいなも髪を指でいじりながらそう言う。滅多に動かないその表情も、僅かに口元が笑っていた。
そんな2人が──めちゃくちゃ可愛い。今、絶対顔赤くなってる……。
僕は頭をポリポリと掻き、2人の手を改めて握り直す。2人の顔を見る余裕は、僕にはなかった。
「……せめて、学校では言わないでください」
「学校じゃなかったら、またいい?」
「……まぁ……だめじゃ、ないけど」
「やた……そーた優しい」
えいなはそう言って、僕の手を握り返す。えいなの低い体温と柔らかい感触が伝わってくる。
「「やっぱりそーた(ん)は最高の親友っ!」」
親友……親友だもんな……。
これは別に、恋愛感情とかじゃないもんな。
◇◆◇
「──……あと1部隊!」
『そーたんそこの岩裏にいた気がする!』
『スキャン、入れる……!』
「ナイス!」
『2人いた!』
「3点当てた! 僕ポータル繋ぐから、なきりそれ通って一気に攻めよ! えーみは最後の敵が撃ってきたら撃ち返して!」
『『りょーかいっ!』』
僕となきりは戦闘が得意なので、一気に距離を詰める。
僕たちはかなり長い期間Apaxをやってることもあって、かなり上手い方である。今シーズンも全員マスターにまで到達している。
だが、その分マッチする相手もかなり上手く、今回は2人を倒すかわりになきりがダウンしてしまった。
『ごめん!』
『いやいやナイスナイス!! 最後の1人は──』
『……あっ、奥の建物にいる……! 私撃ちかえ──え』
「……ちょ、それはヤバくない……?」
身を隠しながら索敵していたえーみが、一瞬身体を出した瞬間、フルHPあったはずなのに、溶かされてしまった。
『……ヤバい、エイムがすごい……!』
『そーたんの場所多分バレてないから、甘えてきたところ撃とう!』
僕は最後の1人の動向に全力で集中する。
……………きたっ!
僕は少し身体を出して、一気に撃ちまくる!
が、相手はものすごいキャラコンで僕の弾丸を避けつつ、僕に撃ち返してきた。
そして──。
『うううう……!! 負けたー!』
「これ最後の人、さすがに強すぎない……? って、この名前……」
『わ……そうらさんだ……』
ま、マジかぁ……Apaxの世界チャンピオンだったんだ……それはさすがに勝てないわ……。
「そうだと分かったら、マッチングしただけでも嬉しいね……!」
『え……ちょっ……ほん、もの……?!』
なきりが今まで聞いたことないような声を上げている。
「そうらさんの大ファンだもんね、なきり」
『だって! あんだけ強くて可愛くてどんなゲームもできる、さいっこうのVTuberだよ!? はー、あんな配信者になりたいなぁ……』
「え、なきりって配信者になりたかったんだ?」
『ゲーマーたるもの、やっぱ憧れるっしょ!』
『教えて、あげよう……か?』
『また今度教えて欲しいな! えみりあちゃん!』
『むぅ……今は、えーみ』
そう、実はえーみは、MyTubeで『えみりあ』として活動している。
週に1、2回程度の配信頻度でありながら、バンバン敵を倒していく映像と可愛らしい声のギャップから、5万人ほどの登録者を獲得している。
ちなみに、えーみと仲良くなってから聞いたことだけどね。
サブ垢で練習してるときに仲良くなって、あとから『えみりあ』だと分かったときはすごい驚いたなぁ……。
なきりも配信者、かぁ……。
「プレイスタイルかっこいいし、なきりも声かわいいから人気配信者になりそうだね」
『か、かわ……っ』
『なきり、も……っ』
「さ、次の試合行こう!」
『『う、うん……!』』
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