第18話 ソムタム・ラブストーリー 〜江戸っ子亀次郎と屋台のおばちゃんの辛口ロマンス〜

第一幕:失恋のバレンタイン


シーン1:瑠奈のアパート


バレンタインの朝。小鳥のさえずりが聞こえるバンコク。高層マンションの一室で、瑠奈は鏡の前で身支度をしていた。20代後半とは思えない若々しさ、まさにZ世代のキャリアウーマンという雰囲気だ。


瑠奈:(スマホを見ながら、呟くように)はぁ〜、今日こそはタワンさんにチョコ渡したいなぁ… でも、こんな量産型女子っぽいチョコ、喜んでくれるかなぁ?


長政:(瑠奈の頭の中から、渋い声で)むむむ… またタワンの話か。瑠奈よ、男にうつつを抜かしておる場合ではないぞ! 天下統一の大業を…


瑠奈: (鏡に向かって) もー!長政さん、うっさい! ちょーウザいんですけど! だいたいアンタ、幽霊だし! それに、今は令和だし! 戦国時代じゃないし!


瑠奈は、スマホの画面に映るイケメンタイ人男性、タワンの写真を見つめる。彼は、まさにZ世代の理想の男性だった。デジタルネイティブで、多様性を理解し、社会貢献にも積極的。そして、めちゃくちゃイケメン。


瑠奈:(ため息まじりに)あぁ… タワンしか勝たん…


その時、インターホンが鳴った。


瑠奈: (慌てて) はーい! 今、開けます!



シーン2:玄関先での悲劇


亀次郎:(ドアが開いた瞬間、満面の笑みで)おう!瑠奈ちゃんよ! 旦那の亀次郎がバレンタインの贈り物を持って参上いたしやした!


40代半ばとは思えないほど元気な亀次郎。粋な法被姿で、大きな風呂敷包みを抱えている。


瑠奈:(困惑しながら) え…? だ、旦那…? えっと…亀次郎さん…?


亀次郎:(風呂敷包みを瑠奈に手渡しながら) へへい! これでもねぇ、江戸っ子の亀次郎、粋な計らいでさぁ。特選海苔の詰め合わせよ! これさえあれば、ご飯が何杯でもいけちゃうってモンよ!


瑠奈:(恐る恐る風呂敷包みを受け取りながら) あの… 亀次郎さん、超ありがとうございます… でも… 私、実は… 海苔アレルギーなんです…


亀次郎:(ショックで固まる) げぇっ…! な、なんだと…!?


亀次郎の顔から血の気が引いていく。せっかく用意したバレンタインのプレゼントが無駄になってしまうとは…。


瑠奈:(申し訳なさそうに) もー、本当にごめんなさい… せっかく持ってきてくださったのに…


亀次郎:(肩を落として) いや… 俺が悪いんだ… 瑠奈ちゃんのことを何も知らなくて…


瑠奈は、そんな亀次郎の姿を見て、少しだけ罪悪感を覚えた。


瑠奈: (明るく) あの… 亀次郎さん、よかったらお茶でも飲んでいきませんか?


亀次郎:(顔を上げて) へへぇ… 瑠奈ちゃんがそう言ってくれるなら…


こうして、バレンタインの悲劇は、お茶の時間へと移り変わっていった。


第二幕:運命の出会い


シーン1:ソムタムの屋台

バレンタインから数日後。亀次郎は、瑠奈への失恋を引きずっていた。


亀次郎:(独り言で) やれやれ… 江戸っ子の沽券に関わる失態をしでかしちまったぜ… 海苔アレルギーとは… 全く、気が利かねえ野郎だ、俺は…


亀次郎は、バンコクの賑やかな屋台街をさまよっていた。香辛料の匂い、喧騒、行き交う人々。その混沌とした雰囲気が、亀次郎の心をさらに沈ませていた。


亀次郎:(ため息まじりに) あぁ… こんな時は、一杯引っ掛けて忘れちまうのが一番だが…

その時、亀次郎の鼻を、強烈な香りが刺激した。それは、ニンニク、唐辛子、ナンプラーが混ざり合った、刺激的な香りだった。


亀次郎: (目を輝かせて) ん…? こりゃあ、一体…?


香りに誘われるまま、亀次郎は屋台に近づいていく。


ソムタムおばちゃん:(威勢よく) はいよ! 特製ソムタム! 辛さ控えめから激辛まで、お好みの辛さで作ってあげるよ!


50代とは思えないほど若々しく、エネルギッシュなソムタムおばちゃん。その目は鋭く、まるで獲物を狙う鷹のようだった。


ある日のこと


瑠奈:(屋台で、美味しそうにソムタムを食べながら) やば! このソムタム、マジでうまい! おばちゃん、もっと辛くしてもらっていい?


ソムタムおばちゃん:(笑顔で) あんた、いけるわね! よっしゃ、辛さ増し増しで作ってあげるよ!


瑠奈は、ソムタムの辛さに挑戦しようと、唐辛子を追加しようとしていた。しかし、手が滑ってしまい、誤って唐辛子だけでなく、他の材料もソムタムの中に落としてしまう。


ソムタムおばちゃん:(怒って) あんた! 何してくれてんの! せっかく丁寧に作ったソムタムを…!


ソムタムおばちゃんは、怒りのあまり、手にしていたソムタムを作るための木の棒で、瑠奈の頭を軽く叩いた。


瑠奈:(痛がって) いってー! ガチでやばいって!


瑠奈はその痛みから何かを思い出しそうにまったが思い出せなかった。


シーン2:亀次郎、一目惚れ


その光景を目撃した亀次郎は、言葉を失っていた。ソムタムおばちゃんの、その凛々しい姿に、心を奪われてしまったのだ。


亀次郎:(目が釘付けに) なんてえ… 凛々しい女性だい…! まるで、戦国の世を生き抜いた女傑のよう…


長政:(瑠奈の頭の中で) む? 亀次郎の様子が… まさか、あの女に惚れたのか…?


瑠奈:(頭をさすりながら) え? 亀次郎さん? なんでここに?


亀次郎:(おばちゃんを見つめながら) へへぇ… 運命ってやつかねぇ…



第三幕:恋の始まり


シーン1:屋台の前

亀次郎は、意を決してソムタムおばちゃんに話しかけた。


亀次郎:(おばちゃんを見つめながら) おばちゃんよ! その… あっしに、ソムタムの作り方を教えておくんなせぇ!


ソムタムおばちゃん:(眉をひそめて) あんた、何言ってんの? ソムタム作りは、そう簡単じゃないよ。何年も修行が必要なんだよ。


瑠奈:(呆れて) まじか… また突飛なことしてる…


長政:(瑠奈の頭の中で) むむ… 面白い展開になってきたのう… 亀次郎、あの女に弟子入りでもするつもりか?


シーン2:決意


亀次郎:(情熱的に) へへぇ… 江戸っ子の意地でさぁ、絶対にソムタムの極意を学ばせていただきやすぜ! おばちゃん、頼むよ! 弟子にしてくれ!


ソムタムおばちゃん:(ため息) あんた… バカね… 本当にソムタム作りを学びたいなら、覚悟が必要だよ。


ソムタムおばちゃんは、軽くソムタムの棒で亀次郎の頭を叩いた。


亀次郎:(目を輝かせて) いてて… でも、この痛みがたまらねぇや…!


数日後


夕暮れの屋台街。オレンジ色の夕日が、バンコクの街を染めている。


亀次郎は、ソムタムおばちゃんの屋台の隣で、一生懸命ソムタム作りを手伝っていた。まだ、ぎこちない手つきだが、その目は真剣そのものだった。


瑠奈とソムは、少し離れた屋台で、亀次郎の様子を見ながらビールを飲んでいた。


瑠奈:(ソムに) やば… 亀次郎さん、マジでおばちゃんのこと好きになっちゃったみたい…


ソム:(笑いながら) あら♪ 面白くなってきたわね~ でも、あの二人の組み合わせ… ちょっと意外よね。


長政:(瑠奈の頭の中で) まさか、このような展開になろうとは… 亀次郎め、意外といい度胸じゃのう…


亀次郎:(ソムタムおばちゃんに、決意を込めて) おばちゃんよ… 江戸っ子魂で、必ずあっしの想いを伝えてみせやすぜ!


ソムタムおばちゃん:(少し照れながら) あんた… 本当にバカね…


ソムタムおばちゃんは、軽く亀次郎の頭を叩いた。しかし、その目には、どこか優しい光が灯っていた。


亀次郎の恋の行方は…!?


ソムタムおばちゃんの正体


シーン1:亀次郎の特訓


ソムタムおばちゃんの屋台。亀次郎は、額に汗をにじませながら、ソムタム作りに励んでいた。


亀次郎: (息を切らしながら) ふぅ… おばちゃん、なかなか上手くいかねぇなぁ… この唐辛子の加減が…


ソムタムおばちゃん:(鋭い目つきで) まだまだだね! ソムタムは、ただ辛いだけじゃダメなんだよ。甘み、酸味、塩味… 全ての味が調和してこそ、最高のソムタムが生まれるんだよ!


ソムタムおばちゃんは、手際よく材料を混ぜ合わせ、あっという間に美味しそうなソムタムを作り上げてしまう。その姿は、まさに熟練の職人芸だった。


亀次郎: す、すげぇ… おばちゃん、まさにソムタムの達人だ…


シーン2:瑠奈の記憶



瑠奈は、そんな亀次郎の姿を、少し離れた屋台から眺めていた。


瑠奈: (ソムに) 亀次郎さん、本当にソムタム作りにハマっちゃってるみたいね… でも、意外に才能あるかも…


ソム:(笑いながら) そうね… でも、あの真剣な表情… ちょっと怖い気もするわ…


その時、瑠奈の脳裏に、ある記憶がフラッシュバックした。それは、3年前にタイに来たばかりの頃、ソムタムの屋台で起きた出来事だった。


瑠奈:(回想シーン) う、うげぇっ! なに、これ!? まずっ!


