希望の種
YOUTHCAKE
第1話 Run away
『いたぞ!!追え!』『待てー!!!この野郎!!』
私の名前はリチャード・スコルニック。私は血族から代々続く理化学研究の専門家。今憲兵から追われている私がやっていることは、『世界の希望』をラボから運び出すという、日常を覆す様な違法行為。私がこれをする目的は、このケージに入れた生命体を、息子に託すため…。ケージの中の大きな毛虫のような生き物は、潤んだようなつぶらな瞳をリチャードに投げかけ、何も知らずほほ笑んでいるかのような表情を浮かべている。
『くそ!モヤシのような科学者の癖に何て足の速さだ!追いつけやしない!!』『脳筋の曹長に奴は早すぎるでしょう!俺が先に行って追いついてきます!』
この世界は、略奪と搾取という暴虐の時代。大地は荒れ果て、空は暗く重く雲が年がら年中垂れこめている。こんな世界を変えるため、私は秘密裏に個人的思想の追及のため、研究を続けて来た。他人からすると全く持ってとっつきにくく、端的に言えば人望が無い私にとって、それは環境が非常に整っており、理想を叶えるのに条件が十分だった。
『あの野郎!脚力増強剤でもドーピングしてやがんのか!?バケモノみたいに体力がある!』『絶対に逃がすんじゃないぞ!あいつを止めろ!手に負えなければ!殺せ!構わん!』
この生命体は、この後息子に託し、私は息子をかばって天命を全うする。もし、生命体が奪われたとしても、国家反逆罪で、私は間違いなく処刑される。どちらにしても死ぬ運命だ。そのうえ、この生命体は息子同様幼い故、息子とのシンクロ率が99%と神の御加護かのごとくマッチしている。息子に会うまでこの生命体を育てた数年間、彼には寂しい思いをさせたが、後生大事なこの生命体が、彼を今後守るだろう。そのうえ、彼は私に似て生まれつきの天才だ。きっと、この生命体を、完全体になるまで、知力を尽くし、守ってくれる。
『サム、お腹空いたね。』『ワン…。』
僕の名前はデビット・スコルニック。僕は飼い犬のサムとともに、このあばら家で一人一匹で過ごしている。生活費は、父のラボが出した研究の国家貢献手当によって、仕送りされている。毎日、サムと同じドッグフードを食べるのは、苦痛だけど、もう慣れた。
とそこに、[ドタドタドタ!!]と地震を起こす様な姦しい足音が彼のもとに近づいてくる。その音は、地面を蹴って唸るようだ。
『なんだ!何か来る!』『ワンワンワン!!!ワンワンワン!!』彼らは、空腹を堪えながら、体力の限界を超えているのにもかかわらず、危機察知能力を発揮して、身構えた。
『デビット!』と叫びながらあばら家に土ぼこりを挙げながら滑り込んできたリチャードはデビットを見かけるやいなや、彼にハグをした。
『父さん!!』と声を詰まらせながら、リチャードに抱き着くデビット。サムが、その間に挟まるように抱かれている。
別れを惜しむように目頭を押さえながら、すぐさまリチャードはデビットを引き離した。そして、言う。『手短に言うぞ、デビット。私は、もう長くない。お前に、これを託さないといけない。これは、世界の希望だ。地球の未来だ。この生き物が、この世を、虹色に変えてくれる。』
『貴様!ラボのものを息子に託すつもりか!国家物委譲罪で、令状なしで処刑する!』銃を構える憲兵。銃の安全装置は今持って外された。銃口がまっすぐリチャードの方へ向けられる。
『南無三!すまないデビット!私を許してくれ!世界を変えろ!シンクロ!!!!』とリチャードは叫び、その声を聴いた憲兵は、最悪の事態を想定し、銃のトリガーを引いた。咆哮した銃が、火を噴いた瞬間だった。
彼のケージに入っている生命体が七色に発光し、デビットの身体を包み込む。それと同時に、制圧弾によってリチャードが吹き飛ばされ、壁に血が拡散する。
『父さん!』と叫ぶデビットの声は発光によって発される[パイーン!]という音によってかき消された。
デビットを包んでいた光は、瞬く間に膨張し、辺り一帯を包んだ。吹き飛ぶ憲兵。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます