第6話 瑠奈と山田長政、空へ!
瑠奈は、バンコクでの夏休み中に、フリーペーパー「タイ自由ランド」で面白い記事を見つけた。それは、シーラチャーにある日本人向けのフライングクラブ「俺の空」についての記事だった。瑠奈は、巨大魚釣堀での冒険の後、新たな挑戦を求めていた。そして、頭の中の戦国武将・山田長政も、空を飛ぶことに興味津々だった。
「瑠奈よ、空を飛ぶとは! なかなか豪気ではないか! 武士たるもの、常に高みを目指すべきぞ!」
長政の声が、瑠奈の頭の中で高らかに響く。瑠奈は、長政の言葉に背中を押され、「俺の空」へ行くことを決意する。
俺の空へ
シーラチャーまでは、バンコクから車で約2時間。瑠奈は、友人のレディーボーイのソムを誘って「俺の空」へ向かった。クラブに到着すると、そこは想像以上に広々としており、多くのウルトラライトプレーンが並んでいた。ウルトラライトプレーンは、セスナ機よりも小型で、操縦が比較的簡単な飛行機だ。
瑠奈たちは、日本語が話せるゴウさんというスタッフに迎えられた。ゴウさんは、笑顔で二人にウルトラライトプレーンの説明をしてくれた。
「サワディーカップ! ようこそ、俺の空へ!今日は、ノンコー貯水池を臨む、素晴らしい景色を堪能できますよ!」
瑠奈は、少し緊張しながらも、ゴウさんに挨拶をした。
「サワディーカ! よろしくお願いします!」
ソムは、高所恐怖症だったが、瑠奈に頼まれて渋々同行していた。「大丈夫よ、ソム。きっと素晵らしい体験になるわ!」と瑠奈が励ますと、ソムは弱々しく笑顔を返した。
## 初フライトへの不安
瑠奈は、初めて見るウルトラライトプレーンに興奮していたが、同時に不安も感じていた。
「長政、本当に大丈夫かな? 私、高いところがちょっと苦手なんだよね…」
瑠奈は心の中で呟いた。
「なにを言う! 瑠奈よ! 武士たるもの、恐怖に打ち勝たねばならぬ! わしと共に、大空を駆け巡ろうぞ!」
長政は、瑠奈の頭の中で励ますように言った。瑠奈は、長政の言葉に勇気づけられ、フライトに挑戦することを決意する。
一方、ソムは顔面蒼白で、小声で「ちょっと、瑠奈…本当に大丈夫なの?」とつぶやいていた。
山田長政、大興奮!
瑠奈とソムは、ベテランのインストラクターと一緒に、ウルトラライトプレーンに乗り込んだ。エンジンがかかり、プロペラが勢いよく回り始めると、機体はゆっくりと滑走路を走り出した。
「うわあああ! 離陸するー!」
瑠奈は、思わず叫んだ。
「ははは! 気持ちが良いぞ、瑠奈! これぞ、まさに天下を取った気分じゃ!」
長政は、瑠奈の頭の中で大興奮で叫んでいた。瑠奈は、長政の言葉に苦笑しながらも、次第に空からの景色に心を奪われていく。
ソムは目を固く閉じ、シートにしがみついていた。「お願い、もう降ろして…」と小さな声で呟いていたが、エンジン音にかき消されてしまった。
空からの絶景
ウルトラライトプレーンは、高度を上げ、ノンコー貯水池の上空を飛行していた。眼下に広がるのは、エメラルドグリーンの湖面と、緑豊かな熱帯雨林の絶景だ。
「わあああ! きれい! すごい!」
瑠奈は、感動の声を上げた。
「見事じゃ! 瑠奈! あの山の向こうには、かつてわしが築いたアユタヤ王国があるぞ!」
長政は、瑠奈の頭の中で得意げに言った。
「えーっと… 長政、アユタヤはこっちの方角じゃないと思うけど…」
瑠奈は、心の中でツッコミを入れた。
ソムは、瑠奈の興奮した声に促されて、恐る恐る目を開けた。しかし、高度を確認した途端、「きゃあああ!」と悲鳴を上げ、再び目を閉じてしまった。
ドタバタ空中遊泳
瑠奈たちは、約20分間のフライトを楽しんだ。着陸態勢に入ると、長政が突然、瑠奈の頭の中で奇声を発した。
「瑠奈! わしの魂が、空を飛びたいと叫んでおる! 少しの間、操縦を任せてもらえんか!?」
「え!? ダメだよ長政! そんなことしたら、墜落しちゃうよ!」
瑠奈は、慌てて長政を制止しようとした。しかし、長政の存在感が、瑠奈の意識を強く支配していた。
「うおおおおお! 天下無敵の山田長政、ここに参上!」
長政の声に導かれるように、瑠奈は思わず操縦桿を握りしめ、ウルトラライトプレーンを急上昇させた。機体は、まるで暴れ馬のように、空を縦横無尽に飛び回る。
「きゃああああ! 長政! やめてー!」
瑠奈は、必死に叫んだが、長政の興奮は収まらない。インストラクターも、瑠奈の予想外の行動に驚きを隠せない。
「ちょっと! 瑠奈さん! 何やってるんですか! 危ないですよ!」
ソムは、急な動きに驚いて目を見開いたが、その瞬間、恐怖のあまり気を失ってしまった。
無事着陸、そして…
長政の興奮が収まり、瑠奈は我に返った。瑠奈は、安堵の息をつきながら、インストラクターの指示に従って機体を無事に着陸させた。
「はあ… 疲れた… 長政、もう二度とあんな無茶しないでよ…」
瑠奈は、ぐったりとした様子で心の中で言った。
「うむ… すまぬ、瑠奈。 つい、昔を思い出してしまってな…」
長政は、瑠奈の頭の中で少し反省した様子で言った。
瑠奈は、ほっとした表情で隣を見ると、ソムが気絶したまま座席に倒れこんでいるのに気づいた。
「えっ!? ソム!? 大丈夫!?」
瑠奈は慌ててソムを揺さぶったが、ソムは「ママー、もう空は飛びたくないよー…」とうわごとを言うだけだった。
インストラクターは呆れた表情で二人を見つめ、「こんなの初めてだ…」とつぶやいた。
新たな冒険へ
瑠奈は、「俺の空」での体験を通して、自分の中に眠る冒険心を再確認した。そして、頭の中の山田長政の存在が、彼女の日常をより刺激的で、楽しいものに変えてくれることに気づいた。
瑠奈は、これからも長政と共に、タイの地で様々な冒険を繰り広げるだろう。そして、その度に、彼女は成長し、強くなっていくに違いない。
一方、ソムは目を覚ました後、「もう二度と空には上がらない!」と誓った。しかし、瑠奈の次の冒険の話を聞くと、渋々ながらも「仕方ないわね…」と付き合うのだった。
瑠奈とソム、そして頭の中の山田長政。この珍妙な三人組の、笑いと驚きに満ちたタイでの冒険は、まだまだ続いていく…
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