黒幕キャラに憧れて〜異世界召喚されたので暗躍することにした〜

よみのみよ

第1章 異世界召喚〜黒幕になるため本気出す

第1話 黒幕キャラに憧れて

 僕は物語の黒幕という存在に憧れていた。

 漫画の影響だったか。作中の描写では主人公陣営の味方のように見せかけていた。しかし実態は主人公達に敵対する組織の盟主であり、温厚で常識的な皆を魅了させる性格は全て虚構で本性は冷酷残忍なものだった。

 作中随一の圧倒的強者。自身の目的のために暗躍する姿。僕もその黒幕とやらに憧れを抱いていた。

 主人公に最期には討たれたいと、そんな黒幕になりたいと夢を抱いた。


 だが現実においての裏切り行為など心底くだらないものだ。

 友人の恋人を寝取る、他人の悪行を密告する、持久走大会でずっと一緒に走ろうぜなんて言うも実際には置いて行く、そんな些細な裏切り行為に過ぎない。

 討たれるなんて叶わない、何故なら犯罪になるから。兎にも角にも現実における裏切りは僕の理想からは程遠い。

 学内から注目を集める人気者の生徒会長は、裏では不良を成敗する喧嘩人だったなんてことや、友人の恋人の相談に親身に乗り恋人を奪ってみても、僕の満足感を満たすことはない。

 

 違う。僕の目指す黒幕とは陰ながら暗躍し最終的には主人公に滅せられる圧倒的強者。

 この平和な現代世界では僕の理想とする黒幕にはなれない。

 そうなれば剣やら魔法やらがある異世界転生か転移するしかないなと結論付けた。


 いつだかに顔も覚えていない振った恋人に鉈で斬り裂かれ僕は絶命した。

 当然の末路だ。

 だが、本来の黒幕は鉈如きでは殺害されない。

 それは僕に能力がなかった、それだけの話なのである。

 僕はその辺の一般人に過ぎなかったのだ。


 そうして僕は見事転生した。

 よもや本当に異世界転生するとは思わなかったが何にしても僥倖だ。


 その辺の貧民街の双子の妹と共に生誕した僕は、幼少期から修行に没頭した。

 僕が第一にすべきことは黒幕として最強の実力を手にするための修行だ。

 日常生活の裏では知識として齧っていた修行を一通りこなし、それに飽きる頃には前世での長編漫画の修行を実際に行ったりもした。

 魔法やら魔力を探究し独学で身に付けることが叶った。しかし、僕には十分な力は手にしていない。

 そのために修行修行修行と、修行に没頭し続けた。


 次にすべきことは主人公に敵対する組織の設立だ。

 そこで僕は秘密結社千年王国ミレニアムを設立させた。

 設立の目的は、裏で暗躍する秘密の組織って凄そう。少数精鋭の謎の集団って憧れる。第三陣営とか何となく良いよね。みたいな趣味嗜好で設立を志した。

 そして、少数精鋭の謎の集団であるから5人から10人程度の仲間が欲しいなと活動していた結果──何やかんやありつつ100名規模の人員を抱える組織へと変貌していた。

 立ち上げ当初は7人であったというのに数は数100人へと膨れ上がり、僕は妙な違和感が残りつつ感慨深さを味わっていた。


 千年王国の構成員は亜人種ばかりであり、尚且つ全てが女性である。まぁハーレムだ。

 別に僕が女性だけと厳選させたわけではない。

 設立当初は若干疾しい気持ちがなかったとは断言しないが、これには千年王国の活動目的に起因する。

 目的は、遥か昔に故郷を滅ぼされ各地に離散した魔女を保護すること──ということになっていた。

 黒幕ムーブが出来ればいいやという曖昧な目的であったが、知らぬ間に魔女を庇護する集団へと変わり果てていた。

 そんなわけで原初の7人は各地を放浪すると勝手に弾圧や迫害を受ける魔女を組織に加入させるものだから、気が付くと構成員の数は増大していた。


 そんな暗い過去を持つ者同士で寄り添い助け合う。皆は友人を超えた家族のように接する。

 彼女達の境遇に同情した僕も時間の合間に魔女を救出するなんてことをやっていれば女性の数は増えるばかり。

 そうして設立から10年が経過すると、繁栄を極めた千年王国は500人程の規模へと拡大していた。

 僕の前世の知識を実用させた科学者や技術者達の手により、当時中世ほどの技術力であった他と比較して僕達は産業革命時期の技術力を有していた。

 

