聖剣悪女

たま

序章

第1話 伝説の剣

 夜が明け、薄暗い霧が森を包み込む頃、その女は現れた。


 サンティナ・ディ・フィオーレ。まるで、黒衣と冷笑の絵画である。




 この女は魔女である。悪女である。人の世の敵であった。


 サンティナは、伝説の剣が眠るとされる古代の遺跡へ向かって歩いていた。


 彼女の足音は湿った地面に重く響き、やがて石畳の上に変わる。苔むした巨石の間をすり抜け、ついに石の台座が現れた。




「本当に錆びてないわ」と彼女はつぶやき、乾いた笑みを浮かべた。


 台座に突き刺さった剣は、年月を経てなお、その輝きを失っていなかった。


 サンティナはまるで誰かに見せつけるように、細い指で剣の柄を弄ぶ。剣が僅かに震えだすのを、魔女は見逃さなかった。




 周囲にいる動物たちも、まるでこの瞬間を恐れているかのように息を潜めている。


 彼女が力を込めると、剣はまるで自らその手を待っていたかのように、するりと台座から抜けた。


「こんなものが伝説だなんて、笑わせる」と、サンティナは自嘲気味に呟いた。だがその瞬間、空が不気味な音を立てて裂け、光の閃きが彼女の手元に降り注いだ。




「ああ、これで私は――」彼女の言葉は、次第に消え入り、サンティナの表情に満足げな笑みが広がった。だがその瞳には、他者を見下す冷たい光が残ったままだった。


 彼女が伝説の剣を手にしたことで、何か恐ろしいものが目覚めようとしている。それを知っているのは、いまだ世界で彼女ただ一人であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る