GDKO館の謎

悠戯

GDKO館の謎


 絶海の孤島に建つ洋館。

 それこそ昔ながらのミステリ作品でしか見ないような、下手をすれば存在そのものがジョークみたいに思われかねない設定だけれども、いやはや、こうして実物を目の前にすると圧倒されるような迫力があるものです。



「やっと着きましたね、先生。風が荒れ始める前で幸いでした」


「まったくだね。せっかくの休暇半分の旅行で海難事故なんて洒落にもならない」



 いつも沈着冷静な時之介先生も、あの海風には内心穏やかではいられなかったようだ。ここまで運んでくれた漁師に礼を言うと僕達は、島の高台に建つ洋館へと歩き始めました。


 おっと、申し遅れました。

 僕は名探偵として名高い謎尾時之介なぞをときのすけ先生の助手。

 いわゆる、この物語の語り部というやつになるのでしょうか。


 如何にも「らしい」半ズボンの美少年か、はたまた可愛らしい僕っ娘なのか。

 あるいは年齢不詳で無精ヒゲを生やした怪しげな魅力を秘める推定中年男性か、意外なところだと長身イレズミのマッチョマンや、いっそ人間以外で人語を解する犬猫、高性能のロボットやもう死んでいる幽霊という可能性も?

 まあ、そのあたりの想像はご自由に。僕のヴィジュアルはこの事件の謎には一切関わらないもので。それなら読者の皆さんが好みの容姿をイメージしたほうが、スマホやPCのページをスクロールする指も滑らかに動くというものでしょう?



「そういえば、先生。たしか依頼状にあの館の名前が書いてありましたね。なんだかアルファベットを並べたおかしな名前だったように記憶しているのですけど」


「ああ、それならGDKO館だね」


「そうそう、そうでした。一体どういう意味なんでしょう? 一応、来る前に辞書をひいたりネットで検索をかけてはみたんですけれど」



 GDKO。

 結論としては何の意味もないアルファベットの羅列としか思えなかった。

 ですが、どうやら僕は基本的な見落としをしていたようです。



「やれやれ、キミはもう少し注意深く物事を観察すべきだね。その疑問については送られてきた依頼状の裏面にきちんと書いてあったとも」


「え、あれ裏があったんですか?」



 そもそも謎でもなんでもなかったようですが。

 学生のテストにありがちな失敗として、自信満々に表面の問題を解いたと思ったら実は裏面にも問題があるのを見落としていて赤点コース……なんてものがあるけれど、どうやら僕はそんなおっちょこちょい達と同レベルの失敗をしていたようです。



「それで先生、GDKO館ってどういう意味だったんです?」


「うん。正しくはジェノサイド・デストロイ・キルゼムオール・鏖殺おうさつ館と言うらしい」


「……なんて?」


「ジェノサイド・デストロイ・キルゼムオール・鏖殺館。長すぎて呼ぶにも書くにも不便なので普段はアルファベットで略しているのだろうね」


「帰りましょう!?」



 いくらなんでも名前の殺意が高すぎる。

 これ、明らかに呼び寄せた招待客が次々死んでいくやつじゃないですか。



「こらこら、落ち着きたまえ。どんな時でも冷静さを保つのが探偵の基本だよ。たしかに奇妙な名前だとは思ったが、ついでに命名者のセンスと人格と知性と正気を疑う名前だとも思ったが」



 ついで、が多い。

 まったく同意見ではありますが。



「妙な名前の館で連続殺人が起きるなんて、それこそミステリ小説か漫画の中の話だけだろう。恐らく、オーナーがその手の作品の愛好家で趣味が高じて、というあたりではないかな。本当に何かやらかすつもりなら、如何にも警戒されそうな名前なんて意図して避けるはずだろう?」


「なるほど」



 言われてみれば、もっともな話である。

 どうやら絶海の孤島というシチュエーションに加えて、珍妙に過ぎる館の名前を聞かされて、すっかりその手の作品の登場人物になった気でいたらしい。先生に指摘されて冷静になってみれば、ただただ自分の未熟を恥じるばかりです。



