第37話 夏休みの過ごし方


 前期試験も迫った七月の半ば、相も変わらず三人でお昼を食べている。榊原さんが

「長田君、夏休みはどうするの?」

「集中講義とサマープログラム。大隅も榊原さんも一緒だろ?」

「そうじゃなくて、それ以外の日。それって八月の終りからでしょ。もう私達知り合ってから三年だよ。皆でどこか行こうよ」

 そういう事か。


「大隅どうする?」

「俺は、グループの課題の事もあるし、バイトもしないといけないしで結構忙しい」

「同じだな。バイトだけ無い事が違うけど」

「じゃあ、長田君私と一緒に旅行行こうよ」

「えっ!二人だけで?」

 何故か大隅がニヤニヤしている。


「いけない?私は長田君なら手出されても良いと思っているし」

「はぁ?」

 とうとう大隅が笑い始めた。


「榊原さん、流石にそれは」

「長田、二股か?」

「おい、何を言い出すんだ」

「えっ、大隅君それってどういう事?」

「いや、何でもない」


 榊原さんが俺と大隅の顔を交互に見てから

「やーめた。誰も付き合っていない長田君なら良いけど、今の大隅君の話だと誰か居るのね。誰?」

「「……………」」


「教えてよ」

「長田教えてやれば。榊原さんなら下手に吹聴しないし」

「まあ、榊原さんならいいか。情報数理四年生の早瀬琴葉」

「えっ!」

 あまりいい噂を聞かない先輩だ。でも噂だけで本当の事は知らない。


「そう、髪の毛の長い綺麗な人だよね」

「うん」

 長田君、また二股掛けられているのかも。でも相手と別れているかもしれないし。


「あの榊原さん何か?」

「ううん。何でもない。じゃあ今年も夏休みはバラバラか残念だな。せっかくの大学の夏休みなのに」



 前期試験も終わり夏休みに入ろうとする一日前に早瀬先輩から

「長田君、夏休みはどうするの?」

「先輩と同じで集中講義とサマープログラムです」

「そっかぁ、じゃあ、その時会えるかもね」


 この人は、授業期間は俺とするけど、休みの日はしない。夏休みも俺と会う気はない様だ。不思議な人だが、あっちに固執しない人なんだな。あの時はとても濃いけど。


 夏休みに入った。集中講義と言っても実際は八月の終りの週だ。サマープログラムも九月に入っての事。


 八月はグループ課題はあるけれどこれも週一回会う程度。俺にとってはガラガラな夏休みだ。やっぱりどこか行こうかな。


 家でぶらぶらしていると父さんが、

「博之、暇なのか?」

「そんなことないけど。特に予定は入れていない」

「そうか、例のファミレスのバイトなんだけどな。店長がお前手伝えないかって聞いて来たんだ。

 なんでもずっと長い間やっていた女の子が辞めたらしくて。お前なら手際知ってるから教える事も無いしどうかなって言って来た」

 山田さんの事なのかな?


「うーん。どうしようかな?」

「シフトは午前十時から午後三時まで。昼はまかないが出るそうだ」

「グループ課題の集まりが週一回あるのと集中講義が八月の終りの週に有る。それと九月の最初にサマープログラムがあるからそこは出来ないよ」

「ちょっと待ってろ。聞いてみるから」


 父さんはファミレスの店長に電話を掛けたようだ。俺の言った事を話すと

「それでいいと言っている。なるべく早く来れないかって」

「分かった。明日から行くよ」


 父さんが電話終わらせると

「店長喜んでいた。時給も前より上乗せしてくれるそうだ」



 次の日から中央区の駅の傍のファミレスに行った。午前十時からなら朝もきつくない。

 店長を訪ねて行くと喜んで皆に紹介してくれた。厨房の人やフロアの人は半分以上が変わっていた。



 厨房の中でまかないというお昼を食べていると見知った人が

「長田君。前一緒に勤めていた山田さん、覚えているかい」

「はい」

「あの子、結構お腹大きくなるまで勤めていたんだ。代わりに君が入ってきたから、もしかしてお腹の子って…」

「違います。彼女とは関係ありません」

「そうか。下衆な想像だったな。悪かった」


 榊原さんの話は妄想だと思っていたけど事実だったか。大学は休学と言っていたけど…。もう俺には関係ない。あそこのアパートにはもういないんだろうな。


 火曜日だけはグループ課題の集まりで大学に行く。PCでグループミーティングという手もあるが、やはり対面で会うというのは違う。早瀬先輩はどうなんだろう。あの人は、自分のプライベートな事は何も話さない。


 体の関係はあるけれど恋人って訳でもないし。付き合ってと言われたけど本人が付き合っているという感じがない。でもこれで良いのかな。重くないから一番いいや。



 美優がまた三日ほど帰って来た。毎日俺がバイトから帰って来てから俺の部屋で夜まで話している。正直に早瀬先輩の事を話したら


「ねえ、こんな事言っては怒るかも知れないけど、博之遊ばれているんじゃないの?」

「遊ばれている?」

「うん、だって自分から付き合ってなんて言った割には、土日は会わない、夏休みも会わないなんて。普通好きな人が出来たら夢中になるじゃない」

 確かにそれは俺も疑問に思っていたけど、気楽だからいいと軽く思っていた。


「博之はその人を恋人にしたいの?変な質問だけど二人の間にそんな感じが見えない」

「うーん。……」


 美優の質問は的を得ている。俺自身が彼女を恋人として付き合って欲しいと思っているんだろうか。もしかしてあっちだけの付き合い?分からないや。


「でも良かった。それなら長続きしなそうね」

「美優は俺の母親か!」

「あははっ、そうかもね」

 なんか、完全に美優に取り込まれている感じがする。こんなに気兼ねなく楽しく話せるなんて。


 それからもまた大学の事、塾のバイトの事、一人暮らしの事なんかを一杯話してくれた。おれも早瀬先輩以外の事も一杯話した。


 そして美優が帰る日、俺はバイトに行く日なのだけど

「博之、自分を大切にしてね」

「美優もな」

「うん、約束は守るっているから」

「そうか」


 抱き締めたい。でもそれしたら…。


 抱き締められたい。でも我慢しないと…。


 美優はお昼に母原の駅から特急で帰るそうだ。仕方なく朝午前九時に美優と別れた。彼女はちょっと寂しそうだけど一杯作り笑いしていた。


 それからも週一回のグループの集まりとバイトの生活は八月の最終週前まで続いた。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。

「僕の花が散る前に」

https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867

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