カーストトップの美少女ギャルが性格の悪い陽キャたちと縁を切った。そして陰キャぼっちな俺にだけデレデレになった!

踊る標識

プロローグ カーストトップのギャルを助けて性格最悪な陽キャたちをざまぁする!

 帰りのホームルームが終わったらバッグを手に席を立ち、一瞬で教室を出る。それが陰キャぼっちな俺――神沢かなざわ あきらの放課後のルーティンだ。


 しかし、その日だけは違った。


 教室から廊下へと抜け出す寸前に聞こえてしまったからだ。


「おいお~い、まじかよ。乃愛、お前ってオタクなのかよ」


 このクラス、2年1組で最も目立っている陽キャ男子の田崎たざき 康太こうた。彼が隣の席の女子生徒が持っている文庫本を取り上げ、からかうような言葉をぶつける声が。


 オタクの俺はすぐに、それがライトノベルであることがわかった。


「別にいいでしょ……それ、返してよ」


 一方で、田崎から本を取られている女子生徒。彼女もまたクラスでは目立っているカーストトップのギャルだ。


 名前は宮波みやなみ 乃愛のあ


 ウェーブがかかった金髪のロングヘア。色白な肌で、ややつり上がり気味の瞳をした美人だ。


 緩めたブラウスからは高校生にしては豊満な胸がのぞき、校則ギリギリの短いスカートからはスラっと長く、それでいて太ももはむっちりと肉付きのいい健康的な脚がさらけ出されている。


 いつも腰にはカーディガンを巻いており、白のルーズソックスをはいているという、アニメやラノベでしかギャルを知らないオタクが見ても一目でギャルとわかる容姿だ。


 そんな宮波さんをさらにバカにするように、田崎は他の陽キャたちにも彼女の持っていたラノベを見せつける。


「見ろよ、こいつこんなもん学校に持って来てるぜ」


「まじかよ、乃愛オタクじゃんwww」


 陽キャ特有のノリってやつなんだろうか。それに男子特有の、好きな女子にはいじわるしたいみたいなあれか?


 正直、俺にはどっちも理解できない。だって今、彼女はすごく傷ついているように見えるから。


 宮波さんは田崎たち男子だけでなく、彼女がよくつるんでいるカーストトップグループの女子たちからもからかわれてしまう。


 そんな様子をクラスの人間たちは傍観している。


 まぁ、それもそうか。もしここで彼女をかばうような行動をしたら、カーストトップのノリをぶち壊した寒いヤツという烙印を押され、これからの高校生活に支障が出る。みんな結局自分が可愛いのだ。


 けど、俺は嫌だった。


 見て見ぬふりをしている周りの奴らと同じになることも、人が傷つくようなノリが正しいことになっている空気も。オタクをバカにするような言葉も。


 なにより、キラキラしたギャルの宮波さんがあんな悲しそうな顔をしているのが。


 俺はいつもの帰宅ルーティンはキャンセルし、彼女たちが集まっている教室へと引き返した。


「ねぇ、いい加減にやめてってば……!」


「乃愛必死過ぎw 田崎パス」


 宮波さんは本を取り返そうと手を伸ばすが、本を手に持っていた陽キャの女子はそれを交してまた田崎にパスをする。


 ……いや、しようとしたが、彼の手に本が渡ることはなかった。なぜなら、俺が本を取ったからだ。


 ざわざわ、ざわざわ……。教室中が騒がしくなる。それもそうだろう、普段誰とも会話せずに浮いているぼっちの俺がいきなり陽キャたちの中に割って入ったのだから。


「はい、宮波さん」


 そして取り返したラノベを、俺は宮波さんに優しく手渡す。


「あ、ありがとう……」


 呆気にとられながらも、驚いたように宮波さんはそう言った。


「人の好きなものをバカにして取り上げるとか最低だな」


 俺が田崎たちに向かって言うと、彼らはバカにするように笑い始めた。 


「は? なにお前マジになっちゃってんの? なぁ」


 田崎が言うと、周りの生徒達も俺を批判し始めた。


「そうそう、ちょっとからかってただけじゃん」


「ほんと、マジレスとか萎えるわ」


「乃愛だって本気で嫌がってたわけじゃないでしょ? こんなことされたら逆に反応に困るじゃん」


 本気で嫌がってたわけじゃない? 本気でそう思ってんのか? そう思ったが口には出さず、その場を去ることにした。


 何を言ったって空気を壊してマジレスをした俺が悪いことになるだろうし、これ以上ことを大きくしたらそれこそ宮波さんが困るだけだ。


「まじで萎えたわ。お前おかしいよ、少しは空気読めっての」


 背後から田崎の吐き捨てるような声がするが無視をして教室を出る。そのときだ。


「おかしいのはアンタ達だよ」


「「「え……?」」」


 宮波さんが立ちあがり、田崎や周りの生徒達に向かって言った。彼らは一様に唖然としている。


「アタシ、やめてって……返してって言ったよね?」


「「「…………」」」


 宮波さんの言葉に冗談じゃないと悟った周りの生徒達はバツが悪そうに俯く。


「いや、それはその場のノリっつーか……冗談みたいなもんじゃねぇかよ」


「冗談で人が好きなものをバカにするんだ」


 言い訳がましく言う田崎はすぐに言い返され、黙り込む。


「アタシ、アンタたちとは縁を切るから」


 それだけ言うと、宮波さんはバッグを手にこちらに向かって歩いて来た。


「えっ……! おい、ちょっと待てよ」


「乃愛なにマジになってんの? あんなの冗談じゃん」


 周りの生徒達は言い訳がましくそんな言葉を吐くが、もちろん誰も相手にされない。


「神沢くん、さっきはありがと。一緒に帰ろ?」


「あっ、あぁ……」


 なぜかそのまま一緒に帰ることに……。

 

 そしてこの日から、宮波さんは陰キャぼっちな俺にだけデレデレに接してくるようになるのだ。


 

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