「ま、精進したまえ。ようやく着いたことだし、ここからは仕事に意識を切り替えるとしよう」


「近くで見るとより大きく感じますねぇ」



 出発点の船着き場から見ても大きく見えたものだけど、間近で見ると更に何倍にも大きく見えます。具体的には、窓の位置から判ずるに地上九十九階、左右幅一キロメートル超。奥行については位置関係的に分かりませんが、この正面から見る姿がペラペラの書き割りでもなければ相応に数百メートルはありそうです。



「あのぅ……大きすぎません?」


「うむ、依頼人の閉込氏は随分な資産家のようだ」


「この孤島も佐渡ヶ島くらいありますからねぇ」


「船着き場からここまで歩いてくるまで半日くらい経過してるからね。おかげさまで良い運動になったよ」



 流石は名探偵謎尾時之介。

 これほどの建物を前にしても動じる様子はありません。

 それよりも先生が口にした閉込氏という人物。それが僕達を呼び寄せた依頼人なのですけれど、今考えるべきは彼についてでしょう。



「うん、依頼人や事件関係者の情報はいくら見直しても十分ということはない。キミも探偵としての心構えが育ってきたようだ」


「ふふ、先生のご指導の賜物です」


「それで依頼人の、閉込とじこめ頃素造ころすぞう氏についてだけど」


「あの、もう一回いいですか?」


閉込とじこめ頃素造ころすぞう


「帰りましょう!?」



 これ、絶対に招待客を閉じ込めて殺していく奴じゃないですか。

 名は体を表すという言葉がありますが、いったい親御さんはどういう意図で息子さんにこんな名前を付けたのか。立派な殺人鬼になるように、とか?



「まあまあ、落ち着きたまえ。たしかに名は体を表すという言葉はあるがね、だからといって名前から人の内面を決めつけて不当な疑いをかけるというのは、探偵にあるまじき姿勢だよ」


「それは、まあ、そうなんですが……」


「たしかに奇天烈な名前だとは思うがね。ついでに親御さんの常識と道徳と倫理観と社会性とネーミングセンスを疑う名前だとも思ったが」



 またまた、ついで、が多い。



「だとしても問題があるのは、あくまで氏の親御さんであって、ご本人に対してはなるべく先入観を廃して向き合うべきだと思うがね」



 先生に上手く丸め込まれてしまった気もするけれど、たしかにその通り。

 なんらかの悪意があるとしても、それはイカレた命名をしたご両親のものだろう。件の頃素造氏は、むしろそのセンスの被害者とすら言えるかもしれません。



「じゃあ、この変わった名前の館を建てたのも、そのイカ……独特なネーミングセンスをお持ちのご両親だったのかもしれませんね。現オーナーの頃素造氏はただ受け継いだだけ、とか」


「それは氏本人らしいが。いや、建物そのものは前からあって、名前だけ自分が当主になってから付けたのだったかな」



 残念ながら、残念なネーミングセンスは遺伝してしまったらしい。

 それなら案外、自分の名前も気に入っているかもしれません。



「探偵の謎尾様とお付きの方ですね。ようこそいらっしゃいました」



 館の門が重々しい音を立てて開く。

 その門から出てきた人物が僕達を出迎えてくれました。

 背筋がシャキッと伸びた白髪の老人。世の人が「老執事」というフレーズから思い浮かべる姿をそのまま形にしたかのような人物です。



「私は執事の三須と申します。主人の閉込が体調不良で臥せっておりまして、ご挨拶ができないことを代わりにお詫び申し上げます」



 これ、最初から主人は存在しない架空の人物か、僕達が来た時点ですでに殺されてるパターンかなぁ、なんて不謹慎な想像が脳裏をよぎります。



「いえいえ、お気になさらず。見たところ他の使用人の方はおられないようですが、この館には三須さんと閉込氏の二人だけがお住まいなのですか?」


「はい、主人が人嫌いなものでして。この館も手入れがままならず、お恥ずかしながら大半の部屋は蜘蛛の巣が張っている有様で」



 それはまあ、そうでしょうね。

 ここで、ふと気になることがあったので聞いてみました。



「ええと、済みません。三須さんと仰られましたね。失礼ですが、フルネームは?」


「はあ、三須利度要居みすりどよういですが?」



 みすりどようい。

 ミスリード要員。

 なるほど、少なくとも真犯人ではなさそうだ。ひとまずこの老執事は信じても大丈夫そうですね。いやまあ先生から言われたことは重々承知しているつもりなんですが、なんというか、こう気分的に。