ソムタムおばちゃん:(回想シーン) 何だって? 私のソムタムがまずいって言ったの? あんた、タイ料理をバカにしてるの?


瑠奈:(回想シーン) ち、違います! タイ料理は…その…


ソムタムおばちゃん:(回想シーン) タイ料理がなんだって? あんた、タイ人をなめるんじゃないわよ!


瑠奈は、その時の恐怖と、ソムタムおばちゃんの怒りに満ちた顔を、今でも鮮明に覚えていた。


瑠奈:(ハッとして) え…? ちょ、ちょっと待って… もしかして…


瑠奈は、亀次郎が弟子入りしているソムタムおばちゃんの顔をよく見ると… その顔は、3年前にソムタム事件を起こしたおばちゃんの顔と、瓜二つだった!


瑠奈:(青ざめて) や、やばい… 亀次郎さん、超危険人物に恋しちゃってる…!



シーン3:真実


瑠奈:(慌てて亀次郎に駆け寄り) 亀次郎さん! ちょ、ちょっと話があるんだけど…!


亀次郎:(ソムタム作りに夢中で) ん? なんだい、瑠奈ちゃん? 今、いいところなんだ…


瑠奈:(必死に) あ、あのね… そのおばちゃん… 実は…


亀次郎:(おばちゃんを見て) ん? おばちゃん…? ああ、このソムタムの先生のこと?


瑠奈:(焦って) ち、違う! そうじゃなくて… その… そのおばちゃん… 実は… 3年前に… 私が…


瑠奈は、言葉を詰まらせた。自分がソムタム事件を起こした張本人だとは、とても言えなかった。


亀次郎:(不思議そうに) ん? 瑠奈ちゃんが…? 一体、どうしたんだい?


瑠奈: え、えっと… その… 忘れちゃった…


瑠奈は、苦し紛れに嘘をついてしまった。


亀次郎:(笑いながら) ははは! 瑠奈ちゃんらしいなぁ! まあ、いいさ! それより、このソムタム、見てくれよ! だいぶ上達しただろう?


瑠奈:(心の中で) やばい… どうしよう… 亀次郎さんに、真実を伝えなきゃ…


瑠奈は、葛藤していた。亀次郎に真実を告げれば、彼の恋心を傷つけてしまうかもしれない。しかし、このまま黙っているわけにもいかない。



第四幕:決断


シーン1:瑠奈の決意


長政:(瑠奈の頭の中で) 瑠奈よ、真実を隠すのは卑怯者のすることぞ! 武士道に反する!


瑠奈: (心の中で) 分かってるよ、長政さん… でも…


長政:(瑠奈の頭の中で) 瑠奈よ、勇気を出せ! 真実を告げるのだ!


瑠奈は、意を決して亀次郎に真実を伝える決意をする。



シーン2:告白


瑠奈: 亀次郎さん! 実は… あの… そのおばちゃん… 3年前に私が… ソムタム事件を起こした… その張本人なんです…


亀次郎: え…? な、なんだと…!?


ソムタムおばちゃん:(ニヤリと笑って) あら、あんただったの? あの時の女の子… 覚えてるよ。


亀次郎:(混乱して) え…? ど、どういうことだい…?


瑠奈: あの… 私が… おばちゃんのソムタムを… 「まずい」って言っちゃって… それで…

瑠奈は、恥ずかしそうに、事件の顛末を説明した。


亀次郎:(しばらく沈黙した後、大爆笑) わはははは! 瑠奈ちゃん、お前らしいなぁ!


瑠奈: え…? 怒ってないの…?


亀次郎: 怒るわけないだろう! むしろ、面白いじゃないか! あの時のソムタムおばちゃんが、俺のソムタムの先生だなんて! 運命ってやつは、本当に分からねぇなぁ!


亀次郎は、瑠奈の頭を軽くポンと叩いた。


ソムタムおばちゃん:(微笑んで) まあ、確かにあの時は私もちょっとやりすぎたわね。でも、あんたのタイ語は、随分上達したみたいね。


瑠奈: あ、ありがとうございます…


亀次郎: おばちゃん、これからも、瑠奈ちゃんにソムタム作りを教えてやってくれよ!


ソムタムおばちゃん: わかったわよ。でも、今度はちゃんと礼儀正しく接することね。


瑠奈: はい! 約束します!



シーン3:新たな絆


こうして、瑠奈とソムタムおばちゃんの間には、奇妙な友情が芽生えた。そして、亀次郎の恋は、ますますヒートアップしていくのだった。


(続く)

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