三回目です魔王様♪ 解離性のある日常と魔王様のちゃぶ台返し編
三回目です魔王様♪ #自動精算機の鎮魂歌
名残り雪市、とある牛丼チェーン店入り口前に魔王あゆみと下僕の小雪は立ちすくして居た。二人の腹から鳴る腹太鼓は空腹を示し、のぼりに書かれている「大盛無料」と言う単語に恐ろしい表情をしてあゆみは言葉を零す。
「大盛が無料……であるぞ」
「ふぁい」
放課後の帰り道で寄り道をしていた二人は光り輝く牛丼チェーン店の前で完全に足を止めていた。常坂寺に肉を食べてはいけないっと言う決まりは無い。其れに体重操作出来るあゆみからしたらカロリーも気に成らない。小雪はそもそも痩せているから多少は食べても良いぐらいだ。しかし――。
「魔王様……マネーはお持ちでしゅか?」
死 活 問 題 !
「ふ、ふ、ふふ……良いか小雪よ。我の財布には今! 千円札が入っておるのだっ!」
「おお、偶には役に立つのでしゅね!」
あゆみの坊主頭を一撫でする小雪は、るんるん気分で其の禁断の扉を開き、店内へと入った。あゆみも鳴る腹を押さえながら着いてゆく。店内は牛丼チェーン店とは思えない程に混雑していて、二人はイソイソと四人掛けのテーブル席に対面して座った。
「いらっしゃいませ~ご注文はタブレットからお願いします」
若い男性店員が水の入ったコップを二つ置いてそう言った直後、二人は同時更には瞬時にテーブルのど真ん中に置かれているタブレットを睨んだ。実はこの二人――。
「たぶれっと……? 小雪よ何だ之は?」 「ふぁい? 分かりかねましゅ」
死 活 問 題 !
今時のおっさんでも分かるタブレット操作での注文は人生初体験である。恐る恐る画面に表示されている「新規注文」と言うタブを設置されて置かれていた箸の先端で押すあゆみ。すると画面が切り替わり、メニュー画面が表示された。
「我、牛丼大盛で良いぞ、ほれ、頼んで見せろ小雪よ」
「はあ!? 此処は男らしくおめえが注文せーやっ!」
突っ込む小雪にガクガクと震えるあゆみは、更に恐る恐る「キッズメニュー」を箸でタップする。お子様メニューの内容が表示された事により、このタブレットへの理解を得たあゆみは不敵に笑ってみせる。
「ふははっ、なるほど、見切ったりタブレット!」
軽く説明しよう。この二人は令和のこの時代を生きているクセに――スマホすら持った事が無いのだった。高校二年生の辿る道とは思えない険しい道のりを歩んで居るのだ。
こうして無事に牛丼大盛を食べた二人の表情は非常にゆるくたるんでいた。コップに入っていた水を飲み干し、タンッと力強く置いてタブレットとの戦いを勝利に収めた魔王あゆみと小雪は満足気に会計へと沈む夕日を背に向かった。
「ありがとう御座います、お会計其方にお願いします」
店員に伝票を渡し、手で示された自動精算機を眼前にして二人は硬直し、二人同時に同じ言葉を吐いた。
「………………こやつ何奴っ!」
死 活 問 題 !
店員は其れだけ告げると会計カウンターを離れて仕事に戻ってしまう。お会計額が表示されている液晶画面、何かを落とせる様な縦穴と、何の為に開いてるのか理解に苦しむ横穴が二人の頭脳を最大級まで回転させる。だが……自動精算機がまったく理解出来ない二人にひたひたと忍び寄る「食い逃げするしかなくね!?」っと言う思考が次第に沸いて来る。其処で魔王あゆみは下僕である小雪に情けない所を見せる訳にはいかんと言うよく分からん意地で声を上げた。
「おい、貴様っ! 金は此処に置いておくぞ……っ! ふっ……釣りは要らぬぞ」
そう言って有り金の千円札を会計カウンターへと叩きつける。
「おおお、魔王様! カッコいいでしゅっ!」
店員が慌てて、会計カウンターへと戻って来て、サングラスを外し背を向けて片手を上げるあゆみに一言飛ばす。
「あのっ! お会計……足りてませんが?」
拍 手 喝 采 !
トータル千二百円の会計。店内は其の様子を一部始終、垣間見ていて拍手した。結局小雪の金を多少借りて会計を済ませる情けない魔王の哀愁漂う背を後ろで見ていた小雪は頬に一筋の涙を流す。
「世も末ですねえ……。」
三回目です魔王様♪ #自動精算機の鎮魂歌 おわり
四回目です魔王様♪ #禁忌のロシアンルーレット に、つづく。
作者一言コメント『ありそうな話』
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