13.

今日見てきた中で、一番自然な笑顔だった。

江藤の冗談で緊張が解れたのだろうか。

その笑顔がとても──。


「可愛らしいです。素敵⋯⋯」


うっとりとした顔でそんな声が漏れた。

姫宮はそれを聞いて、今度は恥じらっているような笑みをしたが、それでさえも愛らしい。

安野達はこんな顔も見たことがあるのだろうか。

いや、安野達よりも姫宮が実の子と同じくらい想っているあの方に見せていなければ、ちょっと自慢したくなる。

表情を崩さない人が嫉妬を覚えるのを見たい。


「あの、江藤さん」

「はい、なんでしょう」

「⋯⋯様を付けるのをなるべく控えてもらえないでしょうか」

「はい?」


急に何を言い出すのかと思えば。

さっきの咄嗟にいつもの呼び方をしてしまって、周りに誤解を招いたことを気にしていたのか。


「そもそも私がそう呼ばれるような立場でもありませんので、せめて『さん』付けでも⋯⋯。今さらな気はしますが⋯⋯」

「そうしたいと仰るのなら、私は従うまでですよ、姫宮

「⋯⋯自分で言っておいてなんですが、今まで様付けで呼ばれていたのが慣れてしまって、違和感がありますね」

「確かにそうですね」


困ったような顔をする姫宮に苦笑を混じえた顔をした。


「えーっと、じゃあ⋯⋯名前の方がしっくりくるのですかね」

「姫宮様、それは承れません」


まさかそう言われると思わなかったというように、どうしてと困惑した顔を見せる。

姫宮がそんな反応をするのは無理もない。


江藤の立場としてそれはあまりにも親しい関係になっていないかと、何より、そう呼び合うのがふさわしい人の前でうっかりそう呼んでしまったら、嫉妬どころの騒ぎではないかもしれない。

安野ならまだしも、いつの間にか名前で呼び合う仲になっているのだから、その特別を江藤が壊してはいけない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る