第110話

「え……っ」




心音は激しく鳴っているのに、全く血が巡っていないような錯覚。




隣に彼が居るのに、肌に伝わっているはずの暖かさは感じられなくて……全身に悪寒が走っている。





『この手で……護れない……。抱きしめる事もできない………』





彼のその言葉と共に、私の身体は光に覆われた。





負荷のない………ぬくもりだけの抱擁。




「……っ」






『……セリカの傍にいて、癒して、セリカが幸せそうに笑ってくれる事だけで……とても嬉しかった』





私を包んだまま、彼は私の頭上で言葉を紡いだ。




『そうする事で存在している意味を感じられて、とても満たされていた。君に必要とされて、それが幸せで……ずっと続けばいいと思っていた……』




優しくて、切なげな声。





『でも、今は……』





彼に包まれて身動きがとれなくなっていた私の視界から、ゆっくりと光が薄れていく。




ケイが私から離れたと思って、慌てて視線を彼へと引き上げたけれど。




私の目の前は、光の粒子でできた霧がかかったかのように、全体的に白んでいるだけ……。

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