有望株パーティー

 自己紹介を軽く済ませた幸隆たちは下の階層への階段を目指して魔物を倒しながら進んでいた。


 「ファストアロー!」


 ハーフアップの女、しおり つづりの牽制矢が狼の攻撃の出鼻を挫き、隙を生んだ。


 前線を張る、青年───安土あずち 桃李とうりとサイドダウンの女───楽日らくび 千秋ちあき、そして本堂 幸隆の三人と魔物たちとの間に十分な距離が維持され、それは僅かな時間とはいえ、十分な時間稼ぎとなった。


 「えい」


 トリガーワードを唱え終わっていた鬼一きいち すいの火系統魔術スキルが魔物の一行に降りかかる。


 焼かれた狼たちは長くきれいな毛をちりちりと焦げ付かせ、毛の薄い足などの部位には大きなやけどを残して、狼自慢の機動力を削ぎ落すことに成功した。


 先制で大きく形勢を傾けた幸隆達はその隙を見逃さず、前衛の三人で畳みかける。


 「【スラッシュ】!」


 「【スラスト】!」


 桃李が袈裟に切り、千秋が首元に切っ先を突き刺した。


 邂逅一瞬で一匹を葬り去った。


 しかし相手とて一方的にやられてばかりではない。


 攻撃後の硬直ですぐに迎撃に掛れない二人を狙い、一匹の狼が襲いかかろうと身を屈めた。


 「させない!」


 それを後方から察知した綴が即座に矢を射って阻止を試みる。


 しかし、既に矢を警戒している狼は二度も同じ手を食わないと僅かに体を横にずらして躱すと即座に攻撃に反転。


 ほんの一瞬、攻撃のタイミングがずれただけで、二人の迎撃は間に合わないが、なんとか身を守る程度の体勢には移行できている。


 どこに攻撃がくるか覚悟を決めて防御の姿勢を取った。


 「狂犬病が怖いでしょうが!!」


 「ギャウンっ!」


 飛び掛かった狼の頭に幸隆のチョップが入れられ、その場に叩き落とされた。


 ふざけたような攻撃に二人は少し呆けるも、チョップの形に大きくへこんだ狼の頭を見て息を飲んだ。


 「あ、ありがとうございます。助かりました」


 「噛まれなくてよかった。狂犬病は致死率100%で怖い感染症だからな。俺が猫派である理由の一端だ」


 「は、はぁ……ダンジョンの魔物で感染症って聞いたことないですけど」


 「それに狂犬病は犬だけの病気じゃなくて哺乳類全般がかかる病気だから猫も狂犬病に罹るんだよ?」


 「マジ?」

 

 幸隆の軽いノリにどう対処したらいいのかわからない桃李と、ピンチだったにも関わらずすぐに切り替えて、幸隆の行動を面白そうに笑う千秋。


 二人は二体の魔物の近くに最後の一体の死体を見て戦いが終わったことを察した。






 「本堂さんはかなり強いようですが、探索者になられて長いんですか?」


 「いや、全然。多分お前たちの方が先輩になるんじゃないか?」


 素人ではあるが、幸隆から見たら四人の連携はしっかりと取れているように思えた。


 それはデビューから一週間にも満たない幸隆では身に着けられるものでもないし、そもそもが杏とは臨時のパーティーで、その上無茶な動きに合わせてもらっている立場だ。


 連携力を見るだけで四人でそこそこ経験があることは幸隆にだってわかる。


 それに四人全員が使った探索者の代名詞、【スキル】。


 超常の力を容易に扱えるようになるその【スキル】を幸隆はいまだに得ることが出来ずにいるのだ。


 自分よりも後からデビューした後輩に【スキル】が発現して、先輩である自分が発現しないなんて恥ずかしいじゃないか。


 なんか治癒が馬鹿みたいに早いあれはパッシブだし、かっこよくないし、発現するとき特有の自覚症状も不思議となかったから幸隆の中ではノーカンだった。


 そういった見栄もあって幸隆は自分が後輩であろうといった。


 「僕たちはこれでも探索者になってずいぶんと早くこの階層に来れるようになったのでまだ経歴は浅いですよ?一か月とちょっとくらいですし」


 「受付のお姉さんには有望株だって太鼓判を押されるくらいなんだから。私たちすっごい優秀なんだよ?」


 千秋の自信満々のその表情に自分はそんなこと言われていないとムッとする幸隆。


 幸隆はこれでもなかなかのスピードで攻略階層を広げていっているがあの能面娘からそんな誉め言葉をいただいたことは一度もない。


 それどころかなにか変なものを見るかのようにじとーっとみられている。


 たまに俺のこと好きなのか?と意趣返ししてやろうかと思うこともあるが、おそらくその次に飛んでくるだろう氷の刃が怖くて口に出せないでいた。


 おそらく、先ほど同じようなキャラの無口少女(見た目)が放った本音の刃よりも恐ろしいと予想される。


 「ほえー、確かにそりゃすごい。有望株とか一度も言われたことないわ」


 「オレたちは高校からの付き合いで意思の疎通は他のパーティーに比べて一日の長があるからな。連携では新人の中で抜けている自信がある。得たクラスもバランスが良かったし、運が良かったわ」


 弓を担当するハーフアップの女の綴が慎ましやかな胸を張る。


 ツンツンとしてそうな女ではあるが情が篤そうだ。


 「……私は違う。探索者になってから出会った」


 「スイは付き合いの長さ関係なくオレたちの動きに合わせてくれる優秀な魔術師で大切な仲間だ。だからすねんなよ」


 綴はそう言って翠に抱き着いて頭をなでる。


 「……すねてない」


 子どものような扱いに不服な翠の頬が膨らんだ。


 「あぁかわいいっ……!」


 少しやばい表情の彼女の顔を見て、幸隆は変態を知った。


 「すみません……つづりはその、可愛いものに目が無くて、時々あんな感じになってしまうんです。だからそんな顔しないであげてください」


 幸隆は自分がどんな顔をしていたかわからないが、他人に諫められる程度にはドン引きが顔に出ていたのかもしれない。


 この美青年のハーレムパーティーとも思っていたが実はそうでもないのかもしれない。


 「それでゆっきーはどのくらいになるの?」


 ゆっきー?


 気の抜けるそのあだ名に気を取られたが、ギャルならさもありなんと受け流す。


 「ゆっきーは六日目だ」


 いや、割と気に入っていた。


 「千秋は年上の人にそんな簡単にあだ名なんて付けたら……って六日ぁ!?」


 桃李のディレイのかかったリアクションは少し面白かった。


 「え?マ?」


 「一週間も経ってないとか冗談だろ……」


 「……ちょっと驚いた」


 その三人のリアクションに気を良くした幸隆は歩くスピードを速めて四人の戦闘を歩き始める。


 一番やりは任せろと言わんばかりだ。


 「やっぱり上には上がいるもんだね。僕たちも有望株だって言葉に胡坐をかいてちゃだめだ。あの人を見習ってもっと強くならないと」


 「……」


 自分たちの持つ攻略記録を優に更新する男の登場に三人は気合を入れなおすように気を引き締めた。


 翠はその表情をあまり変えることは無いが、それを見てどこか寂し気な顔をしていた。


 「あぎゃっ」


 「……蜘蛛の糸で転んでいる人はあまり見習わない方がいい」


 調子に乗って足元が疎かになった幸隆はどや顔を真っ赤に変えてすごすごと戦列に復帰した。

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