第41話

彼は友人と二人で話をしていた。



声を掛けようかと思った時、話の内容が聞こえてとっさに背中を向けた。


「——それで、最近彼女とはどう? 美人とつき合いだしたって聞いたけど」


彼の友達が言った。


「ああ、まあ、順調だよ」


彼が答えた。


「でもお前、経理部の子とも付き合ってなかったっけ? そっちとはいつ別れたの? 俺の彼女が同じ部だろ、その子がお前と結婚するとか言ってたらしいけど」


うん? リョウは首をかしげた。いつの話?


「はぁ? そんな約束した覚えはないけど。あの子とは二、三回酔っぱらってやったくらいだから」


「じゃ、つい先週くらいに合コンで知り合ったって言ってたCAは?」


はい? リョウはまた首をかしげた。先週は泊りがけで急な出張が入ったって言ってたよね?


「ああ、まあね。楽しかったから、また会うかもしれないな。すごいんだよ、その女。いろんな意味で」


「悪いやつだな。本命がいるくせに」


「でも別に結婚してるわけじゃないし。それにあいつ、やらせてくれないから」


うん? 私のこと? リョウは眉根を寄せる。


「まじか。つき合ってどれくらい?」


「四か月。結婚するまではしないんだってさ。だからどっかで発散しないと」



はっ、とリョウは冷笑する。そんなのウソに決まってるじゃん。


一緒にいても、会社の同僚だのなんだのとやたら女の声で電話がかかって来るし、スマホの画面もよくチェックしてるのには気づいていた。


そんな男をすんなり信用できるわけがない。



リョウは衝動的につかつかと歩き、植物の仕切りからその裏側にある彼が座るソファに、とさっと腰を下ろした。


「うわっ! あっ、えっ? リ、リョウちゃん?!」


彼は驚きのあまり、引きつった表情でぴゃっと身をすくめた。向かい側の友人は、顎が外れるほど口を開いて絶句している。


リョウは首を傾けてにっこりと彼に微笑んだ。


「楽しそうな話してるね」


「き、聞こえた? どっから、聞いてた?」


「経理の子あたりかな」


「あ、あのさ」


「ああ、いいのいいの。気にしてないよ」


「えっ?」


「だから好きにしちゃって。経理の子でもCAさんでも」


リョウはにこやかな表情のまま、自分のスマホをさっとクラッチバッグから取り出し、顔の脇でひらひらと振る。


「今日からあなたはブロックね。もう電話もメッセージもしてこないでね。大丈夫だよね? 慰めてくれるカノジョ、いっぱいいるみたいだし。じゃあね?」


そして彼の番号を出し、目の前でブロックを実行した。



リョウはさっさと立ち上がり、もう一度にっこり笑んだ。


そして真っ白な顔で呆然と彼女を見上げる彼とその友人を置いて、颯爽とその場を去った。





「そんな男は捨てて正解だな」


残念会でハルが言う。それを聞いてユキヤがへっと冷笑する。


「うわ。どの口が言ってるんだよ?」


リョウはふふふと笑う。


「面白かったよ。その時の顔」


「よくやった」


ハルが満足げにうなずいた。


ユキヤは立ち上がり、上着を手に取る。


「あー、ばからしい。こいつ全然落ち込んでないじゃん。むしろクズと別れてヨカッタネ会だろ? 俺はリアルサバゲーに出かけてくるから、お前らで残念会は続けてろ」


バタンとオートロックのドアが閉まる。



残念会は、リョウとハルだけのただの飲み会になった。

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