第2話 史上最強パーティのメンバー
先にざっと説明しておこう。
ファビオ・サヴォイア。御年21歳。王立魔法学園の最上級生で、辺境伯貴族の三男坊。生まれたときは真冬であったというのに、ファビオが産声を上げた瞬間に屋敷のバラというバラが咲き乱れたという逸話の持ち主。どうやら、美の女神と花の女神、そしてついでに剣の女神に愛されているらしい。
その加護からもわかるように、輝く銀色の髪と澄み切った空色の瞳のその姿はとんでもなく美しく、天上の神々を思わせるほど。ファビオと視線が合うだけで、失神する女生徒とか、なにそれそれギャグ? って思うけど、実際俺はその瞬間をこの目で見たことがあるので決してガセ情報などではない!
将来を嘱望されたその剣の腕は、学園卒業後に『剣聖』の地位を与えられることが王から約束されている……らしい。
オルランド・グリマルディ。ファビオの親友で同年の21歳。同じく王立魔法学園の最上級生。代々宮廷魔術師をつとめる魔法使いの名門の一族。曽祖父は小さな子供でも昔話で知っているという超有名な大魔道士。ちなみに、オルランドの魔法の腕は、その曽祖父を凌ぐとも言われている。得意分野は召喚魔法だが、闇魔法も光魔法も履修済み。なんなのそれ? 闇も光も同時に使えるなんて聞いたことない。そもそも相反する属性なはずだ。絶対どっか設定おかしいだろ!?
そんなわけで、卒業後には大魔道士の名を引き継ぐ予定だとか。
黒い瞳と、長い黒髪の美丈夫。色気がやばいとかなんとかで、学園の女生徒たちの間で、ファビオと人気を二分している。
そして、俺、ティト・アスティ。ゴパロっていう山間の辺鄙な村出身の平民だ。灰褐色の髪に、紺色の瞳。紺色の瞳は珍しいが、暗い場所では黒い瞳にしか見えない。魔力量が低く、生活魔法すらろくに使えない。取り柄といえば、身体が丈夫なことくらい。
補助魔法を教えているフォンターナ先生の口利きで、魔法学園で雑用係の下男として働いていた。仕事はおもに、学園敷地内の清掃と修繕、力仕事全般。だが、さすがは王立の魔法学園! 雑役夫といえど、給金は俺の村で働くよりも何倍もある!
だから俺は、ここでお金をためて、いずれは冒険者として国内各地のダンジョンを攻略したいという夢を持っていた……のだが。
今俺は、史上最強と言われるパーティの一員として、難攻不落といわれる国内最大のダンジョン第3層にいる……。
そもそもことの始まりは、魔法学園の卒業を控えたファビオの突然の思いつきによるものだった。
「卒業したら、お互いもう勝手なことできなくなるだろ? 俺は剣聖、オルランドも大魔道士様になっちゃうわけだし! だからさ、思い出づくりにいっちょダンジョンで冒険でもしてみる?」
いつものように取り巻きたちに囲まれたファビオは、こんなかるーいノリで、その親友・オルランドに声をかけた……らしい。
「いいねえ、ファビオ。私も一度、ダンジョンとやらに行ってみたかったんだ。そこそこ強いモンスターがいるみたいだから、このあたりで試していない闇魔法も使ってみたいしね!」
まるで行ったことのない祭りの夜市に誘われた世間知らずのお坊ちゃまみたいに、気安く返答したオルランド。
ーー当然のことながら、周りは大いに慌てた。
それはそうだ。ふたりとも、押しも押されもせぬ名家のお坊ちゃま。荒くれ者の冒険者たちが集まるダンジョンにはおそよ不似合いである。
だが……、同時に周りの人間にははっきりとわかっていた。
いくらダンジョンが国内最大で、攻略不可能といわれていようと、そこを訪れる冒険者たちがいわゆるAランク以上の猛者たちであろうと、ファビオとオルランドの二人の能力はそれを遥かに凌ぐものであるということが……。
結局王様すらも説き伏せてしまった二人は、いわゆるパーティを組んで、卒業記念旅行ならぬ、卒業記念冒険に旅立つこととなったのであった。
そ・し・て!
そのファビオとオルランドが、その史上最強パーティにたった一人だけ仲間を引き入れることにすると発表した。
当然、応募者は殺到! 学園の生徒のみならず、教師たちまでもがわれこそはと手を上げる始末。なんとなくの思いつきが学園をあげての大騒動に発展してしまい、収集に困った二人はとりあえず候補者たちを学園の大講堂に集めて、ファビオのフィーリングでその「たった一人のメンバー」を選ぶことになった。
その時俺は、そんなことが大講堂で行われているなんて、全く知らなかった。ただ単に、修繕が必要な椅子があるから、倉庫に入れてすぐに新しい椅子を出すようにと教頭先生から言われて、講堂にパオロさんとともに向かっただけだった。
ただ、それだけだったのに……。
なんと、その「たった一人のメンバー」にファビオの「フィーリング」とやらで選ばれたのが、学園で下働きをしているド平民の俺だったんだ!!
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