流石にそれはない

灰雪あられ

第一扉 今日はみんなツイている

今日も今日とて、なんだかよく分からん生き物がウヨウヨと街をうろついている。

なんだか今日はいつも以上に嫌な感じがする。

まったく、これでため息をつかずにいられようか。


「おっはよー」


そんな憂鬱な様子を気にもせず、バス停のベンチに座る女子高校生がこちらに手を振ってきた。


「いやー、流石だね。モテ男くん」


むしろ憂鬱の原因をからかってみせるとは。

なんとも不愉快なヤツだ。


「何言ってるのさ。君の方が僕なんかよりずっと大人気じゃないの」


毎朝毎朝、嫌味を言い合って飽きないとは。まったくもって理解できない。


「謙遜するなよ、君には負ける。おっと忘れてた!プー太にも挨拶〜、おっはよー!」


女子高校生は持っていた犬の人形を杏の肩に置いて、挨拶をした。


「葵さーん、人の肩勝手に使わないでくださーい」


そう言って杏は女子高校生の手を跳ね除けた。

側から見たらとんでもなく頭のおかしい娘である。

実際、近くを歩いていた小学生が必死に目を晒している。

それでも、この娘は毎度律儀にしなくてもいい挨拶をしてくるのだ。


「まったくケチだな。貧乏神のおかげで今日はツイてない気がするよ」


そうこうしているうちに、バスが見えてきた。

ドロドロとした雰囲気をかもしだすバスが。

鳥肌の原因はあれか。


「…ホントにツイてない。数学に必要なの全部机に置いてきた気がするよ」

「まだ時間あるんだし、一本遅らせれば?」

「そうだね。遅刻寸前になるから君と灯里ちゃんも道連れにしよう」

「貸しにしとくよ」

「ケチだなぁ」


バスが近付くほど身の毛がよだつ。

それでもなんでもないフリをして2人はバスの扉が開くのを待った。


「私が行くよ」


扉が開いた瞬間、そう言って女子高校生はバスの中に顔を出した。


「灯里ちゃーん、忘れ物一緒に取りに帰ってくれる?」


返事が聞こえないうちに、女子高校生はバスから離れた。その顔に冷や汗が流れている。


「いやぁ、今日はみんなツイてないみたい。灯里ちゃん調子悪そうだよ」


まさか。

バスからドス黒いモヤが解き放たれたと共に、女子高校生が降りてきた。


「おはよう」


その背に人型のよくわからないナニカを乗せて。

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流石にそれはない 灰雪あられ @haiyukiarare

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