第3話 六ヶ月たった
あれから六ヶ月の月日が流れた。
そこでまず分かったことがあった。
この男女は俺の両親だった。
貴族っぽい良いとこの大きい家に、沢山のメイドがいる。
を期待してたのに、違うらしい。
転生したら貴族家だった。とか良くあるラノベのようにはいかなかった。
電気やガスも無い。
一瞬、光熱費すら支払いできない家庭なのか。
と疑ったが、そうでは無いようだ。
文明レベルというか、日本とはえらい違いだ。
食事囲んで、しっかりと食事は摂ってそうだ。
だから、金に困って切迫してるから電気やガスを使えない。とは違うらしい。
もしそんなところに来てしまったらヤバいから、良かった。まず、そこは安心した。
(電気くらいは使わせてくれよ。スマホとかパソコンとか触りたい。それさえあれば俺は生きていけるんだからな。頼むよ……)
それに、この男女の話してる言葉は日本語ではない。
最初は耳を疑ったが。
いやそもそも、ちゃんと俺の身体に耳がついてるのかさえ疑った。
無駄に漏れなく付いてきた俺の前世の記憶。
強盗に襲われて、その後遺症で五感がイカれちまった。
それを想像したが、見事に違ったらしい。
うん。俺の身体は至って、五体満足。
安心した。
改めて、
コンビニ強盗によって刺されて死んだ。その後遺症とかではないらしい。
六ヶ月、赤ん坊生活を体験して、他にも分かったことがあった。
それは言語だ。
幼い時に違う言語を聴かせたり、学ばせたりすると良いよ。はその通りだと思った。
俺の生前では、英語の授業があったが、そこまで悪い成績ではなかった。
だからと言って、いざ英語を話してみろ。となると話は別だが――。
至って、外国語の成績は普通。
それもあってか、案外この身体は物覚えが良いらしい。
というか、異常に良過ぎるの方が合ってる気がする。
両親が話す言葉は日本語ではないな。と気付き、そんな会話を半年も聞いてるとそれなりに理解出来るようになっていた。
話す言葉は理解できる。
だが、まだ話せない。
この赤ん坊半年の身体では、言語を話す事がまだ出来ないらしい。
口にしたとしても「ばぶあー、はうーー(おっぱい頂戴)」しか話せない。
だが、赤ん坊は便利だった。
なんらかの言葉なのか奇声を発すると、この美女はおっぱいを差し出してくる。
(えへへへへへ)
息子がほんの少しだけ反応した。
だが、興奮はしない。
だってそうだろう?
母親に興奮してしまうと、それこそカスなんだよ。
それにしても美女だ。
俺の父親は分かってやがる。
女を選ぶ事に関しては、俺なんかよりも全然ある意味では大先輩だ。
だから尊敬する。
それに童貞の俺なんかと比べると、そこら辺も大先輩なのだ。
くそお! なんか悔しいぞっ。
せっかくこうして転生出来たんだから、今度こそ俺の息子を使いこなしてみせる。
(心の中で決意のガッツポーズしとこ)
それにだ、少し蒸れた汗の匂い。
これがまた堪らないんだ。
興奮してるのとは違うぞ。
うん。断じて興奮はしてない。
さて、話を戻すと。
いかんいかん。
前世の俺の癖のせいで、
どうもシモの方に話が脱線してしまう。
ダメだな。
冷静にならんとダメだ。
この家族は俺含めて三人家族らしい。
それに半年も月日が経つと、それなりに身体も成長したらしく、今はハイハイも出来るようになった。
俺の身体は発達が早いらしい。
それに物覚えも異常に良いらしいぞ。
「最初はおっぱい飲むのだって拒んでてどうしたら良いもんか……って心配になったが……」
「今はそんな事ないわよ。喜んで吸ってくれるもの」
「うんとおっぱい飲んですくすく育って欲しいもんだ!」
「でも、この子まったく泣かないのよねぇ。産まれた時もそうだし、今もそう」
「良いじゃないかぁ! それだけ手のかからない優秀な子だってことだろうぅ!? さすが俺の子だぁ!」
「そうかしらぁ? 赤ん坊は泣いてナンボって聞いたけどぉ」
俺の両親はそんな事を話していた。
この歳になって、流石に腹減ったくらいで泣きはしない。
だが、腹は減る。
もっとも困ったのはシモの方だ。
シモと言っても、下ネタでは無い。
「ばぶあー、ばぶばぶ」と奇声を上げるとおっぱいを差し出して来て、おっぱいを吸うのは良いんだ。
少なくともそれで空腹を解消出来る。
でも、体内に何かを入れると、出る物が出る。
ハイハイが出来るようになったからとは言え、流石に一人で自分のシモのお世話は出来ないらしい。
だから、せっかくこうして手取り足取りお世話して貰えるのだから――。
出しっぱだ。
思いっきりぶっ放す訳だ。
前も後ろも容赦なくだ。
「あらあら、たくさん出たわねぇ!」
「あんだけおっぱい飲むんだから、そりゃあこうなる」
(へへ、シモの世話は助かるぜぃ!)
