7.

それはどこであったかと、身近から思い返していると、「あ、そうだわ」と思わず声を出していた。


ある日、大河だけが自分の部屋へ行ったかと思えば、自分とほぼ同じ大きさのハニワのぬいぐるみを持ってきて、それを抱きかかえながら大好きらしいあのアニメを観ていた。


そう、大河が持っているような抱き枕なのだ。

自分の好みよりも子どもの好みになるのは彼らしいと思えるし、もしかしたら、大河のために買おうとしていたのかと思うと、子ども想いだなと胸が温かくなるのを感じた。


会計を済ませた姫宮がエスカレーターの方へ向かうのを微笑ましげに見つめていた、その時。

足が絡んだようだ。よろめき、倒れそうになった。


「姫宮様ッ!」


悲鳴のような声を上げ、颯爽と駆け出し、今にも倒れそうな姫宮を抱き止めた。

腕に確かな重みを後から感じ、耳にまで聞こえそうなほどの心臓の音を聞きつつも、ホッと息を吐いた。


「ああ、良かったです。まさか倒れるとは思いませんでしたので、肝が冷えました。姫宮様、お怪我は」

「ええ、はい⋯⋯私は大丈夫ですけど⋯⋯江藤さんが何故、ここに?」

「⋯⋯あ」


全く状況が理解できないという困惑の顔を見せる姫宮にそう言われて、咄嗟に出てしまった行動に今さら気づいた。


「あと、その⋯⋯この場から離れたいです⋯⋯」


次に真っ赤な顔をし、消え入りそうな声で姫宮が言うように、周りから「ひめ⋯⋯様?」「どこかのお金持ちなのかしら」とザワつく声を聞き、自身がつい発言したことを恥じた。


「⋯⋯申し訳ございません。場所を代えましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る