第39話 ヤコムーンの教唆


 『婚約破棄』と『国外追放』騒動の最中────


 天から舞い降りた天使が、自ら任命した聖女に雷撃を食らわせた。



 ドゴォッォオオォオッォオオオンンンンンンン!!!!!!!




 …………。


 ……え?




 ────なんで?


 ……どうして、聖女を攻撃するのよ?



 私だけではなく、この大広間にいる全員が疑問に思った事だろう。


 その疑問に答えるように、天使は語り出す。






 『この、愚か者め!!! お前は確かに聖女に認定された。──その素質はある。それは確かだ。……しかし、貴様の性根は、腐りきっている。────よって罰を与えたのだ。──よく聞け、愚かなる人間どもよ。これからこの愚か者を、聖女としてしっかり教育せよ。────これは天命である!!』



 ミルフェラは、天使からダメだしされた。


 聖女が雷撃で攻撃され、その後で公開説教を食らう。



 ────前代未聞だわ。


 幸い、と言っていいのかしら?

 ミルフェラは気を失って倒れているので、説教は聞こえて無さそうだが……。


 黒焦げになった彼女から、プスプスと煙が出ている。





 ……。


 …………。


 あの女は、私の事を何度も殺そうとしていた。


 だから、同情などしない。



 まったく可哀そうだとは思わない。



 だが────


 哀れではある。








 『悪役令嬢』は『聖女』にジョブチェンジして、黒焦げになり倒れ伏している。


 そして、ミルフェラが雷撃を食らい意識不明の間に、第三王子のヤコマーダが動き出す。




「このような者が聖女に選ばれるなど、おかしいとは思っておりましたが、そういうことでしたか! ────素質はあるが、性根が腐っている……。まさに、その通りでございます、天使様!! この者は、王家が責任をもって教育させて頂きます。もちろん教育が最優先となりますので、私との婚約は、予定通りに破棄することになります!!!!」


 

 王子は蒼白な顔と震えた声でそう叫んだ。



 彼は連枝にビビりながらも、うやむやになりかけた婚約破棄をしれっと主張し、成し遂げようとしている。

 


 ああ、よっぽど────


 ミルフェラと結婚させられるのが、嫌だったのだろう。



 凄い執念だわ。







 そんな王子の頭上に、幾筋もの光が降り注ぐ……。


 ええっ!!


 また……?



 会場にいるすべての人間に、再び天使の声が聞こえてきた。

 



 『この者、ヤコマーダ・ガルドルムを『勇者』に任命する』


 今度は、第三王子が勇者になった。



 勇者には神の敵である『ドラゴン』と『吸血鬼』を、討ち滅ぼすために特別な力が与えられる。




 王子が勇者に選ばれたということは────


 それは、つまり────



 あの男は……

 ルドルの、そして延いては、私の敵になったということだ。


 自分の言いたいことだけ言った天使は、空中を飛翔してどこかに飛んで消えた。

 


 ────残された私たちは、引き続き静まり返っている。

 






 雷撃を食らって黒焦げの聖女に、突然任命されて狼狽する勇者……。


 勇者は聖女との婚約破棄を混乱に乗じて主張したが、天使による任命を受ける前とは状況も立場も激変している。


 彼の主張は通るのかしら────?




 このグダグダな状況を終わらせたのは、ヤコムーン教・教皇ニヤコルム・ヤコームル十五世だった。



「勇者に任命された王子ヤコマーダ・ガルドルム。そして聖女に任命されたミルフェラ・ホールデン────神に選ばれた両者が、婚姻の契りを交わすのは必然だったのだ。私は神の御心に従い、この両者の婚約維持を、ここに宣言する!! 何人たりとも、両者を引き裂くことは許されない!!」



 教皇の宣言を最後に、この日の舞踏会は解散となった。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「この犯罪者を連れて行け!!」


 愚かな王子の声が、大広間に響き渡る。

 そんな絶体絶命のピンチに、私に奇跡が舞い降りた。



 神ヤコムーンの祝福の光が、私に降り注ぐ。

 それと共に、私は『前世の記憶』を思い出していた。



 ────神ヤコムーンの力によって、思い出したのだ。


 前世の記憶と同時に、私が『聖女』であること、そして、あの憎き敵の正体を知らされる。







 フィリス・ライドロース──

 奴の正体は前世の高校時代に同級生だった、あの『ブス子』だった。



 …………。


 ……懐かしいわ。


 私は高校時代、『ブス子チャレンジ』という遊びをしていた。




 ブス子チャレンジとは──

 私のお友達にブス子を苛めさせて、反撃を誘う遊びだ。



 どのタイミングで、誰に反撃してくるのか────?


 そのスリルを楽しむ遊びだった。




 結局────


 ブス子は一度も反撃してくることなく、学校を辞めた。


 というか、勝手に死んだ。



 拍子抜けだったわね。


 つまらない終わり方をして、残念だったわ。



 私が『つまらないわね』と言っていると、『お友達』以外のクラスの連中から非難された。

 

 ……なんで?


 私は混乱する。


 奴は私とは全く関係なく死んだのだ。


 なのになんで、私が非難されるのだ?



 ────おのれブス子!!


 奴が死んだせいで、私が文句を言われる羽目になった。


 奴のせいで……。



 仕返しをしてやりたかったが、奴はもう死んでいる。


 畜生!!

 

 ブス子のくせに、私に迷惑をかけやがって……。



 だけど、もう、仕返しをすることは出来ない。

 

 前世の私は、怒りに震えるしかなかった。






 ────だが、なんと!


 ブス子は私と同様に、この世界に転生していた。



 さらに────


 あの時、前世で一緒にブス子チャレンジをしていた同級生たち……。


 彼女たちも、この世界に転生しているらしいのだ。



 それも、私の取り巻きの令嬢として、私の側にいた。





 ────凄い偶然だわ。


 嬉しい!

 

 生まれ変わったこの世界でも、また皆で『ブス子チャレンジ』が出来る。



 高校時代の仲間と、生まれ変わってもお友達なんて!


 また一緒に、ブス子で遊べるなんて!


 楽しかった青春時代を、やり直せるなんて!



 最高だわ!!






 ────それにしても、ブス子のあの姿……。


 ……プっ!



 思わず、笑ってしまいそうになる。


 魔法を使って、姿を変えているなんてね。

 


 ────ヤコムーンに教えて貰わなければ、騙され続けるところだったわ。

 


 前世で不細工だったのが、よっぽど悔しかったのかしら?


 魔法で姿を変えるなんて……。

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