第34話 ヒロインの秘密



 悪役令嬢と王子の、断罪バトル────


 大広間の中心で繰り広げられてきた、追放イベントが佳境を迎えている。




 悪役令嬢が王子から、フィリス・ライドロース殺害計画の証拠を突き付けられた。


 それで、勝負は付いたかに思われた。


 ────誰もがそう思った。




 だが、悪役令嬢・ミルフェラはしぶとかった。



「どうか聞いてください!! 私があの女を殺そうとしたのは、────この国を守る為です。……フィリス・ライドロースは国家転覆を企んでいる、獅子身中の虫なのです!!」



 …………。


 ……。





「────なにを、言い出すのかと思えば……」


 悪役令嬢の告発に、第三王子は呆れている。



 ……。

 

 ……だが、私は彼女の指摘に『ギクリ』となった。




 誤解しないで欲しいのだが──

 私は国家転覆など企んではいないし、その意思もない。

 

 そもそも、この巨大な帝国をどうやったら転覆させられるかなんて解からないし、想像もできない……。


 ライドロースの動員兵力は五千だ。

 集めようと思えば三百万の軍隊を組織できる帝国と、戦おうなどと思ってもいない。




 ────私はただ、味方作りをしていただけだ。


 いざという時、味方になってくれるのは誰で、敵に回りそうなのは誰なのか……。


 それを事前に知っておき、なるべく多くの味方を作っておく。


 そして、争いが始まる前に、政治力で戦争を回避する。



 私には、その程度の思惑しかない。


 そのくらいの事は、貴族としての社交の範囲だ。


 誰でもやっている。



 咎められるような事では無い。


 

 でも……。


 まあ…………。


 私の周囲は『国家転覆を企んでいる』と疑われても、仕方ないもので溢れている。


 それもまた、事実だ。






 まずは、私の使い魔────

 私と魔力で繋がっていて、特別な関係にある従魔。


 それが、『ドラゴン』なのだ。



 この国の国教である『ヤコムーン教』では、『ドラゴン』と『吸血鬼』は神の敵であると教えている。 


 ────そのドラゴンを、私は従魔にしている。


 ……まあ、アウトよね。



 氷竜の『フィー』ちゃん。


 私が赤ん坊のころに、いつの間にか部屋にドラゴンの卵があって、孵化する前から私の従魔だった。



 放し飼い状態だったので、ずっと一緒にいた訳ではないが……。

 フィーちゃんは間違いなく、私の従魔だ。



 従魔がドラゴン────


 …………バレれば、死刑だ。






 次に、私の護衛────

 ルドル・ガリュード……。


 こいつは恐らく『吸血鬼』だ。




 私が赤ん坊のころから、彼の顔は変わっていない。

 ルドルは、年を取っていないのだ。


 年を取らない────

 これは吸血鬼の、特徴の一つである。

 


 護衛が吸血鬼……。

 そう疑われるだけでも、かなりマズいことになる。

 

 そんな噂が、広がるだけでアウトだ。

 






 最後に、私の本名────


 私のフルネームは、フィリス・ライドロース・フロールス。


 フロールスというのは、六百年前にガルドルム帝国に滅ぼされた王国の名前である。そして、帝国との戦争に敗れたフロールスの王族や上級貴族は、根絶やしにされたことになっている。


 表の歴史では、そうなっている。




 ────だが、裏歴史では、そうではない。


 ライドロースのお城の書庫には、沢山の蔵書が眠っていた。


 その中には、とても公表できないようなものも多くある。


 私はそれを読み、自分の血筋について知ることになった。

 ライドロース家が帝国に滅ばされたはずの、王家の生き残りであると……。






 帝国の歴史の記述は、帝王やヤコムーン教にとって、都合の良いように改変され

ている。



 ライドロース城に眠っていた書物に書かれていたことが、必ずしも正しいとは限らないが、当時の王家の生き残りの残した日記の内容は、真に迫るものがあった。


 自分たちにとって都合の悪い事を書き残したくないと思うのは、どちらにもあるだろう。


 そういった心理を差し引いて、複数の書物の記述を読み比べて、私は独自に歴史の真相に迫っている。



 フロールス王国最後の総司令官だった『デリル・グレイゴール』が、その知略を用いて、王族を密かに生き残らせることに成功したのだ。


 その末裔が、私という訳だ。




 私は帝国に滅ぼされたはずの、王家の血を受け継いでいる。


 

 滅びたはずの、王家の生き残り────


 これも、知られるとマズい情報である。


 ぶっちゃけ戦争の引き金になる。


 …………。


 ……。







 悪役令嬢は自信たっぷりだ。


 

 あの様子からすると────


 この三つの秘密の内、どれかを掴んでいるからに違いない。



 

 ミルフェラは、私の秘密を握っている。


 だからこそ、私を殺害しようとして、それがバレてもあんなに堂々としていられるのだ。



 …………くっ。


 ……ヤバいわ。




 ────どれだ?


 どの秘密が、知られている────?


 もしかして、全部……?



 私は手に汗握りながらも、それを顔には出さない。


 しかし、内心はドキドキだ。

 


 こんなピンチに陥るなんて────





 どれか一つでも知られていれば、形勢逆転だ。


 私のこれからの人生は、一気に破滅ルートに突入するだろう。




 彼女がどの秘密を暴露するのかを、固唾を呑んで見守る。





 悪役令嬢ミルフェラは、大仰な身振りで私を指さす。


 そして、私の罪を告発した。


「あの小娘は、……恐ろしいことに、『魅了魔法』を使うのです!」



 ……ん?


「────卑劣な魅了魔法を使って、男を片っ端から洗脳しているのです。あいつは、フィリス・ライドロースは…………魅了魔法で洗脳して────男に囲まれ、チヤホヤされて、ふんぞり返っているのよ!!」


 ……何言ってんの、こいつ?

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