ダメだ。
下ネタからガチ目のシモの話しになってしまった。
ハイハイが出来るようになって、家の隅から隅まで徘徊してやった。
だが、ハイハイで行けるところは限られてる。
階段を登るのはまだ出来ないらしい。
流石に階段を登るのはまだ厳しいのだ。
そこで分かったことは、
この家は住居兼鍛冶屋だって事だ。
父親は鍛治師らしい。
鍛冶屋って……言葉のまんまだ。
「カンカンカンカン」って鎚で金属を叩いて、武具を造る。
そのまんまである。
炉もあれば金床もある。
熱反応して赤く燃えたぎってる金属を何度か見掛けた。
それに向かって鎚で「カンカン」叩く訳だ。
ハイハイだし赤ん坊だから、視点が低い。
頑張って見上げてみるけど、限界点がこれまたすぐ来てしまう。
だから、今のところ確認したり見たり出来るのはここまでだ。
なんかやたらと鉄臭いな。
と思っていたが、このせいだと分かった。
金属を仕入れて来るとか、素材採取に行って来るとか言って、父親は良く外出する。
それを理由にして、ありがちな不倫行為をしてまいか?
それだけは辞めてくれよ! と願った。
いやいや、
せっかくの第二の人生だから、童貞卒祝を大いにしてやりたいし、息子の活躍を生で眺めたい。
そんな願望はめっちゃ強いし、早く成長して、そんなシチュエーションを早く早くと切望している。
だってな。
前世の俺はお世辞にもイケメンとは言えない。
むしろブサメンだった。
太ってたしな。
でも、この両親はなんと顔立ちが良いんだ。
だからきっと、俺はイケメンになるんだ。
勝ち組レールに乗って、パンパンパンパン……
ダメだ。よそう――。
それでも、そんな俺にだって節度はあるぞ。
そこはしっかり心得ているつもりだ。
…………きっとな。
子は親の背を見て育つ。
だから、父親がもし不倫とかしてたら、きっと俺もそうなるかも……
女好きなのは悪く無い。
悪く無いけど――。
遺伝もあるしな……。
仕方ないのかもしれない。
妄想を得意とする俺は、このシチュエーションを何度か妄想してみたりした。
拒む勇気はない。
の答えに至った。
だってそうだろ?
妻がいるとは言え、美女から誘われたら――
それを断るのは男としてどうなんだ!って思うんだ。
もう、話しを変えよ――
こういう『モノづくり』は悪く無い。
いや、むしろ大好きだ。
見てるだけでワクワクする。
慣れてくると「カンカン」の音も心地よくなってくるもんだ。
だがひたすら暑い。
めっちゃ熱い。蒸し焼きになってしまうぞ。
熱いのはパッと見で判断できる。
だが、この身体のせいなのか、
単純に好奇心旺盛な俺が悪いのか――。
ある時、炉に近付いて、熱された金属に手を出してしまった。
「あうー、あうあー(アチッ、火傷したぞぅ! 誰か来てくれ)」
正直ビビった。
が、俺の身体の反応は案外正直だし、反応速度は早かった。
腹減った。の奇声よりも、瞬時に大きな奇声をあげて助けを求めるのだ。
赤ん坊なんだから、これで正解なんだと思う。
むしろ逆に近づくな! と言われたらその通りだ。
身体を沸き立ててしまう程の興味が打ち勝ってしまったから、仕方がない。
*
俺の奇声に真っ先に反応を、示したのは母親だった。
「きゃーーー!! ちょっとなにしてんのよ!?」
(やっちまった)
悪い事をしたなと思った。
だってこんなに慌てるとは思ってなかったからだ。
相当な慌てようだ。
すぐさま俺に駆け寄って、火傷した手を心配そうな顔をして眺めている。
胸を下ろして安堵した様子に変わる。
人間の身体って案外、丈夫だしわりかし自分の身体を守ろうと瞬時に働くもんなんだ。
と、再認識させられた。
アチッってなった瞬間に、反射的にすぐ手を離したのが功をなした。
そこまでの重症にならなかった。
俺も気付いてはいたが、母親がそれを見て確認すると、ホッと深いため息を溢していた。
いやいや。
ここまでは単なる俺のミスで、俺がやらかしてしまった。
ってだけの話なんだが――。
少し違う。
火傷したらまずは冷やせ!