「お待たせしました、皆様。最後のお客様がお着きになられました」


「やっと来やがったか、待ちくたびれたぜ」



 そうして三須氏に通された玄関ホールには、何人かの先客がいました。



「俺はロスで刑事をやっているサイショーノ・ギセーシャ。これでもアメリカじゃあちょっとは知られた名前なんだぜ?」



 あ、最初に死にそうですね。なるべく近寄らないように……いえ、むしろ積極的に張り付いて早期解決を狙うべきでしょうか。



「私はミステリ作家のリード・ヨーウィン。サインのリクエストはおありかしら?」



 お、ちょっと捻ってきましたね。

 リード・ヨーウィン女史。

 ミス・リード・ヨーウィン。

 ミスリード要員。

 どうやら三須氏と同じ枠のようです。



「……ウーサン・クセーダケ。探偵だ」



 最後に短い自己紹介をしたクセーダケ氏。

 包帯でぐるぐる巻きの顔にロングコートに手袋といった不審者丸出しのスタイルですが、彼もミスリード要員のようですね。ひとまず警戒を緩めても大丈夫そうです。


 いやまあ繰り返しになりますが、名前で必要以上の先入観を持つべきではないとは分かっているつもりなんですけど……いや、だって、これはもう仕方ないじゃないですか?



「謎尾時之介、私も探偵業を営んでおります。それから、こちらが」


「謎尾先生の助手を務めさせていただいています。どうぞ、よろしくお願いします」



 僕達二人も自己紹介を終えて、これでようやく本題に移れそうです。

 各人の名前については一旦忘れるとして、日本のみならず世界中から推理や捜査の能力に秀でた人材を呼び集めたということから考えられるのは、先生や他の皆さん、ついでに僕に解かせたい謎があるというのは想像に難くありません。



「すでにお気付きかと思われますが、主人の閉込はとある謎を解き明かすために世界中から皆様をお呼びしたのでございます」



 僕達を招いた閉込氏および氏の代弁者である三須氏も、そのあたりを隠す気はない様子。もったいぶることもなく早々にその謎を提示しました。



「これはコピーですが、この暗号文。これに先代の当主が隠した遺産。莫大な量の金塊の在り処が隠されているはずなのです。その価値、推定で1000京円」



 それ、見つけちゃって大丈夫なやつかな?

 これが億や、ギリギリ兆単位ならともかく、京はいくらなんでも多すぎる。

 下手に探し当てたが最後、金の価格が暴落して世界経済が滅茶苦茶になってあちこちの国で戦争が起きたり、最悪遺産そのものをなかったことにしようとミサイルでこの島ごと消されたりしませんかね。


 いやいや、別に全量を一度に持ち出さなければいいだけでした。

 それに、そもそも暗号文とやらが解けなければ杞憂で済むわけで――。



「これが、その暗号文ですか」



 僕は他の皆さんと一緒に三須氏から手渡された暗号文に視線を向けました。



――――――――――――――――――――――――


  たたいたたたたったたたかたいのたたた


  たしたたょさたたたたいのたたたゆかた


  たたのたたたかたくしたたたべたやたた


――――――――――――――――――――――――



「嘘でしょう……」



 思わず凄まじい脱力感に襲われました。

 ご丁寧に暗号文……暗号文と言っていいのかも疑問ですが、紙のすみっこに「ヒントは『たぬき』だよ!」とフキダシつきの台詞を喋るタヌキのイラストまで付いています。これはいくらなんでも……。



「ちっ、こりゃあどういう意味だ。さっぱり分からねぇぜ!」


「ふふふ、ずいぶん手強い謎のようね。これでこそ燃えるというものよ。生憎と日本語の読み書きは不得意なのだけど、私の勘だとこの動物の絵がカギと見たわ」

 

「……難解」



 たしかに海外の方には難しい謎かもしれませんけど!

