第33話 消えて行った幸せ
それからも綾の二週間に一回の東京通いは続いた。そして前期試験も終わり、明日から大学は夏季休業という夏休みに入る。
でも三年生、四年生は夏季集中講義とかサマープログラムとか沢山のレポートがあるから休みはほとんど無いと先輩が言っていた。
今年の夏休みはどうするか考えていると綾が
「博之、今年もファミレスのバイトやるでしょう」
「うーん、どうしようかな。やる意味ないし。遊びに行きたいのが本音。来年からは遊べないし」
「えーっ、やる意味有るよ。私とずっと一緒に居れるよ」
「それは嬉しいのだけど」
最近、綾の様子が明らかにおかしい。夜中にスマホで話をしているし、あっちも前より積極的で無い。
俺の方が逆に不満な時も有る位だ。綾は東京に行くようになってからとても変わった。洋服の趣味もお化粧の仕方も。
それを大隅に言ったら、間違いなく男が出来たんだと言っていた。でも東京の子は高校の時の仲のいい友達…。えっ、女の子とは言われていない。
綾に限ってそんな事は無いと思っていた。でも最近の綾乃変わり様はそれを裏付けている様な気がする。
いくら鈍感な俺でも分かる。でも証拠も何も無い。東京までストーカーなんて出来ないし、俺が迷子になるのが落ちだ。
俺は、アパートで夕食が終わると
「綾、夏休みになっても東京へは二週間に一回行くの?」
「うん、ごめんね。友達が色々言って会いたいって言うから」
「そうか。俺は実家に帰るよ。後期が始める前に帰って来る」
「えっ、ここの家賃は?」
そこが心配なの?
「払うよ。明後日には帰るから」
「ねえ、博之、一緒にバイト出来ない?私、博之と一緒に居たい。いままでずっと居て急にいなくなるのは寂しすぎる」
今、ここで博之を帰したら戻ってこない気がする。それは私の心の底から出てくる思い。
「俺もそう思いたいけど。お互い少し時間空けた方が良いんじゃないか?」
「どういう意味?」
「別にそのままの意味。俺も一人の時間が欲しいから」
そして、俺は洋服のほとんどと教科書と言っても教授から買わされた本と指定の本んを持って実家に帰った。
家に帰って夏休みの間、ずっと居ると言ったら両親がとても喜んでくれた。
博之が実家に帰って行った。二ヶ月は会えない。前だったら何も問題なく一緒にバイトしてくれる雰囲気だったのに。
調子に乗って勝君と会い過ぎたのか。あの言い方は明らかにバレている感じ。でもここで別れたら…。不味い。絶対に不味い。色々な意味で不味い。
勝君と会うのを当分止めて彼が帰って来る迄、ずっと我慢したら戻れるかな。
私は、その日の内に勝君に夏休みの間は会えないと言った。でも勝君もバイトが昼になるから会う時間が無いと言ってくれたので、そのまま過ごすことにした。でも寂しいだろうな。博之にも勝君にも会えないなんて。
俺は、実家に帰ってから美優に連絡すると塾で夏期講習があるけれど、八月の半ば二週間位は休めるから帰れると言って来た。
別れたはずなのに俺から美優に連絡取るなんて…。でも幼馴染には戻ろうと言ったんだから。
勝君は二週間も経たない内に連絡が有った。それも午後四時に。
『綾、やっぱり会いたい。今から会えるか?』
『どこいるの?』
『綾のアパートの最寄り駅の改札。ここから先は分からない。マップ使ってもいいんだけど居ないと困るから連絡した。迎えに来て』
『分かった。直ぐに行く』
夏休みの間、会わない、我慢すると言っていたのにまだ二週間。でも向こうから来られたのではどうしようもない。
迎えに行くとスポーツバッグを持っていた。
「綾」
「勝君、急にどうしたの?」
「綾に会いたくて」
「そのバッグは?」
「少しの間、一緒に居れればと思って」
勝君には博之と一緒に暮らしている事は言っていない。来られたら絶対に不味い。
「ごめん、来てくれたのは嬉しいけど、友達と一緒に住んでいるの。勝君を泊まらすことは出来ない」
「そうか、彼氏と一緒なのか?」
「えっ!」
「知っているよ。大方予想は付いていた。今も居るなら帰るよ。でも居ないなら今日だけでいいから泊めてくれないか?明日帰る」
帰した方が良いとは分かっている。でも勝君を見たら、帰れとは言えなくなった。
「分かった」
後は…。お決まり通りだった。
俺は、美優が帰って来てから一杯色々な事を話した。今の状況も素直に話した。少しがっかりした様な顔をしたけど、大学卒業の時いないならいいよとまるで別れる事が前提の事を言われたので怒った振りをしたけど、もう半分事実かもしれない。
他にも大学の授業の事や出来た友達の事も一杯話した。美優も今の生活や大学の友達や授業の事等一杯話してくれた。
でも決して美優を抱く事はなかった。美優がしたいのは分かっている。だから素直に聞いたら、大学卒業まで彼氏も作らないし俺とも我慢すると言われた。
美優はそんなに我慢強かったっけと聞いたら冗談で頭を殴られた。今の美優は俺より余程我慢強い人間だ。俺なんか…。
二週間毎日会っていても飽きる事も無い幼馴染を東京まで送って行くことにした。美優はいいよと言ったけど、時間は一杯あるからと押し通した。
俺は東京駅が広すぎて迷子にならない様に美優が乗り替える山手線迄送ったけど、東京駅の人の多さには流石に驚いた。
東京から電車で帰っている時、急に思いついてアパートに寄る事にした。美優と会っていたからかもしれないが、綾の顔を見たくなった。
時刻はまだ午後五時だ。少し寄ってからでも、実家には午後七時には戻れる。実家に戻ってから二週間。綾があのままなら良いと思ってアパートの鍵を開けると、えっ?中から綾と知らない男のあの時の声が聞こえて来た。
「勝君、もっと、もっとぉ、気持ちいいーっ」
「綾、俺もだ。行くぞ」
「うん、来てぇ」
明らかに綾の部屋からだ。思い切ってドアを開けると
「えっ!」
男と女が行っている顔を見てしまった。最悪だ。
私は頂点に達しながらもドアが開けられた音がしたので、ぼんやりとした意識の中で空いたドアに立っている男を見た。
「博之…」
「誰だ、お前は。いきなりドアを開けて!」
「綾、そいつが仲のいい友達か。確かに仲がいいな。さよなら山田さん」
俺は、綾の部屋のドアを思い切り閉めるとアパートを出た。勿論鍵なんか掛けない。
駅に向かいながら、頭の中で怒っている自分と泣きたい自分と情けない自分がぐちゃぐちゃになっていた。
「博之…」
私は冷めきった意識の中で、今、そしてこれからどうすればいいのか全く分からなかった。勝君は、何が何だから分からない顔をしている。情けない事にお互い素っ裸だ。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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