3.

「安野さんは私と一緒に夕飯を作りましょうね」

「なんで夕飯! まだ昼食も作ってないでしょ!」

「あと洗濯物を畳まないといけませんよ」

「上山が持っているので最後じゃないの!」


今井と上山がどうにか止めている隙に、リビングから出て行った。

そこから出て行く際に、「行ってら〜」という呑気で面白がっている小口の声が聞こえてきたが、特にそれに返すことなく、少量の荷物を下げて玄関へと向かった。




揉めている間に姫宮はどこかに行ってしまうだろうに。


そう思い、急ぎ足でマンションから出、どこに向かったのかと辺りを見回していると、少し離れたところで立ち止まっている姫宮の姿を見つけ、とっさに物陰に隠れる。

携帯端末で何か探している様子だが、向きを考えると不意に顔を上げた時に気づかれてしまうものだった。

慎重に行動せねばと緊張しつつ、姫宮の行動を見ていた。


主に安野と今井が姫宮の世話を焼いているものだから、接する機会はなかった。

あるとしたら、家事の手伝いをしてくれる際にたまに一緒にやることになって少し話す程度だ。

話すとは言っても、姫宮から話すことは無いに等しく、江藤のなんてことないに相槌をするぐらいなものだ。


安野ほどではないが、江藤も姫宮のことは人並みに好きではあるし、もう少し仲良くなりたいと思っていた。


それにしても。

先程から携帯端末を眺めては辺りを見回しているようだが、どこかに行きたいのだろうか。

仕事として外に行った程度で、だが、その時も一人でなかった。こうして一人で行ったことは見たことがなかった彼だ。迷っているのかもしれない。


今すぐにでも彼の元に行って、目的の場所に同行したいところだが、一人で行きたいと言っていたのに、これでは安野と変わらないではないか。


焦れったく思うが、このまま見守ることしか今の江藤には出来なかった。

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