第3話

 と、突然に周囲の松明の炎の明かりが消失した音がした。

 きっと、冷たくて強い隙間風のせいだとチェシリスは思った。


「ここにいてはいけない。さあ、出口を探しにお行き」


 小さな声が、厳しいがどこか優しくそう頭の中で響いた。チェシリスは勇気を出して少し居住まいを正すと、そのままカタコンベの出口を探すために奥へと一人歩いた。


 カタコンベの地面には、普段にはないはずの頭蓋骨が所々に散らばっていた。奥へ行けばいくほど、頭蓋骨が増えてきたのか、チェシリスは躓いては、たたらを踏むことが多くなった。


 冷たい隙間風も奥へ行けば、次第に身を切るような冷たさを覚えた。

 

 腐敗臭や死臭が強くなってきた。このままでは、自らの身体全体が闇にずっぽりと呑み込まれてしまう。と、チェシリスは危惧した。


「闇に呑まれてはならないよ」


 そう、頭の中でバンヒルの声が危惧した通りに優しく響いてきた。チェシリスは小首を傾げて、闇に呑まれるとどうなるのだろう? と考えようとしたが……。


 突然、頭蓋骨に足を引っ掛け、バランスを崩して地面に肩肘をつけてしまった。


 ムッとくる腐敗臭と、おびただしい柔らかい腐肉の感触とで、チェシリスは顔をしかめた。


「ほら、闇に呑まれる。さあ、立って」


 バンヒルの今度は厳しい声が、頭の中で一際大きく響き。チェシリスは困惑した。


 一体。闇に呑まれるとは?

 どういうことなのだろう?

 それは、転んだことと何か関係があるのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る