自己完結型生命の異世界物語

@uyuuuuuuu

第1話 星の目覚め

(……………)


…意識が覚醒する。

結構眠っちゃっていたみたいだ。

思い切り伸びをしたい気分だがあいにく今は実体がない。

俯瞰して「自分」を見る。

そこには一つ、暗闇の中で美しく輝く碧の球がある。

そう何を隠そう、俺は「星」そのものなのだ。


(ウトゥクシィ----!!!!!)


我ながら自分の美しさにはほれぼれとする。

澄んだ青色の海洋に、木々が生い茂る緑。そして雲という大気中に浮かぶ水滴が何にも染まらない白でまばらに存在している。

本当に綺麗だと思う。

ここまで来るとナルシストの領域だが仕方ない。誰が見ても綺麗というであろう、そんな自慢の「自分」だ。

「星」として生きるのもそんなに簡単では無くて、意識を覚醒させている間はかなりエネルギーが消耗される。だから星という自分を維持するために自律して星に役立つ生命を創るのだ。(しかし生命とは言っても少数ではなく大量に創るため、それほど長生きはしない。)


そんな俺がなぜ目覚めたのか。

それはこの星の危機、つまり俺が生み出した生命の絶滅の危惧が原因だ。極端に生体の数が少なくなっていたのである。

兆候はあった。おそらく500万年ほど前だろうか。寝ている状態ながらも自分の体(星)に違和感を感じ、意識が覚醒しかけたのだ。だが先ほども言ったように意識を覚醒するには途方もないエネルギーが必要になる。そのため、違和感も小さかったので無視することにした。

それがどうだ、今になって事が大きくなりすぎてしまったことで目が覚めてしまった。


(はあ…後悔先に立たず、だったっけか)


自分の妹が得意げに言っていた言葉を思い出す。

だが言い訳もさせてほしい。こんな短時間でこんなことになるとは思っていなかったのだ。

妹に助けを求めてみてもいいが、一億年ほど前にけんか別れしたことを思い出す。


(自分でやるしかないかぁ)


やるしかない。

だって俺が創った生命が絶滅しちゃったら星を維持できない。

また新たに命を創造しなければならなくなる。

だから今回自分の星に生命体として実体化し降り立つことにした。

生き物で例えると自分の体内に潜り、病原を取り除く感じだ。

つまり、「自分の自分による自分のための手術」っていえる。

いやー我ながら素晴らしい言葉のセンスよ。


(ざっと200年といったとこかな)


何度も言うようだが覚醒している間はかなりのエネルギーを消耗する。

そのため、200年という刹那の時間で問題を解決しなければならない。

前途多難の道だが、実際ワクワクしている自分もいる。

なんせ自分の星に降り立つのは大体10億年ぶりだ。

遠目から見てあまり変わっていなくとも星の中身、生態系の実態等結構変わっているものなのだ。

自分の星には9回ほど降り立ったことはあるが毎回いい意味で懐かしさは感じない。新鮮な気分になれるのだ

どんな感じに変わっているかは正直楽しみではある。


(ごちゃごちゃ考えててもしゃーない、さっさと行くか)


そうして俺は自分の星に降り立った。




***




(~っすぅ)


久しぶりに実体化し、思い切り伸びをする。

こうすることで改めて目覚めを実感することができる。

今降り立った地は50mほどの針葉樹林で構成された森の中だ。

近くに水面があったので覗き込み、ついでに自分の姿を確認する。

簡単に言うと顔面が植物の花の、人型の生き物といったところか。

前までは無数の触手に複数の顔があり、なかなか格好いい異形の化け物だったのだが、妹にただ一言、「きっっっしょ」と言われてからこの姿はやめた。

妹は人間という生き物が好きらしい。(俺はそうでもない。)

そのためかなり努力して人型にはしたのだが顔はどうしても花にしておきたかった。

俺の唯一のアイデンティーだからだ。

ちなみに服はスーツを着込んでいる。

妹からプレゼントとしてもらった。


(さてと、まずは原因探しからだな。とりあえず生き物探してみるか。)


違和感の正体は生命体の個体数減少だ。

それはわかっているからあとはその原因だけである。

辺りを見た感じ特に変わっているところはない。

そう思っていたのだが…。


―ガサッ―


後方で音がしてつい振り向く。

これほど大きな音がしたという事は何かしら生き物がそこにいるという事。

それは問題ない。

しかしその生物の種が問題だった。


(ニン…ゲン…?)


発達した後肢で直立し、驚いてこちらを凝視する瞳には理知的な様子を感じる。

この星は俺の星、そして俺自身。

したがって俺が生み出した生命以外に生物は存在しないはずなのだ。

そして俺は人間なんていう生物は創っていない。


(……。なぜ人間がここに?)

「ッツ!!」


混乱する頭で何とか事態を把握しようと近づいたが、こちらが動いた瞬間に逃げられてしまった。

別に人間を見るのは初めてではないし、全く関わりがなかったわけではない。

むしろ他の星の生命体に比べれば関係値はあるほうだ。

なんていったって妹が「人間」という生命体作ったのだ。


(原因はアレか…?)


何故か存在している人間を消せば、この星の問題も解決するかもしれない。

一瞬そう考えたが「人間」は妹が創った生命体、関係を例えるとするならペットと飼い主みたいなものだ。

妹とは絶賛喧嘩中だが、これ以上互いの関係が悪くなるようなことはしたくない。


創造していたよりも複雑かもしれない事態に、俺は無意識にため息をついてしまっていた。

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