 拡大具合に危機感を覚えた僕であったが、一層拡大しても逆に内部分裂により崩壊しても、またそれは一興だろうと特に気にせず。

 何にしても彼女達の保護者として見守る義務くらいはあるよなぁなどと行末を傍観することにした。


 そんなこんなで組織が隆盛し黄金時代を迎える中。

 友人や構成員からの情報によると世界に反旗を翻す悪い魔女がいるらしい。


 第一に河川の氾濫を起こす強欲の魔女。

 第二に大山の噴火を起こす憤怒の魔女。

 第三に隕石の衝突を起こす傲慢の魔女。

 第四に気候の寒冷を起こす嫉妬の魔女。

 第五に蝗害の飢饉を起こす暴食の魔女。

 第六に疫病の蔓延を起こす色欲の魔女。

 第七に終末の到来を起こす怠惰の魔女。


 そんな7つの大罪に因れた魔女が暴れ回っているらしい。

 千年王国の構成員は境遇から大罪魔女に賛同する者が多かった。奴等に乗じて世界滅亡させようと過激な思想を抱く者は多かった。

 しかし滅亡は駄目でしょと慈悲の心が残っていた僕は、分裂する思想やら立場を一括りにさせ、大罪魔女を討伐する方針とさせた。

 そうして大罪魔女を順調に滅していくとぽっと出の愚者の魔女という裏で暗躍していたらしい黒幕と対峙することになる。


 千年王国の皆が猛反対する中、僕は愚者の魔女と一騎打ちすることになる。

 愚者の魔女は手強い。搦め手が多く一筋縄ではいかない。首を斬り落としても絶命せず瞬時に回復する超速再生持ち。おまけに人を煽るわ逆に褒めるわと戯ける態度が腹立たしい。

 あまりにもウザかったので自身の命と引き換えに奴を確実に葬り去る最終手段を講じることにした。


 命を代償とするのに躊躇いはない。

 元より命やらには執着はない。

 こういった幕引きも一興だろう。


 死に際に意識が朦朧とする中、走馬灯を見ていた。

 修行して組織を立ち上げて魔女を保護して魔女と敵対して。これが僕のやりたい事だったのだろうか。


 ちょっと待て。

 主人公と敵対する黒幕演出をしていないのでは。


 達成感やら満足感は足りない。

 探究心というのか。

 心を充足させる物を見出していない。


 愚者の魔女のような悪逆非道な者と闘って終焉……では僕の信条に反する。僕はそう、正義感に燃え滾るような主人公に討たれるのが本望なのだ。

 だからこの結末は違う。

 まだ死ぬべきではない生きねば。

 相応しい者に討たれて物語はハッピーエンドを迎えねばならないのだ。


 それに溺愛する可愛い妹も心配だ。

 唯一のこの世界の血縁として。

 彼女の未来を見てみたいとも思っている。


 だから、生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい!!!!!


 僕はまだ生きるん──。

 

 ***


 もううんざりだ。


 異世界に転移して愚者の魔女との決戦により死亡した僕は、異世界転移する前と似た世界に異世界転生していた。

 通算3回世界を行き来していることになる。


 比良坂小夜ひらさかさやこと現在の僕は裏で不穏分子やらを始末する治安維持組織に加入させられている。

 倫理観無しの実験施設により人工的に生み出された僕は、政府の駒として邪魔な存在を殺戮し、寿命を延ばすために媚び諂う。

 その裏の反対である表は、平穏な高校生をやらせて頂いていた。


 齢17にして隠居願望がある。

 僕はもう何もしたくないのだ。

 ただ田舎で飼い犬と戯れたい願望しかない。

 黒幕願望?

 もう僕は大人なのだ。

 いい加減、そういうのから卒業する時期が来たのさ。


 「成功したようだな」


 「そのようです陛下。これで我らリュミシオン王国は……人類は救われるでしょう」


 何故だか王様らしき人物と偉そうな人の言葉が理解出来ることはさて置き。

 どうやら僕は、またもや異世界に行き来するらしい。

 今度は天涯孤独の一人旅ではなく僕の学友を引き連れた異世界になるらしく、我らが高天たかま高校2年3組は異世界召喚されてしまったらしい。


 転移前の世界。

 1度目2度目3度目と来て4度目の異世界。

 世界渡りは通算4回。


 隠居願望を謳った後にこの始末だ。

 これはもう、そういった宿命なのかな?

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