第19話 何故か一緒に居る女子

 

 俺は、初日に知り合った榊原美里さんと大学ではいつも一緒に居る。俺の彼女でも無ければまだ友達と言えるほどの関係でもない。そして俺が一緒に居たい訳でもない。


 でも教室で俺を見つけると傍に寄って来るのだ。断る理由も無いからそのままにしているけど。


 俺達の学部の一年生が受ける基礎科目の単位を取る為には、どうしても履修科目と授業時間が固定化していてそこ以外選択できないのだ。

そんな彼女が二限目が終わった後、

「長田さん、偶にはアエラカフェの方で食べませんか?」

「うーん、行った事無いしなぁ」

「じゃあ、行って見ましょうよ」


 心配なのはコスパが合っているかだ。結構食べる年頃なので格好つけた食事は出来ない。でも行きたいというので

「いいですけど」

「じゃあ行きましょう」



 アエラカフェに入るとやっぱり女性好みの素敵なイングリッシュカフェだ。メニューを見ても俺のお腹を満たすボリュームの料理は無い様だ。

「綺麗なカフェですね。女性向ですね」

 

 暗に俺には合わないと言っているのだが、

「ふふっ、そうですね。偶にはこちらにしましょうか」


 頭の中で次は断るぞと思いながら上品なペペロンチーノスパゲティを食べた。どう見ても女性向き、俺のお腹は半分位だ。でも二つ頼める程、俺の懐は豊かでない。バイトでもしようかな。


 半分しか一杯になっていないお腹を思いながら、次の授業は四限目だ。後でフードコートに一人で食べに行くかと考えながら

「俺、図書館に行くので」

「あっ、それなら私も」


 結局、一時間近く一緒に居られてフードコートに行けなかった。それ以来、アエラカフェには、もう行く事は止めた。


 榊原さんが行くと言っても一人でどうぞと言って断った。でも彼女は頬を膨らましながらもいつのフードコートに付いて来る。アエラカフェに行きたければ一人で行けばいいのに。

 


 そんな中、知り合った男子が居た。大隅誠おおすみまこと、身長百七十五センチ位。緩い天然カール気味の跳ねた髪の毛を目の近くまで垂らして耳にピアスをしている男子。見掛けと違い勉強には真面目。


 榊原さんと俺が受けていた授業の時、偶々俺の隣に座って声を掛けて来た。その後昼食とか一緒に摂って話をしている内に仲良くなって何故か三人で居る様になった。



 もうGWも過ぎた。この大学は二ヶ月毎に履修登録をする。前期後期で一回ずつで良いのにと思いつつ、もうすぐ第二タームの履修登録をする時期になった時、何とか榊原さんと授業時間をずらそうと第一タームの時取っていた初修外国語を途中で止めて英語授業集中を選択したのだが、何故か授業当日


「あれ、長田君も?」

「おー、長田一緒か」

 もう人間諦めが肝心と悟った。でも俺が居ない時、


「大隅君、あなたの言っていた事当たったね」

「榊原さん、これだけ毎日一緒に居れば長田の頭の中は分かるさ。でもそんなに長田の事を?」

「とりあえずねーぇ」

 どういう意味なんだ?



 何故俺の履修変更がバレたから知らないがそのまま第三タームも過ぎてもうすぐ夏休みに入ろうとした時、大隅が

「長田、夏休みはどうする?」

「悪い、バイト」


 あり得ない事を言ったけど、榊原さんが大隅の後ろに付いている感じがして断ろうとすると

「そうか、でも一日か二日は空くだろう。一緒に海とか山とか行かないか?」

「うーん、厳しい。夏休み稼いでおかないと後期が厳しくてな」

「そうか、分かった」


 そんな話をしていると榊原さんが、

「ねえ、長田君のバイトって何するの?」

 

 また厳しい事を聞いて来る。仕方なく

「ファミレス。でも場所は教えない」

「なんで?」

「働いている所を見られるの恥ずかしいから」

「そんなことないよ」

「とにかく駄目です」



 §大隅

 結構長田の奴、榊原さんを拒否しているな。理由は分からないけど、俺が榊原さんにアプローチしても良いって事か。


「榊原さん、長田には色々事情があるみたいだから、それ以上の聞くのは止めましょう」

「えーっ!」



 §榊原

 この夏休みを利用して長田君ともっと深い仲になりたかったのに。でもこれだけ拒否しているって事は長田君の家の事情で結構複雑なのかな?



 俺は、家に帰ってから母さんに

「母さん。夏休み、どこかのファミレスでバイト出来ないかな?」

「えっ!博之。お金に困っているの?何か欲しい物でも出来たの」

「そんな事は無いんだけど」

「博之、あなたが地元の国立に入ってくれたおかげで、準備して有った学資保険とか一人暮らしの準備金はほとんど使わずに済んでいるのよ。お小遣い足らなければ言いなさい」

「ありがとう」


 困ったな。本当の理由を言うしかないか。でもここで貯めておけば、今後時間が出来た時に利用できるし。

「うん、将来の為に時間のある今のうちに貯めておこうかと思って」

「分かったわ。お父さんが帰って来たらもう一度話ましょう」

「うん」


 父さんが帰って来た午後八時、食事中の父さんに

「ねえ、父さん。俺夏休みバイトしたいんだ。ファミレスで」

「どうした。何か金に困る事でも起きたのか?」

「ううん、来年か再来年、もしかしたら来年の春休みの時、どこかに行きたくなるかも知れないからその為に」

「今からその準備か?」

「うん」


 お父さんは食事を止めて腕を組んで考え込んだ後、

「お父さんの知合いにファミレスの店長をしている人が居る。ちょっと話をしてみる」

「ありがとう」


 それから数日して、お父さんの仕事をしている県庁所在地の駅から数分の所にあるファミレスで夏休み限定でアルバイトを募集している事が分かった。


 時期は八月初日から八月末まで。前期試験をミスらなければ問題ない。夏休みは九月末までだ、その後は遊べる。丁度いい。


 前期試験が終わった日に榊原さんと大隅にまた後期からと言ってさよならした。三人共帰る方向が違う。気付かれる事は無いだろう。



 榊原さんと大隅の会話

「榊原さん、夏休み一緒に遊ばないか?」

「うーん、お誘いは嬉しいけど、高校時代から付き合っている彼が居るからごめんね」

「えっ!そうなの?俺はてっきり…」

「ふふふっ、残念がら大隅君の想像とは違うわ」

「そっか、じゃあ仕方ないな」

「うん、また後期ね」

「ああ」


 §榊原

 ごめんね、大隅君。高校時代から付き合っている彼なんていない。もうとっくに別れたの。

 今私が気になっている人は長田君。まだ大学に入ったばかりゆっくりと彼に近付くわ。先ずは友達からね。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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