毛物語

きょんきょん

鼻毛に捕らわれる

「鼻毛出てるよ」


 小学生の頃に初恋の子から突きつけられた言葉がそれだ。以来、俺の人生の分岐点ターニングポイントに必ず顔を覗かせる奴の名は〝鼻毛〟。


 そう、お前だよ鼻毛。大事な場面に存在を主張して全て台無しにしてくれる厄介者は。


「鼻毛出てる人とはちょっと……」

「鼻毛出てる人は採用できないね」

「鼻毛出てる人と結婚したくはないわ」


 まめにカットしたりワックスを使って脱毛してるというのに、何故お前は此処ぞというタイミングで俺の邪魔ばかりするんだ。俺が何をしたっていうんだ。


 「それでお巡りさん。どうして俺が指名手配犯だってわかったんだ?」


 パトカーの後部座席に乗せられた俺は、顔を変えてまで逃亡していたというのに見つかった理由を尋ねると、自分の鼻を指さしてニヤリと笑った。


「鼻毛が出てるからな」

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