 


 ◆◆◆



『読者への挑戦状』


 賢明なる読者諸氏におかれましては、全ての真相が明らかになった頃合いかと存じますが――――。



 ◆◆◆


 いや、こんなので『読者への挑戦状』パートを挟まないで下さいよ。

 『挑戦状』というか、むしろ『挑発状』ですらありますよ。



「ふ、どうやら謎はすべて解けたようだ」



 先生は先生で、こんな謎とも言えないような謎を、謎というかなぞなぞの解決パートを頑張って盛り上げようとしているし。



「オーナーの閉込氏、それから三須さん。あなた方はもしや長く海外にお住まいだったのではないですか?」


「そ、そうですが、何故それを!?」



 ああ、はいはい。

 一見すると日本人風の名前だから、いえ相当な珍名ではありますが、日本語の読み書きも分かるだろうという先入観がありましたけど、実は他の外人さん達と同じで喋りは流暢でも読むのはさっぱりというパターンですか。



「――つまり一種の言葉遊びなわけですね。『タヌキ』を言い換えて『タ』ヌキ。『た』を抜くと本当の文章が現れるという仕組みです」


「なんだって!?」


「そういうことだったのね!」


「……!」



 先生もよく吹き出さずに大真面目に謎解きを披露できるものですよ。

 こういう雰囲気作りも名探偵の資質なんでしょうか。

 僕、ちょっと自信がなくなってきました。



「そうして『た』を抜いた残りの文章は『いっかいのしょさいのゆかのかくしべや』。『一階の書斎の床の隠し部屋』というわけです。三須さん、この館の一階に先代が使われていた書斎はありますか?」


「え、ええ、ですがまさかあの部屋にそんなものが……」



 三須氏に案内されてゾロゾロと書斎に移動した僕達は、手分けして床を蹴ったり叩いたりして調べました。


 ありました、隠し部屋。

 ありました、金塊。


 そりゃあもうキンキラキンです。

 一体何百トン、何千トン、あるいはもっとかもしれませんが。

 東京ドームが何個も収まりそうな広大な地下空間いっぱいに、ギャグみたいな量の金塊がしまいこまれていたのです。なんだか頭が痛くなってきました。



「ありがとう、ありがとう。流石は名探偵と名高い謎尾先生じゃ!」



 なんか、ここへきて見覚えのない新キャラが出てきました。

 あまり健康そうには見えないご老人のようですが。



「おや、あなたが閉込とじこめ頃素造ころすぞう氏ですね。お身体の具合はよろしいのですか?」


「この光景を見たら病気なんぞ一発で吹っ飛びましたわ、がはは」



 まあ、その気持ちは分かります。

 これはいくらなんでも多すぎますけど。



「いや、まさか……」



 ふと、とある荒唐無稽な考えが脳裏をよぎりました。

 まさか、本番はここからなのでは。

 隠された財宝の存在を知る僕達の口を封じようと閉込氏が暗躍する、あるいは金塊を横取りして独り占めしようと企む誰かが他の皆を始末しようと――。



「さあさあ、遠慮は無用ですぞ。謎を解いてくれた謎尾先生だけでなく他の皆さんも、わざわざこんな場所までご足労いただいたお礼に好きなだけ持って帰ってくだされ。一度に持ち帰れなければ三須に郵送なり銀行口座への送金なりさせますので。おお、もちろん三須にも欲しいだけやるからな。なぁに、長年の奉公の礼と思えば安いものよ」



 あ、ないわ。

 閉込さん、すっごく気前がいい。

 他の人達にしたって、わざわざ無用のリスクを冒すまい。

 どうせ、金塊は掃いて捨てるほどあるのです。



「じゃ、じゃあ、失礼します」



 僕も、おっかなびっくり持ち歩いていた旅行カバンに金塊を二つ三つほど。先生は興味なさげにしていますが、ありがたいことに特に止める気はないようです。他の人達も各々の服やカバンに詰め込めるだけ詰め込んで、その後は上階に戻って三須氏の作る絶品料理で三日三晩の大宴会。もちろん物騒な人死になどありません。