これが定石だと思ってたから、すぐに流し台に連れて行かれて、患部を冷やすもんだと思ってたが――。
(この人何してんの?火傷した時はすぐ冷水で冷やした方が良いんだぞっ!!)
「……
(…………ぷはっ)
おい! 今なんつった?
ケアルって言ったのか?
ケアルってあの某有名なゲームの世界の回復魔法じゃねえか!? ここに来てFFネタかよっ!
やめてくれー!
萎えるぞっ!
これはなんだ?
FF14で良くある、クラフターと白魔道士で結婚しちまった。ってやつか?
と思っていたが、束の間。
まさに白魔道士みたいに、その呪文みたいな言葉の後から淡くて薄いキラキラした感じの光が見えて、消えていく。
まるでゲームみたいなエフェクトだ――。
(えっ? 痛くない!! 痛くなーーーーい!)
光が消えた瞬間、痛みが消えた。
嘘だろ?
「もう大丈夫よ。ったく、もうあまり心配かけないでぇ!」
今のって……、なんだ?
なんだ? なんだよっ!?
おい、答えてくれ!
なんなんだよぉぉぉ!
「ばぶぅあー」
くそっ! ダメだ。
赤ちゃん語しか話せないんだった。
「元気になったみたいね!?」
違うぞ!
そうじゃない。
そうじゃない――。
くそおぉっ! 誰か俺に翻訳機持って来てくれぇ!!
赤ちゃんの気持ちが分かるっていう、そんな便利な機械無かったっけ?
――無いよな。
これ以降俺は、両親が話してる会話に、今以上に聞き耳を立てるようになった。
父親がやってる鍛治師みたいな仕事にも、今以上に眺めながら観察するようになった。
時折、父親をひいきにしている依頼人っぽい奴がやって来た時もあった。
注文してるんだろう。
「ロングソード〇〇本、……それからショートソード〇〇本、それなりに耐久性のあるので頼む!」
みたいな会話を耳にした。
(二人して厨二かよ!?)
さらに聞き耳を立てる事にした。
いや、むしろ――。
情報収集のためってのが目的だ。
何故か?
「……
が唱えられた瞬間、まるで魔法みたいなエフェクトを放って、痛みが消えた事――。
まるでゲームの世界じゃないかって?
って疑ったからだ。
ここでウルダハとかリムサ・ロミンサなんて単語が出て来たら、確定だ。と思ったからだ。
強盗に襲われて、死んだ。
だけど死んでないつうオチかもしれない。
なんなら、今いるここは、俺の妄想の世界っていう可能性もある。かもしれない――。
緊急入院して、意識不明で生死の境を
とか言いつつ、人名や地名みたいな単語が出て来るのだが、まるで違う。
俺が予想してたのとは違う。
やっぱりだ――。
いや、これはアレだ。
俺はやはり異世界転生したらしいな――。
断言しても良い。
剣とか魔法とか出て来ちゃう、日本とは全く別の世界に来てしまったらしい。
それも赤ん坊から再スタートってヤツだ。
その上、父親は鍛冶屋だ。
良いぞ!
悪く無い。悪く無い。
まるで良くある異世界転生ものだが――。
こういうのは大好きだ――。
ワクワクする。
赤ん坊に転生。
それにしっかりと成長も感じられる。
別に赤ん坊に転生して、ずっと赤ん坊って訳ではなさそうだ。そこは安心だ。
って事はだ――。
俺に舞い降りた、待望の『セカンド・ライフ』がやって来た!
って事だ。
良いぞ! 俺――。
童貞を卒業するチャンスだ。
もう無理ゲーだと思ってからな。
こんな展開でこんなチャンスが巡って来るなんてな!
良しっ――!
この世界で大いに俺の息子を活躍させて、成長したらきっとイケメン確定フラグなんだから、少し本腰入れて人生ってヤツに少し本気で挑んでやる!!
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