第2話 大学生協の書店①

◆大学生協の書店


 大学一回生の春・・

 僕は暇さえあれば、大学生協の書店に足を向けていた。

 大型書店のように何でも揃う場所ではなかったが、そこには未だ僕の知らない世界があるように思えたからだ。

 書店は、大学生協が運営しているので、講義用の専門書籍がほとんどだったが、小説の単行本や文庫本も多く置かれていた。中には雑誌や絵本まであり、無いのは漫画本や漫画雑誌くらいだった。

 中に入ると、いつも向かうのは文庫本のコーナーだった。

 僕は所狭しと並べられた文庫本の背表紙を眺めるのが好きだった。

 なぜ、文庫本なのか?

 理由は簡単だ。単行本を買うようなお金が無かったからだ。いくらバイトをしていて高校時代よりは余裕があると言っても、やはり単行本は高価な物に見えた。

 それに比べて昼ごはんを少し節約して、余ったお金で買える文庫本の存在が嬉しかった。

 経費と言う点では図書館を利用するのが最も経済的なのは分かってはいたが、どうも手垢に塗れた本のページを捲るのが好きではなかった。


 今のようにミステリーが盛んではなかった時代だったが、江戸川乱歩、横溝正史、松本清張などの推理小説の数は多かった。今では少なくなったSF本も和洋共に書架を賑わせていた。 

 けれど、それらの本に対する情熱は既に失われていた。何故なら、それらの本は大学に上がるまでの時期、つまり中高生の時代にほとんど読んでしまっていたからだ。

 僕が興味があったのは、それらの本よりも、純文学の本だった。

 といっても、その時の僕は、川端康成の「伊豆の踊子」「雪国」そして、三島由紀夫の「潮騒」「金閣寺」や太宰治の「人間失格」、夏目漱石の「こころ」くらいしか読んでいなかったし、まだ村上春樹にも手を付けていなかった。

 僕はもっと純文学小説を知りたかったのだ。


 なぜ、純文学に興味を持つようになったのか?

 それは僕が文芸部に入部したからだ。

 文芸部を選んだ理由・・

 最初、僕は法学部なので、法律に関する「法学研究会」とかの方がいいかな、とかも考えた。だが、講義で法律を学び、更に部活でも法律・・うんざりするな、と思い却下した。


 その他に、誰もが参加できそうな「旅行同好会」なども候補に入れたりした。

 だが、「同好会」と聞こえはいいが、中身は、毎週のように旅行をする、お坊ちゃん、お嬢さまが溢れる小遣いの使い道を模索するようなクラブだった。年に二回も海外旅行をするとも聞いた・・とてもついていけない。

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