元桃太郎は家来に恋をしない
羽根とき
プロローグ
私の名前は
学力普通、容姿普通、秀でているものは何かと聞かれれば全国レベルの剣道の腕前。それくらいしか自己紹介の材料は無いと言える程普通の極々普通の女子高生で今まで桃太郎のことを聞かれれば、「そんなお話もあったね」くらいの感想くらいしか持ち合わせていなかった人生の私だった。
しかし人間というのは一つのトリガーでその人生が大きく変わってしまうということを最近学んだ…というか学ばされてしまった。
「ごしゅじーん!!!」
とある出来事以来今日も溜息を吐きながら部活に顔を出しに行こうかと席を立とうとすると、元気な声が廊下の方から聞こえてくる。
地毛の筈だが日本人では珍しい綺麗な茶髪に、ワンポイントの黒いピアス、学力面は不安な面が残るが運動神経は素晴らしいの一言。顔も高校生の男子にしては中性的で可愛らしく、性格も一人を除く生徒や教師全員に愛嬌を振るまく愛され系の男子だ。上級生である私のクラスに入るのは気が引けるのか、今もまだ心の中で溜息を溢す私に対して廊下で手を振っている。あの姿だけを見ていると絶対に人間には無いはずの耳と尻尾が見えてくるようだ。
そして私も彼に関わってしまったことにより望まぬ形で彼と同じ有名人になってしまった。
「その呼び方恥ずかしいからやめてって言ったよね?」
「ご主人はご主人なのでこれ以外の呼び方は無いですね」
「私には小宮 桃華っていう親から貰った名前があるんだけど……」
「いやぁ……名前に桃が入っているなんてご両親もご主人のことをよく分かってらっしゃいますよ」
「ちゃんと聞きなさいよ……」
『ご主人』これは勿論彼が勝手に呼んでいる名前だ。生憎私は先輩後輩関係のさらに上をいくような上下関係を後輩に強要する趣味を持ち合わせていない。
「君はいつまで私の前世が桃太郎とか訳の分からないことを言うつもりなの?」
「ご主人が信じてくれるまでですよ。それまではこの呼び方を諦めるつもりはありません」
「信じるわけが無いでしょそんな話……桃太郎云々の前に前世の記憶がある時点で信じられないんだから…」
桃太郎昔話
日本人でこのお話を知らない人間を探す方が難しいであろう程に有名な童話
先人たちによって色々なお話に展開されているが
川で洗濯をしていたおばあさんが流れてきた桃を拾い、桃を切ってみると桃の中から男の子が生まれた。大きくなったその男の子は鬼退治のためにお婆さんから貰った吉備団子で三匹の動物を釣り、鬼退治をして平和に暮らしましたとさ。
どの作品もこんな感じのお話だ。
まず本当にいたのかも分からない「鬼」が出てくる童話のお話なのだから、彼が言う前世を信じろと言うのは到底無理なお話だ。
「ご主人は絶対にいつか僕の話を信じることになりますよ」
「は?それってどういう……」
「お話が出来たので取り敢えず満足しました!じゃあご主人また明日会いましょう!」
彼の続きの言葉を聞こうとしたら、彼は逃げるようにして去っていってしまった。本当に犬のように自由奔放な性格をしている……いや、犬ならもう少し賢く主人に対して忠実か…なんて考えてしまう私はもうすでに彼に毒されてしまっているのかもしれない。
どうして彼が私に付き纏ってくるようになったのか、それは彼がこの学校に入る入学式の時まで遡ることになる。
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