勇者を目指す魔王の青年と、その青年に愛を囁く勇者の少女の話です。

新山田

第1話 魔王に堕ちる


────[太陽]の勇者に選ばれたのは、アウレリオだ。



「なぜだ!どうして俺でないのだ![太陽]の女神よ!どうしてだ!だれよりも研鑽を重ね、強さを証明したではないか!どうしてだ!」


太陽の神殿で行われた”勇者”の称号を授ける儀式において、

ローガンは選ばれなかった。代わりに優麗無双の騎士と名高いアウレリオが選ばれた。


その場にいたどの人物もアウレリオが勇者の印を授かるのは確信していたのでローガンのその醜態に眉をひそめた。


「もうよい、ローガン。聖騎士よ、この者を下がらせよ」


アルテミス教高位神官長ハルデラの言葉によって、

ローガンは取り押さえられ彼の夢である勇者への道は閉ざされたのである。




ローガンの人生は先ほどの時の為にあったといっても過言ではなかった。

だがその望みは絶たれ彼の見える景色は灰一色になっていた。



──何が足りなかった……剣の腕か、鍛冶の腕か、魔法の知識か、身体能力か、なにが……。



「あ、ここにいたか!」


神殿の外の黄金庭にて、

黄昏ていたローガンの背中に声が掛かる。


[太陽印]を授かった、アウレリオだった。


「ローガン、探したぞ!」

「なんのようだ……」

「いや、その、なんというか、いまの私が何を言っても嫌味に聞こえるかもしれないが本心から、ローガン、一番近くでキミの努力を見てきた僕だからこそ勇者に選ばれると思っていたと伝えたくてな……」


ローガンとアウレリオは学院と同じくする同輩であり、

互いに実力を拮抗させたライバルでもあった。

勝敗では同率、だが評判はアウレリオが群を抜いていた、


「……嫌味だな」

「うっ、やはりそう聞こえるか……すまない、こういう結果になったのは非常に残念だが……キミの分まで”勇者の責務”を果たしてみせるよ」

「…………」

「これから私は立食パーティーに出なくてはならなくてな、よければk──」

「いかない」

「……わかった」


この間、一度もローガンは、アウレリオに目を合わせなかった。


◇     ◇     ◇


アウレリオとしては、

彼を自分の率いるパーティーメンバーに加える意図があった。


実力もさることながら貪欲に勝ちにいく気概と、

勝つためにどんな知識も学ぶ姿勢に感銘を受けていたからだ。



……やはり、誘える雰囲気ではなかったかな、機を見てもう一度、話をしよう。



アウレリオは扉を開いた。


立食パーティー────[太陽印]を授けられた新たな勇者の顔を覚えてもらう目的と界隈の有力者とのつながりを作るための物であり、今後のアルテミス教の運営資金にかかわってくる重要な催しである。



