魔王様はご乱心 ♪ ~世も末ですねえ~

こみかるんch

▽ハジマリの宴▽

一回目です魔王様♪ 解離性のある日常と魔王様のちゃぶ台返し編


 一回目です魔王様♪ # 戦慄の校内放送


「俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる、探せ! この世の全てを其処にお――ごほぉっ!」

 令和XX年。都内、名残り雪市にある学園、私立胡桃沢学園の学級校舎三階、其の角の窓が小気味良い音を立てて割れる風景から、この話は始まる。

「ヴぁかなのか貴様っ! もれなく開幕早々から著作権の問題で我が逮捕される所であったぞ!」

 今時中二臭い黒いマントを羽織り、そう怒号を飛ばす青年は窓硝子を首半分突き抜けた少女の胸倉を掴み、更にぐわんぐわんっと少女を揺らしながら続けた。

「着るやつだな!? 着るワンピースだと言っておけ! 小雪(こゆき)!」

 白髪のショートヘアは小雪と呼ばれた。そんな彼女には何枚か割れた硝子片が刺さっている。

「あいっ、申し訳ありましぇぬ、あゆみ兄さま~っ!」

 あゆみと呼ばれた青年は更に小雪のスカートをバサっと捲って怒号を上げる。

「我は魔王ぞ! あゆみ等と言う女々しい名では無いわっ! 其れに何だこのパンツは、我は黒以外認めんぞ」

 そう言って、小雪のスカートの中に顔を入り込ませる魔王と名乗るあゆみ。

「魔王様のえっちい!」「ふごぉっ!」

 あゆみの腹をつま先で蹴り上げる。はてさて、この二人組は何をしているのか。答えは――。

「良いか……小雪よ。我は魔王と成り、先ずこの名残り雪市を支配下に置くと決めた」

「ふぁい?」

 脳天に刺さっていた硝子片を右手で抜いて窓の外へと放り投げる小雪は眉を片方上げてあゆみの話の続きを待った。

「そして……今日、我等魔王軍は、この学園の校内放送から生徒共を洗脳してやろうと決めたのだっ! フハハ」

「ふぁい、ですから、先程の冒頭では台本を読み上げておりましたよ」

 澄ました表情でとある少年漫画を取り出してみせる。其れに対してあゆみの怒号が又も飛んだ。

「それ、我が死刑に成るフラグ立つからやめろっ! 漫画出すのやめてえ……ほんそれやめたってえ……着るワンピースだからね、ね?」

「魔王様、正直い~に言わせて頂きましゅ! この展開めんどくさくないですか?」

 確信。其れはあゆみにとって禁句とも言える一言だ。

「めえんどおくうさあい、じゃねえ! 我には生まれつき不思議な力があるのだ、この授かった力を地球征服に使わずして何処に使うと言うのだっ!」

「ふぁい、やっぱ此処からはめんどくさいのでナレーションでお送りしま~す」

 そう言って小雪は窓の白いカーテンを閉めた。


 そう。之は天文学的数字、いや其れでも「起こりえない」かも知れない事象だった。彼、木本あゆみは生まれながらにして特別な力が携わっていたのだ。其の恐るべき力とは――犬と仲良く成れる。でわ無い、体の重さをマイナスからプラスまでの数字、之を自在に変化させる力を持っていた。(あ、之はマジでしゅよ)

 こうして、両親からは気味悪がられ、挙句の果てに捨てられた子、あゆみが爆誕した訳である。そんな彼は親戚の家を転々として、幼い頃に小雪と出会った。面倒見も良く、お人好しで有名だった小雪の両親はあゆみを養子として迎え入れたのだった。(私の両親も物好きでしゅねえ)

 捻くれた少年あゆみは、一つ年下の義妹(ぎまい)である常坂小雪の苗字を貰い常坂あゆみとして生きてきた。そして……変わり者の二人は揃って名残り雪市魔王軍と名乗りを上げ、生き恥を晒し続けているのだった。之はそんな不思議な力を持つ常坂あゆみと従順(?)なる配下、小雪の世直しの黙示録である――。


「魔王様~校内放送まで残り十五分ですよ? こんな屋上で呑気にお弁当食べていて良いのですしゅか?」

 購買の焼きそばパンと牛乳をヤンキー座りでかっ食らうあゆみは、似合わないサングラスを人差し指で押さえる。そして小声で言う。

「……のだ」

「ふぁい?」

「怖いのだっ! 今更ビクついておるのだっ!」

「はあ!? おめえの昭和臭いシーンのがこえーよっ!」

 突っ込みを入れる小雪。眉を寄せて鬼の形相であゆみの胸倉を掴んだ。

「お、落ち着け小雪! 我の小心者っぷりには我自身呆れておるのだ……だがな小雪」

 ゆっくりと片手を小雪の胸に添えて揉みながら言葉を続けた。

「我は――……誰よりも怖がりであるぞ。……いやだってさ、ホラーとかマジで無理だから、うん本当に無理、其れがさ放送部でも無いのに校内放送するとか、いや、ねえわ、うん」

 情けない男。次世代の魔王あゆみ、極度のビビりプラス変態。


 ――校内放送まで残り五分。


「急いで急いで魔王様。 体重操作しか出来ないんでしゅから鍵の閉まったドアは無理でしゅ、攻めるなら上でしゅよ」

 干物の様にやつれたあゆみの表情を余所に、小雪は体重が一キロと成ったあゆみを抱えて放送室の上の階へと移動した。通り過ぎる女子達の胸を触り、セクシャルを働く彼に小雪が呆れた。

「怖がりのクセに、エロスだけは立派に育ったでしゅね」

「ハッハッハ、そうであろうそうであろう。どれ揉み飽きたが下僕のも揉んでやるか」

 そう言って自分を抱えて廊下を走る小雪の胸を揉みしだいた。其の横暴を止める事無く、廊下の上を小雪の履くローファが滑って放送室の真上の部屋へ通じるドアへ向けてあゆみを放り投げる。

「しゃっきりと決めてきてほしいでしゅっ! 私は魔王様の校内放送を楽しみに待っているでしゅよ!」

 マントをひるがえし、着地するあゆみは白い歯を小雪に見せて笑った。

「任せておくが良い! 体重五百キロ増加っ!」

 五百キロ増加するあゆみの体重。鉄筋作りの床に少しずつヒビが駆け巡る。

「追加じゃあっ、更に五十キロ増加!」

「やったれやったれ魔王様~♪」

 そして……床をブチ抜いて瓦礫と共にあゆみは放送室へと舞い降りた。


「な、なんだお前!?」

 放送部員の制止も聞かず、男あゆみは校内放送のマイクをオンにする。そして彼の校内放送が始まった。




「南無阿弥陀仏~南無阿弥陀仏~喝っ!」

 其れだけを只管繰り返す校内放送。聴いた生徒達はこの時の状況をこう語ったと言う。「後光が射した様だ」っと……。


「さっすが私の魔王様♪ 本日も見事なご乱心っぷりですねえ、やれやれ……」

 今、明かそう。常坂家は代々から継がれる「寺」だったのだ。そして常坂あゆみは跡継ぎとして養子に取られ、其の風貌は坊主そのものだった。令和の高校生と成ればファッションだの、見た目を気にする年頃であろう、だが彼は「坊主」だった!


 小雪は校内放送を聴きながら一筋の汗を流して呟いた。


「世も末ですねえ」




一回目です魔王様♪ #戦慄の校内放送 おわり


二回目です魔王様♪ #恋する魔王様 に、つづく

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