第34話 形勢逆転


「嘘だ……、嘘だああああ!!!!」


 オベロンはその場に崩れ落ちた。

 ぺたりとうつ伏せになった妖精王など気にする素振りもなく、ファビオとオルランドは俺の両側からそれぞれ肩を抱いた。



「さあ、早速今から寝室に行こうぜ」

「ファビオ、お前、あの約束、ちゃんと覚えているだろうな!?」


「え、あの……、ファビオ様、オルランド様っ!?」


 戸惑う俺に、ファビオとオルランドは、俺の耳元に唇を寄せた。



「……あんなこと言われてもう我慢なんてできるわけないだろ!? 抱かせろ!! いま、すぐに!!」


「順番を間違うなよ、ファビオ! ああ、ティト……、君の中はすごく熱いんだろうね……」



「……っ、ひゃあっ!!」


 両側から耳に息を吹き込まれるように言われると、くすぐったいようななんとも言えない感覚がゾワゾワと背中を走った。



「「さあ、行こうか!」」


「……はいっ」

 

 俺は二人にいざなわれるようにして、俺は立ち上がった。

 ドキドキしてふわふわして、なんだか足元がおぼつかない。



 だが……、



「待てっ! 僕を無視して話を進めるなっ!」


 オベロンは必死でずるずると、床をほふく前進しながら、俺たちに近づいてきた。



「駄目だっ、ティト! 君は魔王様と番うんだっ! 僕のために、魔王様の子供を産んでおくれっ!

君の手に、妖精界の未来がかかってるんだよっ!? こんなちょっと見た目がいいだけの変態に君の純潔を捧げてはいけない!!

それにそれに、こんな変態どもより、魔王様のほうが絶対強いし、強制的に従えてる部下もいっぱいいるし、城だって広いし……っ、えーっと、他には……、ああっクソッ、あの目つきの悪いムカつく坊やってば、いいところがあんまり思いつかないっ!!」


 必死で俺に向かって手を伸ばしてくるオベロンの言葉に、ファビオとオルランドはくるりと振り返った。



「今の言葉、聞き捨てならないな」


「そうだね、ファビオ。一体誰が、私達より強いって?」



 髪を振り乱したオベロンは、ニヤリと唇を歪める。


「はっ、笑わせるなよ! 人間ごときが、魔王様に勝てるはずがないだろう?

お前たちなんて、妖精王の僕の足元にだって及ばないくせにっ!」



「じゃあ、試してみるか? 妖精」


 ファビオの青い瞳がきらめいた。



「そうだな……。こういう輩には、一度お仕置きが必要だな」


 オルランドがその長い黒髪をかき上げる。



「ははっ、面白い! 僕が勝ったらティトは返してもらうよっ!」


 這いつくばっていたオベロンは、急に立ち上がった。

 見ると、その紺色の瞳には、また企みの色が戻っている。



「今まではティトのご先祖様だと思って遠慮してたけど……」


 ファビオがオルランドを見る。



「そうだね。可愛いティトを、自分の私利私欲のために利用しようとするなんて、たとえ血が繋がっているとはいえ、許されることではない」


 オルランドはファビオと目を合わせ、うなずく。




「ははっ、人間風情が、妖精王・オベロン様を舐めるなよっ!!」


 オベロンが右手を上げると、そこから旋風が巻き起こる。




「妖精王、俺たちが勝ったら嬉しいお仕置きを用意してやるから楽しみにしてろ!」


「私達を誑かし、ティトの心を弄んだ罪、今ここで償わせてやる!」




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