第42話 会議の時間だ。


 第三王子の誕生パーティーの翌日────



 今日は昼まで英気を養うためにお稽古は中止、珍しく午前中は寝て過ごす。


 昨日は婚約破棄やら、国外追放やら、聖女任命やら、勇者の誕生やらで大変だった。休息も必要だ。



 午後からは、いつも通り戦闘訓練に精を出す。


 ホールデン家との対立関係は、もう後戻りできないところまで来ている。


 いつも以上に、気合を入れて取り組んだ。

 




 そして、昼下がりの午後──

 戦闘訓練の合間に、一時間ほど休憩を取る。



 私は優雅にお茶を嗜む。


 一緒に休憩を取っているラシェールと、背後に控えるドヤコちゃんとンガ―ちゃんに、昨日の出来事を話してあげていた。



 私の話が一段落した後で、専属執事のジャックと筆頭専属メイドのセレナ、そして護衛担当のルドルが中心になり、情報共有を始める。



 なんでも昨日の夜に、この屋敷に複数の不審者が忍び込もうとしたらしいのだ。


 その情報が、お茶会メンバーで共有される。




 この屋敷にはルドル・ガリュードの、風の結界が張ってある。


 無断で屋敷への侵入を試みた十五名の不審者は、結界に引っかかり、異空間に送り込まれることになった。


 そして、異空間で待ち構えていたルドルと、敵との戦闘が行われた。


 戦闘中の敵の発言から、彼らが教皇子飼いの暗殺部隊の者だということが分かった。

 


 ……という話が、あの男から皆に伝えられる。


 




「神殿の暗殺者が、この屋敷を襲ったのですか……」



 なによ、それ……怖ッ!!


 なんで教皇がそんなのを、ここに送り付けてくるのよ?



 ひょっとして、私が転生者だから……?


 それとも、ルドル・ガリュードが吸血鬼だってバレた……?



 ミルフェラが聖女になったし、私達の秘密をヤコムーンから聞いたのかしら?

 





 侵入者の目的は不明────


 教会の特殊部隊ということは、敵のセリフから推測したもので証拠はない。



 だが、黒ずくめの不審者が十五人、この屋敷への侵入を試みたのは確かだ。



 そんなのを動かせるのは、相当地位の高い人物だろう。


 確定ではないが────

 教皇がライドロース家に害を為そうとしていた、と考えておいた方が良いだろう。



 ここでラシェールが口を挟む。


「そのミルフェラという方は、フィリス様の事を酷く、恨んでいらっしゃたのでしょう────? その方が、教皇に頼んだのではないかしら?」



 それは私も聞きたかったことだ。


 その疑問を、ルドルが否定する。


「それは無いだろう。────聖女の周囲をベルに探らせているが、あの女はまだ意識を失っている。……現在も治療中だ」



 …………ふむ。


 どうやらミルフェラではないらしい。




「では、教皇が聖女の意向を忖度して、暗殺者を差し向けたのでしょうか?」


 セレナがそう推理する。


「可能性は、それが一番高いでしょうな」


 ジャックがセレナの意見に同意した。



 ……そうよね。


 私もそれが一番、妥当だと思う。






「────だとすると、また不審者が襲ってくるかもしれませんね」


「……んがー」


 ドヤコちゃんとンガ―ちゃんが、懸念を口にする。



「そうだな。────暗殺者が何人来ようが、俺の相手にはならんが、それでも、敵の狙いを知っておく必要はある。……今からベルに、教皇の様子を探らせておこう」


 聖女は意識不明らしいので、マークを教皇に変えるらしい。




 私もちょっと、話に入ってみる。


「あの、ルドル様────侵入者を捕らえたのですよね?。……その方たちから詳しく話を聞けませんか?」



「……あぁ、いや、それは出来ない。────全員、始末済みだ。…………もし生きていたとしても、口は割らんだろう。────俺は、拷問とかは苦手だし……生け捕りにしたとしても、情報は聞き出せなかっただろう」



 私の問いに対し、あの男は、ちょっとだけ気まずそうに答えた。


 不審者を捕らえて情報を聞き出すとか、そういう発想は無かったらしい。




 ────いや、私も捕らえた不審者を拷問して、情報を聞き出そうとか、そこまで頼む気は無かったんだけど……。


 でもまあ、そうよね。


 相手がプロの工作員なら、情報を漏らすような真似はしないか……。


 う~ん……。


 わざと逃がして、泳がせるとか……?



 良い考えだけれど、今更よね。

 

 不審者はすでに、全員死んでいる。

 教皇の狙いは、分らず仕舞いだ。


 昨日、聖女と勇者が誕生したことで、政治の世界は大騒ぎになっている。



 ────その余波なのかもしれない。



 


 先日の舞踏会で『聖女』に選ばれたミルフェラが、私の事を毛嫌いしていることは有名な話だ。


 さらに昨日はその様子が衆目に晒され、皆が知るところとなっている。



 聖女が私に敵意を抱いているという事実は、貴族社会の共通認識になっているだろう。


 そうなると私の立ち回りも、これまで以上に難しくなる。




「どのような理由があったにせよ────教会はもう、我々の敵と見做した方が良さそうですね」


 セレナが、そう結論付ける。


「そうですな。それに……当然のことながら、向こうも暗殺の失敗は気付いているでしょう。────となると、こちらからの反撃も、警戒しているはずです」


 ジャックが、懸念点を付け足す。



「聖女と対立関係にあるフィリス様が、聖女を攻撃しようと企んでいる。────そのような噂を流されれば、一気に孤立してしまいますわね」


 ラシェールが、懸念点に磨きをかける。


「────こちらに聖女を害する意思は無いと示すために、しばらく社交は控えた方が良いのでしょうか?」


 ドヤコちゃんが、対処方針を提案する。



「……いや、それだと逆に反乱を企てていると見られかねん。────こういう時は、派手に遊んでいた方が良い。……そうやって、謀反の疑いを晴らした奴が昔にいた。そいつの真似をしよう」


 ルドルが、別の対処法を提示する。


「……では、演劇を見に行かれるのは如何でしょう? 読書家のフィリス様に、ピッタリな趣味だと思います」



 ────ナイスな提案だわ。ドヤコちゃん!!



 私はドヤコちゃんの提案を採用する。


 暫くは社交を控え、劇場に通うことにした。

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