あの祠を壊したのは君かい? 少年

鈴北るい

あの祠を壊したのは君かい? 少年

ああ、すまない。驚かせてしまったね。いや別に私は土地の所有者でもなんでもない。単に確認がしたかったんだよ。あの祠を壊したのは君かい? 少年。


そうか、君が壊したのか。動機を聞いてもいいかな。はあ、噂。それはあれかな、この祠が呪われた祠で、壊すとたたられるっていう……あってる? あれだろう? 壊した者が七日後に血を吐いて死んで、それからしかるべき儀式をするまで次々人が死んでいったというアレだ。


あれを聞いてやってきて、度胸試しに祠をぶっ壊したと……ああいや、君の心理的なものはどうでもいいんだ。大切なのは噂を聞いてやってきたってところだよ。


実はね、この社はつい最近建てられたものなんだ。無許可でね。妙に真新しいだろう? 明治時代の曰くがあるような祠がこんな真新しいわけがない。大切に手入れをされていたとしても、もっとボロボロであってしかるべきだ。それがこいつはピカピカだ。最近設置されたんだってことがわかるだろう?


じゃあ誰が設置したのか。これはちょっとわからない。無許可で設置されたと言ったとおりだ。


ある日建てられていた。ずいぶん勝手だし、また不気味な話だ。この祠のある場所はね、なんの曰くもなかったんだよ。そうだよ。明治時代に若い村人が、迷信を打破すると言って壊して云々、そんなのは全部嘘、作り話さ。


騙されて気を悪くしたかな? でも地元の人間にとっちゃそれ以上だ。わけのわからない祠を勝手に建てられ、ありもしない歴史を捏造され、因習村ということにされた。たぶんこの祠を建てた人間が流した噂だろうね。ずいぶん勝手で、ずいぶん腹の立つ……そしてずいぶん不気味な話だ。


因習村伝説を作って注目を浴びたい人間は、まあそれなりにいるだろう。だからといって、実在する村に祠をわざわざ設置する人間が一体どれだけいる? この祠もさ、まあまあしっかりした祠だったろう? 結構するんだよ。値段がね。ただ注目を集めたいにしてはあまりにも不合理、というか、金をかけすぎだ。


そういうこともあって私が呼ばれたんだよ。ああ、うん、霊媒師でもある。ていうか拝み屋かな。本職は弁護士だよ。弁護士兼拝み屋。土地に勝手に建物を建てられて、宗教的なものだし高そうなものだから下手に撤去もできない、どうしたらいいか、これはそういう話なんだ。感情のままにたたき壊したらわけの分からないヤカラが怒鳴り込んできた、なんてことになったら困るだろう? だからちゃーんと根回ししてから怖そうとしてたわけだ。


ああ、いや、いいんだよ。その仕事の邪魔にはならなかったんだ。君は。なんせ、壊すに壊せなかったんでね。うん。壊す予定はなかった。いや、法的な問題は何もないよ。

ただねえ、祠ってのはさ、ただの小さな建物ってわけじゃなくてね。

中にあるんだよ。ご神体ってやつがさ。

奉ってあったろ? そう、それ。君が持ってるそれだ。


うん。それがあるから私は壊せなかったんだ。法的な問題はないけど、私は拝み屋でもあるからね。

ずいぶんヤバそうなもんが奉られてるなって、それに気づいたんだ。

安くはない祠が突然建てられ、そこに入ってるのはヤバそうなご神体……ご神体とも言えない、まあ今風に言うなら呪物かな。そんなもんが奉られている祠に、さらにおかしな噂が流された。


わかってきたみたいだね。こいつは呪詛だよ。勝手なことをされて怒った村人が祠をたたき壊したら、噂の通り村人は呪われていただろう。ところが村の人は冷静にも私に連絡し、私も適当な仕事はしなかった。なんとか呪いをかけられないような方法でこいつを撤去して、さらに犯人も突き止めようとしていたわけ。こいつは弁護士としての仕事じゃない、拝み屋としての仕事だね。


その仕事をだ。君はド派手に邪魔してくれたってワケ。


いや、いいよ、謝らなくて。実際怒ってないんだ。私は全然怒ってない。


だって、ねえ。


他人に向けられた危険な呪詛を、ちょっとした肝試し感覚で横取りしちゃったっていうんだから、まあ、なんというか。


哀れだなあと思ってね。


祠を壊したのは君なんだよね? 少年。


残念だけど君、死ぬよ。


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