 どうやら外はひどい嵐が来ていたようですが、ずっと館の中にいたので問題なし。

 長い長い宴が終わると迎えの船に乗り込んで、僕達はこの島を後にしました。



「いやぁ、まったくお恥ずかしい。先生の言う通りでしたね、名前で人を判断しちゃいけないとよく分かりましたよ」


「おや、本当にそう思っているのかい?」



 緩んだ気分に水を差すような一言。

 そう言ったのは他ならぬ先生自身のはずなのに、一体どういうつもりなんだろう。



「いや、すまないね。本当に他意はないんだ。無駄な先入観を捨てられたなら、それはもちろん良いことだろう。しかし仮にも探偵の身としては、普段から特に意味もなく思わせぶりなことを言ってそれらしい雰囲気を作る練習をしておくべきなのでね」


「な、なんだビックリしました」


「正直、この仕事はそれらしい雰囲気さえ作れれば九割方勝ったようなものさ。謎解きに関してもそれらしいことをそれっぽく言っておけば、大抵の人はなんとなく勢いに押されて納得してしまうからね。運が良ければ犯人が勝手に自白してくれるまである」


「そ、そんなものですか」


「そんなものだとも」



 なんだか、すごい偏見のような気もするけれど、誰あろう名探偵謎尾時之介が言っているのだ。好意的に解釈すればロジックによる解決法だけに頼らず、盤外戦術的な心理戦にも長けていると言えなくもありません。多分。



「それにしても、あの謎、あの暗号はひどいものでしたね。まさか、あんな謎とも言えない子供騙しのなぞなぞだとは」


「おや、本当にそう思っているのかい?」



 話題を変えようとしたら、またもや先生が思わせぶりなことを言ってきた。

 流石に、今ネタバラシをされたばかりでは雰囲気に呑まれるも何もないけれど。



「いや、それが本当にそうでもない。私はあの謎があって本当に良かったと思っているんだ。キミはミステリの定義というのは存じているかな?」



 急に話を逸らされた気がするけど、これも先生のテクニックなんでしょうか。

 ミステリの定義……それこそ、今回の館のような場所で凄惨な連続殺人が起きるような物語を真っ先に思い浮かべてしまうけど。



「それもミステリの一形態ではあるがね。正確には何らかの謎が含まれた話。そこに殺人や珍妙な舞台や私のような探偵の出番が多いのは認めるが、それらは必ずしも必須の要素ではない。現に一切の死人や流血描写がない日常のちょっとした謎を扱う平和的なミステリ作品だって色々とあるだろう?」


「なるほど、乱暴な言い方をすれば謎さえ含まれていれば残りの構成要素は何でもいいと」


「そして、その謎の難易度は特に問われない。どんなに陳腐で誰が見ても一目で分かる謎だろうと、謎が含まれてさえいればその作品はミステリを名乗れるのだよ」



 やや強引な気はするが筋は通っている、ような気がします。それとも、またもや気付かぬ間に先生お得意の心理戦術に丸め込まれているのだろうか。



「つまりだね、仮に、もし仮に今回の一件を物語としてまとめた場合、あのタヌキの謎が含まれていれば例えば世界最大級の小説投稿サイトである『小説家になろう』や『カクヨム』に『推理』カテゴリで投稿することも可能となるのだよ。アレがなければ『コメディー』あたりが適切で、もしうっかり探偵が出るからと『推理』で投稿したらカテゴリエラーとしてうるさ型の読者から批判続出。ネットで大炎上していたかもしれない」



 そうかな?

 そうかも?

 でも、流石に自意識過剰じゃないかな。



「なにしろミステリマニアというのは猜疑心が服を着て歩いているような連中だからね。ロジックの粗を見つけたら鬼の首を取ったように騒ぎ立てる生き物なのさ!」



 それこそ珍名云々以上の偏見な気がするけれど。

 先生、その手のマニアにイヤな思い出でもあるんだろうか。

 バカみたいな量の金塊を前にした時より感情的になってる気がする。



「ともかく、キミも探偵を志すならば言葉の意味や物事の定義については注意深くするようにしたまえ」


「はい、先生」



 以上が今回の一件の教訓ということになるのだろうか。

 ともあれ、こうして僕達はGDKO館から愛すべき我が家へと戻ったのでした。


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