「やっぱりローガンではなく、アウレリオ様が選ばれましたか!ふっふ、ミーシヤには分かっておりましたとも!!」


ない胸を張り、仁王立ちのポーズで迎えるはミーシア・イシェル・アルラウネ。

齢12にして神官補佐に辿り着いた聖射術アツィルトの天才である。


「何言ってんのよ…貴方、ぶるぶる震えていたじゃないですか。『ローガンが選ばれたらどうしましょう』って」

「むっ、で、でも、アリエナだって『あいつが選ばれたらあっしがこの手で殺して儀式をやり直させる』って物騒なこと言っていたじゃないですか!!」


アリエナ・エルム・フクトは聖騎士である。


故に言葉は乱暴に使ってはいけないし、

態度は常に正してなくてはいけない。が素の部分ではいまだ16歳の未熟者である。


「二人ともいけないよ、ここは公の場だからね。気を付けなくては……アウレリオも困ってしまうだろ」


爽やかで優しい笑顔を作る青年、ラドクリフ・ウライデ・クロシネが諭す。

この学術院時代からの面子ではいつも落ち着かせる役割をする退魔師エクソシストである。


「うん……そうだ、ね」

「どうしたんだい、キミらしくないね」

「ああ、実はさっき、ローガンをパーティーメンバーに誘おうと思っていたんだが……そういう雰囲気で無くてね」

「「ええ!?」」


ミーシヤとアリエナは驚きの表情と態度を見せる。


「そうなのかい……でもそれではこのなかで一人抜けなくてはいけなくなるんじゃないかな……」


ラドクリフの言葉に、不穏な雰囲気を感じるミーシヤとアリエナ。


「ああそれは──」

「さて!皆さま今日はお集まりいただきまこと──」


催しがはじまり会話は中断することになる。


「なんと遂に[太陽印]に選ばれました!アウレリオ・L・ゴールドさまです!」


◇     ◇     ◇


ローガンは考えた。



どうして、俺でなくアウレリオだったんだ……その理由だけでも知りたい。



との思いからだった。

場所は先ほどの授かりの儀式の間である。


誰もいない広間はローガンの足音以外聞こえない。


中央に設置された円形の大きな台座。

太陽の女神アルテミスが闇を払い世界を光で満たす旅の歴史が刻まれている。


その内に膝を立て祈りの態勢を取る。


「どうか俺の不相応なところを教えてほしい」


神聖な光の降臨も、神の声も聞こえない。



────ひ──との──こ──よ──この──こえは



「なんだ。なにを言っている」


実際に声が響いたわけじゃない。


だが確かにローガンには聞こえた。

その主を探すために立ち上がり声のする方に歩き出す。


神殿内部のさらに奥、

生活水と飲料水として使われる泉の祠。


この泉の底から聞こえるような気がしたローガンは一も二もなく飛び込んだ。


暗い底のはずがどこからかの光を受けているようだった。

淡く水色に輝く神秘的な空間の中で彼は息ができるのがわかった。



────声が聞こえますか、人の子よ。



「ああ聞こえる」



────私は名前はアルステラ。月の女神です。



「聞いた事のない神の名だな」



ローガンは神学も一通り学んでいたが一度の出てこなかった名前だった。



────私の名前などどうでもいいのです。あなたは”勇者”の印を求めているのでしょう。どうしてですか?



「それはこの世界に置いて”最強の印”だからだ。それがあれば世界を変えられる」



────どうして世界を変えたいのですか?



「決まってる、世界がクソだ。神を信じなければ救ってもらえないなんてそんな道理がまかり通る世界をひっくり返したい」



────ひっくり返したい……ですか。



「ああ、神に助けを請う奴は決まって弱者だ。だがそいつらから集めた金で権力を握り強者にすり寄る。そしてその権力を守るための力を求める……それが”勇者”の印だ。だがそれがどうする?利用するだけして捨てた弱者に”その力”が奪われれば奴らは泡を吹くだろうな、俺はそれが見たい……」



────なるほど、たしかにあなたには”勇者”は相応しくありませんね……



「ふっ、そうだな、自分でもそう思うよ」



────ですが、あなたが望むべくある”力”があります。



「?」



────”魔王”の力です。



「ハッ、いいねそりゃ、アルテミス教団も信じる奴を片っ端から殺して回れってか?」



────それはあなた次第です。”勇者”も”魔王”も所詮はただの力でしかない。その使い方は所持する者に寄ります。つまりは根源的に”魔王”の力であっても……



「……なるほど、使い方次第では”勇者”になると?」



────ええ。弱者を助け強者を挫けば、権威的に利用された”勇者”の名を落とし、”魔王”の力を持つ者が”勇者”と呼ばれることもあるかもしれません……いかがですか?



「なぜ俺にそんなことを……いやそんなことはどうでもいい。あんたにどういう意図があれこっちも利用させてもらうとするさ」



────ふふ、いいでしょう。それでこそ人の子。授けましょう、あなたに……。


祠の前にローガンは目を覚ました。


「これが”魔王”の……」


手の甲に刻まれた”印”。

そこから”力”が、確かに存在することを感じる。


ローガン──剣の扱いは武芸院随一であり、さらに貪欲に魔術、錬金術、鍛冶を学び、その狂気にも似た姿勢と、貧困家庭の出身である故の品の無さから”狂犬”と呼ばれ恐れられた少年は、その日ひっそりと”大いなる力”を授かった。


──────────────────────


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