第26話 ああ、この恋の光が……



「ティトっ、どれだけ俺を振り回せば気が済むんだ!

魔法学園で出会ってから、俺はほとんど毎日、君のメールボックスに俺の自作の詩を届けていたはずだ!!

俺の名前だって、ちゃんと書いてた! それを君は……っ!」


 ファビオが息がかかりそうなくらい、俺に顔を近づけてくる。


 ――美しい人って、いい匂いもするんだぁ……!


 ってそんなことじゃなく!!



「し、知りませんっ、毎日届く詩なんて、俺は何も……、あ……」


 言いかけところで、俺は思い出した。



「そう言えば、だいぶ前に呪文がかかれたみたいな全然読めない手紙がメールボックスに届くようになって、

オルランド様に相談したことが……」


 恐る恐る俺がオルランドを見ると、オルランドはにいっと唇のはしを吊り上げた。



「ファビオ、驚きだよ! お前に詩の才能があっただなんて!」


「なん、だとっ!」


 ファビオがオルランドの襟首をつかんだ。



「オルランド、お前っ、何をしたっ!?」


 オルランドはファビオの腕を振りほどくと、楽し気な笑みを浮かべた。



「そもそもお前は、なんにでもかっこつけすぎなんだよ!

ティトは最近ようやく読み書きを一通り覚えたばかりなんだ。

そんなことも知らないで、最初っから流麗体の文字なんか使って、イキがって書いたお前が悪い。

ティトにとっちゃ、あんなぐにゃぐにゃした崩し字、魔女の書いた呪文にしか見えなかったんだよ。

だが、安心しろ! もちろん、あの呪いの手紙は、私が全部回収した」


「ファ、ファビオ様っ、大変申し訳ありません。俺、まだちゃんと文字が読めなくて……、

オルランド様に相談したら、これは呪いの手紙だから、解呪してくれるって……、それで……」


 オルランドは目を細めて、あたふたする俺を見た。


「ティトは何も悪くないよ。あんな害悪な手紙、君が読んではいけないものだ。

ファビオ、そのあとの手紙は全部、私に転送するように魔法をかけて、すべて私の元に届いていたんだよ。

長い付き合いだが、お前があんなに情熱的な詩を書く男なんて、知らなかったよ……。

ファビオ、私は感動したよ。


『ああ、この恋の光が

羽ばたきとともに空を舞い

張り裂けるほどの

この胸のたかなり』……だっけ?


情緒あふれる繊細ないい詩だ!」




「言うなああああああああっ!!!!」


 首元まで真っ赤になったファビオは、再びすごい勢いで、オルランドにつかみかかった。


 ファビオの剣幕とは裏腹に、オルランドは涼しい顔だ。



「あんなに素晴らしい詩を、私だけが読んでいたのではもったいないと思ったのでね。

お前のファンクラブに相談したんだ。そうしたら彼女たち、すごく感動して、この素晴らしい詩編をぜひ本にまとめたいという話になった。

もうすぐ自費出版されるらしいよ。こんど、出版の記念に、学園の大講堂で朗読会が開かれるんだ。

ファビオ、ぜひお前も参加し……」



「殺す殺す殺す殺すっ、お前だけは絶対に殺すっ!!」



 ファビオは聖剣『ドゥリンダナ』を手元に呼び寄せると、躊躇なくその鞘を抜いた。





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