第9話 美麗死

2056年 9月6日


私は明日、命の灯火を消す。

明日の午後3時に出撃する事が決まった。


空はいつもと変わらず曇り空だが、なぜだか青く澄み渡っているように感じた。

これまでの訓練と同じように機体に乗り込む準備をするが、今回は違う。これが最後の訓練になる事を、全身で感じた。


上官様はいつもと変わらず私に厳しく指導するし、昼飯もそれなりに美味い。


家族達も変わらず生きているし、私が忠誠を誓った自由の女神像も、変わらず南東の空を見続けている。


私だけが、世界から切り離されたみたいに、私だけがいつもと違っていた。ただそれだけの話だ。


家族には既に別れを告げた。

今頃、故郷では私の生前葬なんかが開かれているだろう。


私は生涯独り身だったし、何の未練も無いはずだ。


あぁ、でも、クソ。


まだ生きていたい。例え泥水を啜っても、上官様の靴を舐めても、死にたくない。



失礼。少々、言葉が汚くなってしまった。こんな様では、神にもてなされているであろう友に殴られてしまう。


それに、天使様が私を守ってくださる。何も心配することは無い。


きっと、私は天国で特別なもてなしを受ける。

その為に、私はこんな誰もやらない様なことを引き受けたのだ。


私が居なくとも変わらず世界は回って、自由の女神像も同じ方向を見続ける。


大丈夫、何も変わらない。

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