転生トラック、郷愁を轢く その4

 春は風のように過ぎていった。仕事も忙しく、だんだん老人に会う回数も減っていった。仕事が辛い時もあった。そんな時は、ユカリが下手な歌を歌ってくれた。老人に教えてもらった歌だった。ユカリなりの優しさだった。

夏の日だった。老人に会いに行くと、彼の顔は曇っていた。老人の故郷には、スーツ姿の男性が何人か来ていた。


「あら、お客様でしょうか」

「いや、それがどうも違うみたいなんです。彼らはここを更地か何かにするつもりみたいで。お役人さんでしょうか」


 アズは自分の頭を一生懸命に稼働させた。もしや、道路でも作るつもりじゃないだろうか。宅地にするつもりだろうか。ともかく、老人の故郷を壊すつもりなのではないだろうか。


「ユカリちゃん、どうしよう。このままじゃここがなくなっちゃう」

「幽霊のふりでもしてみましょうか」


 死んでいるのに幽霊のふりとはこれいかに。ユカリがジャケットのポケットに手を突っ込む。スタンガンの感触。ユカリを気に入った神からもらったものだった。実際に使ったことがある。手慣れている。今なら、まだ止められる。


「彼らに危害を加えないでくれませんか」


 何かを察知したのであろう。老人は二人にそう言った。


「私の願いは、故郷を見守りたいというわがままです。人に危害を加えてくれなんて頼んでいません」


アズは老人の意見を尊重しようと思った。ユカリの方は釈然としない様子だ。正体のわからないスーツ姿の一人が「落ち着く匂いだ」と言っている。匂いはもうわからないユカリだが、そんなにここが気に入ったのならそのままにして欲しいと願った。手は出せない。出したくない。

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