食いつなぎ探索者〜隠れてた【捕食】スキルが悪さして気付いたらエロスキルを獲得していたけど、純愛主義主の俺は抗います。とりあえず気に食わない奴は殴って黙らせておこう～

初のゴブリン戦は毒の味

　最初に飛び出したのは金に目が眩んだ怖いもの知らず。

　幸隆が小学生程度の身長しかないゴブリンを殴るため腰だめの拳をゴブリンへと振るう。

　しかしゴブリンはそれを躱して横へと跳ぶ。

　狭い通路だ。

　杏と幸隆が二人並んで戦列を成せば横の間隔に余裕はなく、このゴブリンのように満足に動き回ることはできないだろう。

　「援護するわ！」

　しかし杏は弓を扱うことができるために幸隆のスペースを奪うようなことはしない。

　縦方向の戦列で敵を向かい討つ。

　彼女の矢は幸隆に襲い掛かろうとしていたもう一体のゴブリンの足を貫きその動きを封じた。

　「サンキュ！杏！こいつら結構すばしっこいのな！」

　幸隆の攻撃を避けたゴブリンが仲間の仇を討つように幸隆に飛び掛かる。

　体重と筋力の比重が偏った生物特有のスプリントでゴブリンがナイフを突き出し突進。

　「おわっ！」

　日常生活でお目に掛ることのない突進に幸隆も反応が遅れるも、その刃をどうにか寸のところで躱すことに成功。

　少しでも反応が遅れれば鈍らそうなそのナイフで酷い傷を負わされていただろう。

　「……あっぶね」

　「さっさと防具を買いなさい！」

　杏はそういって体勢の崩れた幸隆と入れ替わるように前へ出てナイフを突き出したゴブリンの腕を短剣で斬りつけた。

　「ギッ……！」

　痛みに得物を落としたゴブリンにもはや脅威はないかというように短剣に体重を乗せてその喉元へと突き刺す。

　苦悶を漏らすゴブリンのその声は喉を潰されたために断末魔にすらならなかった。

　「おおっかっこいいな！なら今度は俺だな！」

　すぐに体勢を整えた幸隆が動きの悪いもう一体へと即座に詰める。

　「ギィィ！」

　ゴブリンは迎撃にナイフを構えるがそんなものは幸隆にとって脅しにもならない。

　構えたナイフを搔い潜るように幸隆の拳がゴブリンの顔面に突き刺さり、その矮躯を大きく吹き飛ばし壁へと叩きつける。

　「とっどめだ！」

　チャンスを逃さないよう瞬時に距離を潰し、逞しいハムストレングスによる強力な蹴りがゴブリンの顔面を柘榴のように踏み砕いた。

　「うっわ……グロぉ」

　自分でやっておきながら引き気味な幸隆だった。

　「油断しないで！」

　目の前の敵を二体とも片づけたにも関わらず、杏は強く注意を発した。

　その直後暗闇が煌き、再び銀線が幸隆を襲う。

　「どわっ！」

　それもなんとか躱し、後ろへとナイフが飛んでいった。

　──キキッ

　幸隆をバカにするような鳴き声だけを残して気配が去っていった。

　「あんのやろう！まだいやがったのかっ」

　幸隆はナイフの飛んできた方を睨みつける。

　しかしそこにはもう何者の気配は感じられない。

　「奴らの常套手段よ。戦闘が終わった直後に油断した相手に伏兵が飛び道具で攻撃してくるのは。新人は大体これで怪我をさせられるし、最悪死ぬわ」

　「あいつ舐めやがって…………確かに当たり所が悪ければ死ぬだろうけど、ちょっと博打じゃないか？探索者だって柔じゃないし、それなら仲間が死ぬ前に加勢した方が効果的だろ」

　急所に当たれば確かに致命傷になるだろうが、コントロールからするにそれの見込みは薄い。

　当たっても都合良く急所に当たるとはあまり思えなかった。

　精精が掠める程度がいいところだろう。

　「そこのナイフを見てみなさい」

　杏のその言葉に幸隆は後ろに転がるナイフを拾う。

　「ん？これって……ペロ」

　「そう、塗られているのは想像通りに毒よ───ってなにしてんのよ！？」

　「これは……青酸カリ！？」

　「バカなの！！？」

　杏は慌てて幸隆へと駆け寄り持ち物から薬を取り出す。

　「大丈夫だって、丈夫な胃してるから」

　「落ちた食べ物を食べるのとは訳が違うのよ！？何考えてんのよ！」

　「どうどう。落ち着けってホントに問題ないって……まぁ多分」

　鬼の形相をする杏を宥めるように大丈夫だと説明を始める幸隆。

　「私は馬か！どうして大丈夫だと言い切れるのよっ。それも多分って……いいっから飲みなっさい」

　薬の口を開けて強引に飲ませようとする杏の手から必死に逃げようとする幸隆。

　その光景は少し間抜けだった。

　「ほんとに大丈夫だって！昔っから毒の類には強いんだ！それにそんな薬代俺には払えねえ！！」

　「どこに毒を盛られる一般人がいるのよ！」

　「何度か不良の奴らに盛られたんだよ！」

　杏の至極真っ当な意見に幸隆が全く真っ当でない反論を返した。

　「……あんたの周りはどれだけ治安が悪いのよ」

　幸隆の喧嘩慣れした様子と以前話していた背景を思い出す杏。

　幸隆の着る高校のジャージはここら辺のものだった筈だが、数年前はそんなに治安が悪かったのだろうかと心配になった。

　「……確かに、効いてなさそうね。この毒は比較的即効性だったはずだけど」

　未だにけろっとする幸隆を見てその話が本当だと杏は信じざる負えなかった。

　「あんたってほんと色々とデタラメね」

　もう何度目かわからない溜息を吐く杏。

　こいつと出会ってからずっとこんな感じだと思い返した。

　その後二人は幾度かの戦闘を繰り返し、懐を温めてその日の探索を切り上げた。