長い間やってなかったゲームがインストールされているVRゴーグルを妹に貸したら返って来た時、大変な事になってたんだが。

クロスケ

第1話 デスゲーム……?



 ブレイブオンライン



 それは現時点で最もプレイされているVRMMORPGである。

 俺も御多分に漏れず、夏のボーナスを叩いてVRゴーグルを買い、ソフトをインストールした。


 だが、飽きはいつかやってくる。

 最初の頃は頑張ってたレベリングや素材集め、仲間とのコミュニケーションに勤しんでいたが、やがてそれらをするのも面倒になり、ゲームを始めて二週間で俺はログインしなくなっていた。


 それから二ヶ月ほど経ち、妹が俺のVRゴーグルを借りに来た。理由を聞くと、お目当ては俺のVRゴーグルにインストールされている『ブレイブ・オンライン』のようだ。

 どうせ最近は全くプレイしていないし、仕事が忙しくてゲームどころじゃない。

 俺は妹の留奈ルナにVRゴーグルを渡した。



 それから三年後、ルナがVRゴーグルを返しにやって来た。

 つい先日、ブレイブオンラインが正式にサービスを終了したと言うニュースを目にした。

 まさかとは思ったが、どうやら本当のようだ。



 ルナと別れた後、俺は久しぶりにソフトを起動させて見た。ルナはオフラインでプレイする事は可能だと言っていた。

 BGM、エフェクト、全てが懐かしい。


 保存されているデータは一つのみ。

 登録された名前は、ナル。実に分かりやすいネーミングだ。

 性別は男、レベルは上限の999となっている。アバターはこころなしか、俺に似ている。


 確かブレイブオンラインは二つまで保存データを残せたハズ。

 俺は『NEW GAME』を選択し、新しくデータを残す事にした。


 そして始まる壮大なムービー。

 その瞬間、三年前にも感じた感動が蘇る。


 だが次の瞬間、ムービーにノイズが走る。そして視界に現れる警告音と『ALERT』の文字。


『新たなデータを廃棄し、既存のデータでプレイします』


 視界の中央に表示されるアナウンスに俺は一安心した。なんだ、トラブルはあるけど普通にプレイ出来るじゃないかと。

 しかし、この時の俺は浅はかだった。

 まさかこの後、あんな事になるとは──。




「うん、まったく見覚えがない」


 俺は豪華な装飾が施された立派な革張りの椅子に座っていた。

 最後にプレイしたのは三年前だし、それに加えて広大なマップがあるにも関わらず、俺は『はじまりの街』付近をメインに活動していた。こうなると、もはや別世界である。


 ステータスを確認すると様々なスキルや魔法が羅列されている。職業は魔法使いのようだ。


「まぁいいや。取り敢えずもうすぐ昼だし、一度ログアウトをしよう──ってあれ、ログアウトが無い……?」


 何度探しても、どれだけ探してもログアウトは見つからなかった。

 これは完全に異常事態だ。反射的にVRゴーグルを外す動作を行うが、実際の身体に流れる電気信号はVRゴーグルによって一時的に制御されている。


「これ、もしかしてデスゲームってヤツ……?」


 デスゲームを知らせるアナウンスが全く無く、何をしたらクリアなのかも分からない。果たしてこれが本当にデスゲームなのかも定かではない。

だが、ログアウトが存在しない時点でそれに近い事が起きているんだろうなと言うことは、何となく察した。


「……これ、やばくね?」


 俺は一人暮らしで誰かが家を訪ねて来る事なんて早々ない。

 そして今日は土曜日。もし誰かが家に様子を見に来るとしても、早くて火曜日あたりだろう。

 その間、最低でも飲まず食わずでいなければならない。それだって希望的観測だ。

 もしかしたら死ぬまで誰も様子を見に来ない可能性だってある。

 自分の置かれている状況を悟った俺は、死を覚悟した。


「どうせ死ぬならゲームを楽しむ努力をするべき、か」


 そんな時だった。

 金髪紅眼の露出の多い服を着た女性が俺の前にやって来てその場に跪く。


「ナル様、お帰りなさいませ。このフィア・ロズモート、ナル皇帝陛下のご帰還を心よりお待ちしておりました!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

長い間やってなかったゲームがインストールされているVRゴーグルを妹に貸したら返って来た時、大変な事になってたんだが。 クロスケ @kurosuket

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画