あなたの大切な人が異人だったら?気持ちは変わりませんか? A.(人による)

ムーディyou香

第1話  地球人ローレの過去


「イーバが出たぞー!」


 小学校の下校中の出来事であった。


 それはもはや、

 人々の日常の聞き慣れたセリフであっただろうが

 いざ自分が遭遇するとドキッとした。


「きゃー!」

「わー!」


 振り返り、騒ぎの方を見ると

 1人の男が錯乱した様子で

 包丁を片手に振り回していた。

 

 イーバ(異人)と遭遇した際、

 イーバ取締隊に報告するため、

 1人1個の信号弾を持つことを

 義務付けられていたが、

 発泡する余裕など、ない。


 人々は逃げ惑う中、

 恐怖で足が動かなくなった幼い私に

 男は狙いを定めた。



男「なんだその目は?睨みつけやがって!」


ローレ「えっ?」



 私は、ふと隣にあったショーウィンドウに映る

 自分を見て絶句した。

 いつもと顔つきが違うのだ。

 どちらかといえば垂れ目の方だが今、

 ここに映る顔は

 異様なほどツリ上がった目になっている。


 私はその目で男を睨みつけていたのだ。



男「おれを舐めるなー!」


ローレ「あ、あっ」



 男は私に襲いかかってきた。

 突如、さっきまで直立不動だった私の足が動いた。



 逃げた。逃げた。逃げまくった。



 それでも男は執拗に追ってくる。


 路地裏に逃げ込んだ先は行き止まりになっていた。



 最悪。



 息が上がり顔を上に向けた。

 いつの間にか日が暮れて空には月が出てきていた。


 その日は満月だった。



 パアーン!



 私は望みをかけ、

 震える手で信号弾を月に向けて放った。


 ザッ


 現れたのは、さっきの男だった。 

 とうとう追い詰められてしまった。


 (誰か、助けてぇ)


 そう思った時だった。

 


 男の背後から

 月から出てきたかのように1人の女性が現れた。



 それは目が釘付けになるほど美しい光景だった。



 その光り輝く女性は、

 月に届くほどの高いジャンプをして

 上から短剣で男に斬りかかった。



グサッ



男「うおお!」



 ザクッ 



 刺された男は喘ぎ苦しみながらも、

 包丁で女性の額を傷つけた。


女性「…うっ」


 女性は一瞬よろめいたが、

 すぐに立ち直り、また男に斬りかかった。



 戦闘を間近で見ていた私の顔に

 男の血しぶきがかかった。



 灰色の血ではなく、赤い血だった。


 

 イーバと人間の徹底的な違いは血の色だ。

 人々がイーバと思い込み騒いでいたのが

 人間だったとは。


 男は倒れこんだ。


 女性は傷ついた額を手でぬぐった後、

 その場を立ち去ろうとした。


 私は恐怖と興奮で変な感覚に襲われながらも、

 去り行く女性の手をガッと握った。


 女性は驚いた様子で振り返り私を見てきた。


(うわあ)


 サングラス越しだが、

 この光り輝く女性と目が合い、

 宙にも浮く心地になった。


 

ローレ「お姉さん!カッコいい!」

 


 私はそれだけを言い残し、

 意識がだんだんと遠くなっていくのを感じた─




 ─ハッと目が覚めた私は

 自分の部屋のベットにいた。


 あれ?なんで?と、不思議に思った。

 窓から陽の光が射し込んできた。

 もう朝だった。


 ベットから降りて、恐る恐る鏡で顔を見ると、

 そこには垂れ目でいつもと変わらない

 見慣れた自分の顔が映っていた。


 顔にかかった男の血も綺麗に消えていた。


 

 (夢?

 逃げてる時から頭ふわふわしてたし。

 かなり怖い夢だったあ。)

 


 と、思い出し恐怖で泣き出しそうになった時、

 机の上にノートの切れ端があるのに気づいた。


 その紙には

 『レシエ』

 と、だけ書いてあった。


 

ローレ「レシエ?!って、

あ、あの光り輝いてた人のこと?!うわ〜!

あれは夢じゃなかった、

って事でオッケーぃ?!?」



 私はその紙を抱きしめた。

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