第41話 この俺が、ブスを嫌う理由


 あのゲロ子が、美女に生まれ変わったと聞いて──

 最初に連想したのが、『醜いアヒルの子』という童話だった。



 あの童話では、『アヒルの子』を肯定的に描いていた。


 だがそれは、あくまでも童話の話だ。


 ────現実は違う。


 皆から蔑まれていた奴が、美しく生まれ変わるなんてことは無かった。



 現実の物語には、誤魔化しがあったのだ。


 アヒルの子は美しく生まれ変わった『振りをしていた』だけだ。



 ゲロ子の奴は魔法のアイテムを使い、人を欺いている。





 その真実を知った瞬間、俺の中に強力な拒絶反応が生じた。


 奴に対してはもう、『気持ち悪い』という感情しか湧かない。


 見た目の醜い奴は、心まで醜いようだ。



 それもまあ、仕方がないか……。


 だって、あいつはゲロ子だから────



 皆から蔑まれていた劣った存在が、実は白鳥でした。


 ────などという筋書きは、実際には存在しない。



 劣った存在は、未来永劫劣ったままだ。


 それは、たとえ生まれ変わっても、変わらない。


 


 奴は醜い自分の姿を、受け入れることが出来ずにいる。


 それはいい、そこまではいいだろう。

 

 ────だがッ!


 魔法のアイテムで自分の姿を誤魔化して、多くの人を騙す。



 それは許せない!!


 俺も奴に、騙されていた被害者だ。



 絶対にあの詐欺女に、報いを受けさせてやる!!


 俺は心の中で、誓いを立てた。






 だが、今は────


 それよりも先に、やるべきことがある。


 奴の事は、後回しだ。


 …………。


 ……。




 


 前世の記憶を取り戻した俺は、どうしてもミルフェラ・ホールデンとの婚約破棄を確かなものにしておきたかった。


 『ミルフェラ』とかいう、生まれ変わった俺の婚約者……。


 

 ────こいつも、かなりのブスなのだ。



 俺の婚約者は、眼鏡をかけたブスだ。


 眼鏡を外してもブスだった。



 つまり、どうにもならないブスである。





 

 記憶を取り戻す前の俺は、ホールデン家との関係を考慮して、帝国の政治を安定させる為に、ミルフェラとの婚約を我慢して受け入れていた。


 奴が暗殺組織に殺人を依頼した証拠がなければ、きっとそのまま諦めていただろう。


 『ヤコマーダ・ガルドルム』は王子として、望まぬ相手との結婚も受け入れていた。

 それが王族として生まれた者の、義務だと思っていた。




 だが、王子としての、俺の人格はもうない。


 前世の記憶を取り戻した俺は、この世界の人間とは価値観が根本的に違う。



 政略結婚など、糞喰らえだと思っている。


 なんで俺が国の為に、我慢しなければいけないんだ!!






 さらにミルフェラは……。

 あの女は、殺人未遂を執拗に繰り返していたサイコパスだ。


 俺が掴んだ暗殺の、確たる証拠は一つしかない。



 だが────


 ミルフェラの周囲を調べるうちに、あの女が暗殺未遂を繰り返していた形跡が、いくつも浮かび上がってきた。


 そんな奴との結婚など、絶対に嫌だ!


 断固として、拒否する!!



 それに……。


 …………そうだ!


 何より俺は、ブスが嫌いなんだ!!





 生前の俺が、ブスを苛めていたのは中学生までだ。


 だが、中学の途中からは、控えるようになった。




 中学の時に一緒のクラスのブスを弄っていたら、女子全員から嫌われてしまった。


 小学生の時に苛めていたブス子は、クラスで孤立した奴だった。

 だから、弄っていても、対して問題にならなかった。


 しかし中学生の時に弄っていたブスは、友達が結構いるタイプだったのだ。

 弄っている途中で、そいつが泣き出しやがった。


 多分ウソ泣きだとは思うが、証明は出来ない。



 それがきっかけで俺は────

 クラスの女子を、全員敵に回してしまった。


 中学で失敗した俺は、ブス弄りを控えるようになった。

 


 

 高校では最初から、ブスとも普通に接するようにした。


 女子から嫌われるのは、もう懲り懲りだ。



 すると、何を勘違いしたのか──

 同級生のそのブスは、俺に好意を抱いてしまう。


 高校二年の夏────

 ブスから告白されるという、最悪なイベントが発生した。

 

 しかもそのブスは俺が断りにくいように、皆がいる前で告ってきやがったのだ…………。


 それ以降────

 俺はクラスの男子から事ある毎に、ブス女との関係を弄られ続けることになる。







 最悪だった。


 思い出したら、腹が立ってきた。


 とにかく俺は、ブスが嫌いなんだ!!


 だから、ミルフェラという眼鏡ブスとも、結婚なんかしたくないんだ!!!!!






 国外追放されるはずだったミルフェラが、『聖女』に選ばれてしまった。


 これで奴を国外追放することは、難しくなっただろう。


 絶望的と言ってもいい────




 だからこそ、奴との婚約破棄は確定させておかなければならない。


 俺が『勇者』に選ばれる前にも言っていたが、改めて『勇者』として念を押しておこう。



 う~ん、でも……。


 さっき言ったばかりだし、続けてもう一回いうのもしつこいかな?


 俺は少し躊躇する。



 この少しの戸惑いが、俺の運命を最悪なものとして決定付けた。


 後悔先に立たず……。







 俺はミルフェラとの婚約破棄を、改めて宣言しようした。


 だが────



 俺は出遅れた。

 

 俺が婚約破棄を宣言する前に……。



 教皇ニヤコルム・ヤコームル十五世が、とんでもないことを言い出した。



 

「勇者に任命された王子ヤコマーダ・ガルドルム。そして聖女に任命されたミルフェラ・ホールデン────神に選ばれた両者が、婚姻の契りを交わすのは必然だったのだ。私は神のご意思に従い、この両者の婚約維持を、ここに宣言する!! 何人たりとも、両者を引き裂くことは許されない」


 

 …………。


 ……。

 

 ふざ、けるな、よ……。


 俺は怒りと絶望で、目の前が真っ暗になった。

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