第32話 狭間の中で
私は勝君からの突然の連絡に調整すると返事した。今度の土日ではあまりにも急すぎる。こちらの生活サイクルを戻した状態で勝君の事を考えれば良いと思っていた。
せめて一ヶ月後であれば、長田君との生活の中で隙間を作る事も出来る。勝君との関係はそんな程度に考えていた。
でも彼は違う様だ。何とか我慢して欲しいと言ったけどこっちに来ると迄言って来た。住んでいる場所は教えている。突然来られたら全てが終わってしまう。
三限目の授業は耳に入らずに一コマ空いて五限目の授業を受けてからバイトに先に向かった。バイト先は隣駅から三分の所にある。
勝君の事を考えて仕事すると要らぬ間違いを起こすので取敢えず頭の中から消した。
午後九時になり、まだ仕事をしている人に挨拶してから更衣室で着替えて外に出た。外では長田君が待っていてくれる。
「綾、お疲れ様」
「うん終わったよ。博之」
「帰ろうか」
「うん」
毎日午後九時にバイト先に迎えに来てくれる博之が居るのに私は勝君と会おうとしている。人間としては最低なんだろうな。
長田君とは別れたくない。でももう少し勝君とも会っていたい。
「博之」
「何?」
「ううん、アパートに帰ってからにする」
「そうか」
綾がさっきから悩んだ顔をしている。お昼に会った時は、こんな顔をしていなかった。何か有ったのかな?
バイト先の駅から三つ目がアパートの最寄り駅。近いというのはとても便利だ。着くと
「博之、直ぐに夕飯の支度するから」
「うん」
俺は、自分の部屋で出された課題をやっていると
「博之、ご飯出来たよ」
直ぐにダイニングに行く、と言ってもドアを開けるだけだけど、席に座った。
「今日は、牛肉の切り落とし野菜炒めと卵焼き。野菜沢山のお味噌汁だよ。箸置きはスーパーの漬物」
「いつもありがとう。とっても助かるよ。俺なんかとても作れない」
「ふふっ、召し上がれ」
彼女の料理はとても美味しい。腹八分がいいとは思うのだけどいつも一杯食べてしまう。寝るのが午前時零時半位だから問題無いと思うけど。
ご飯食べ終わると綾が
「博之、GWで実家に帰っていた時、高校時代の仲のいい友人と会ったの。その子は東京の大学に行っていて、偶には会いたいと言って来たので、良いよって言ったら、直ぐに今週の土日どちらか会いたいなんて言って来て。でも土日私いないと博之困るし。悩んでいる」
そういう事か。でもそんなに悩まなくても。
「綾、全然悩まなくていいよ。大切な友達だもの。会って来なよ。俺も日曜日はゆっくり帰って来るから。午後三時位に戻れば、買い物も一緒に出来るだろう」
「ほんと、嬉しい。私、土曜日は洗濯して掃除したら出かけるから。日曜には私も午後三時には戻っている」
「じゃあ、そうしようか」
俺は、土曜日の朝、午前九時にアパートを出て実家に向かった。綾と今の様になってからは、洗濯物は土曜日一緒に洗って貰っている。
実家に自分で洗濯物を洗うから土日は帰らないと言うと母さんが心配していたけど。今日は帰ると言ったら喜んでいた。
私は、土曜日の朝、洗濯してキッチンやダイニング、それに自分の部屋を掃除すると勝君の待つ東京駅に向かった。東京駅はあまり知らないのでホームで待合せ。四十分位で着いた。
乗る車両は言って有ったので電車を降りると目の前に勝君が立っていた。
「綾」
「勝君」
後は彼に任せた。東京の電車の乗換えなんて全く分からない。それにずっと地下鉄。電車を降りて外に出ると全く違った景色が有った。
「うわーっ。途中から地下に入ったから全然分からない内に着いたね。ここって渋山だよね」
「うん、お昼はここで食べてそれから俺のアパートに行こうかなと思って」
「分かった」
私は大学のフードコートかスーパーで食材を買って調理して食べるからとても新鮮だった。
「素敵なお店ね」
「うん、綾と食事する時は何処で食べようか考えていたんだ。これからもっと色々なお店に行けるよ」
「うん」
それは、勝君と良く会うという意味だ。曖昧な返事しか出来ない。
彼のアパートは渋山からまた電車に乗って二十分。歩いて十分の所に在った。駅の周りは賑やかだけどここまで来れば閑静な住宅街だ。
「へーっ、とても静か」
「ああ、この辺は住宅街だからな。さっ、入ろうか」
勝君は部屋に入るなりいきなり私を抱いて来た。
「綾、会いたかった。とっても会いたかった」
ゆっくりと洋服を脱がされるとそのまま夢の世界に入ってしまった。また何回も行ってしまった。博之とは違う感覚。理由は分からない。もう四時間もしている。
「勝君、夕飯は?」
「うん、一度シャワー浴びてから近くのお店で食べよう」
「分かった」
シャワーを浴びた後、外に出た。まだ明るい。
「美味しいラーメン屋とお魚の干物を食べさせてくれるお店が在る。他に焼き肉とか、ハンバーグとか日本食とか一杯あるけど、今日は綾と少しでも一緒に居たい」
「うん、私も」
一時間位で夕食を終わらすとアパートに戻った。そして勝君はまた私を夢の世界に連れて行ってくれた。
堪らないこの感覚。長田君も大事。でも勝君とはずっとこうして居たい。
結局、夜遅くまでして、そのまま寝て、朝起きてまたした。午前十一時にやっと勝君が
「そろそろ、帰らないといけないだろう。シャワー浴びたら帰りなよ」
「うん」
勝君の言葉の裏に長田君の事が暗に込められているのが分かった。そして東京駅まで送って貰って別れる時
「綾、今度はいつ会える?」
「勝君、私も一杯会いたいけど…二週間に一度が限界。ごめんね」
「いいよ。綾の都合もあるだろう」
「うん、ごめんね」
それから七月の半ばまでずっと二週間に一度会っては、思い切り抱いて貰った。抱いて貰っている時は長田君の事を忘れた。
綾は、GWの後の土日、東京にいる高校時代の仲のいい友達と会うと言ってから、その後は二週間に一回出かけている。最初は気にもならなかったけど、段々違和感が出て来た。
本当は土曜日の夜、ゆっくりと楽しんでいた事を二週間に一回は日曜日の夜やる様になった事だ。それだけならまだいいけど、している時の綾の反応が段々変わって来た。
最初の頃はとんでもなく激しく喘ぎながら喜んでいたのに、最近はちょっと事務的。喘ぎ声も本当に気持ち良くて出ているのか良く分からない。日曜日は東京に行って疲れているからかな?
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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